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ムハンマドが登場し、イスラムが誕生する

570年頃、ムハンマドがメッカに生まれました。ムハンマドは商人の家に生まれ、25歳で裕福な未亡人ハディージャと結婚します。40歳の頃、ムハンマドはメッカ郊外のヒラー山で瞑想中に、何か圧倒的な存在に気付き、背後から息もできないほど締め上げられると、知らず自らの口から聖典の最初の数語が流れ出ました。天使ジブリール(ガブリエル)を通じた「神のメッセージを伝えよ」との命令です。

このムハンマドが神の言葉として教えたのがイスラム教で、イスラムとは神に服従するという意味です(※)。教えに帰依した人をムスリムと呼び、アラビア語女性形ならムスリマとなります。(※…イスラムは宗教という意味を含むので「イスラム教」でなく「イスラム」と表記する例も多くあります。神がムハンマドに下した言葉がアラビア語であるので、よりアラビア語に忠実に「イスラーム」と表記する研究者も多いのです。)

ムハンマドの教え、イスラム教の教えとは

ムハンマドはしばらく親しい友人や近親だけを相手に説教していましたが、新たな啓示が次々に下ると、メッカ中の人々に教えを説くようになりました。

ムハンマド曰く、「アッラーこそが唯一の神で世界の創造主。アッラーに服従し、個人が誰でも公正平等に富を分かち合い、孤児・寡婦など弱く虐げられやすい者を大切にする共同体を創るのが正しい道である」と。アッラーというのは、ただ一つの神という意味です。イスラムに特異な神ではなく、「人類にユダヤ教そしてキリスト教をくださった同じ神が、イスラム教という最新にして最高にして最後の宗教をくださった」というのがイスラム教の認識です。

ムハンマドは最後にして最大の預言者であり、イスラム的にはムハンマド以降には預言者は存在しません。また現れることもありません。ムハンマド自身がそう語っています。

ムハンマドのメディナ移住が、イスラム暦の紀元となる

富の独占などを批判され反発したのが、巡礼観光などで儲けていたメッカの指導者たちです。ムハンマドは弾圧され、信徒たちとメディナへ逃れました。このムスリムのメディナ移住をヒジュラ(聖遷) と呼びます。622年のことです。この年はイスラム暦(ヒジュラ暦)の紀元となりました。

ヒジュラをムスリムが重要視するのは、これでイスラム共同体(ウンマ)が成立したからです。ヒジュラ以降、ムハンマドは説教師であるにとどまらず、法律・政策を決定し、あらゆる社会生活の指針を裁定する、従来のアラブでは考えられなかった部族や性別によらない公正な共同体の指導者となったのです。後世のムスリムは、この最初のウンマをイスラムの理想と見なすようになります。

ムハンマドは、メッカで最後の説教をとなえ没した

メッカの指導層は、大兵力でメディナのイスラム教徒たちを攻撃しました。しかしムハンマド指揮下のムスリムたちは数で劣りながらも勝利を収めました。

すると情勢は一変、イスラムへの改宗者が激増します。そして後にムハンマドはメッカ無血入城を果たし、カアバ神殿の偶像を破壊、ムハンマドはこの神殿を世界で最も神聖な場所だと宣言しました。ヒジュラ暦10年(632年)、再びメッカに巡礼し最後の説教を終えメディナに戻るとムハンマドは病没します。その頃までには、アラビア半島の大半をイスラム教徒が支配するようになっていました。

ムハンマドの時代の中東を地図で把握する

イスラム誕生前夜の中東地図~ビザンツ帝国とサーサーン朝ペルシャの勢力圏、交易路~

※拡大できます

ムハンマドの時代・イスラムの夜明けのキーワード

クルアーン(コーラン)

最後の預言者ムハンマドが、大天使ジブリールを通じ預かった神の啓示です。114の章からなり、章句はメッカ時代のものとヒジュラ後の啓示に分類されます。編纂(結集)は、ムハンマド没後の正統カリフ代。アラビア語で書かれています。イスラム法(シャリーア)の第一の法源です。

スンナ

ムハンマドの言行。その伝承=言行録がハディース。クルアーンに次ぐイスラム法の法源です。
たとえばムハンマドはヒゲを蓄えたので、ムスリムの男性はヒゲを生やすことが推奨されます。没年、最後の説教でムハンマドは「すべてのムスリムの生命と財産を神聖なものと認識せよ。奴隷も含めたあらゆる人間の権利を尊重せよ」「男が女に対して有するのと同等の権利を女も男に対して有することを認めよ」「ムスリムのあいだでは、その徳による以外に人間の価値に高低はないことを肝に銘ぜよ」と聴衆に説きました。

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また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。

掲載している国・地域

イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア

【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)

福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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