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クルディスタン地域政府(KRB)が発足するも独立の夢は破れる

オスマン末期、動乱に揺れる1920年には第一次大戦の講和条約として結ばれた連合国・オスマン帝国間のセーブル条約でクルド人の独立が明記されました。しかしトルコ半島に侵入してきたギリシャ軍らとの戦争に勝ったケマル・アタチュルクは同条約を破棄しました。

その結果、クルド人の独立は夢に終わることになりました。ケマルの新生トルコ共和国は民族・文化の均質な統一国家を目指し公の場でのクルド語の使用を禁止、以降トルコ国内にクルド民族は存在しないとする抑圧政策を取っています。80年代には国が非合法武装組織と認定するクルディスタン労働者党=PKKが独立を目指しゲリラ闘争を開始しました。現在はイラクやシリアに拠点を構えています。

クルド人が国を持ったのは、わずか1年弱

短期間ですがクルド人が国を持ったことはあります。ソ連軍がイラン北部を占領していた45年末、西部のクルド人地域でマハーバードを首都とするクルディスタン人民共和国が成立したのです。しかし翌年ソ連撤退の後イランが攻撃、1年弱の国運は尽きました。

近年のクルド人問題は、不透明なまま

イラクでは60年代から断続的に反政府武装闘争が繰り広げられましたが、91年湾岸戦争後に当時のフセイン大統領がイラク北部の統治を事実上放棄、2003年イラク戦争の後、05年新憲法においてクルディスタン地域政府=KRGが広範な自治を認められました。外交・国防などは中央政府の独占的権限とされましたが、KRGは一部踏み込んだ独自政策を行っており、おおむね事実上の国家と言えそうです。

17年にはイラクからの独立を問う住民投票を行い、投票率72・16%、独立賛成92・73%もの独立支持を得ますが、反発する中央政府が中東有数の油田キルクークを奪還、中央政府からの予算配分を失いました。また各国の反対もあり独立方針は撤回しています。

クルド人の未来

クルド人はついぞ民族統一の解放戦線をもちませんでした。各国の民族主義組織や部族は反目し合ってときに争い、周辺国は自国クルド人を弾圧しつつ隣国のクルド人組織を支援米ソもその時々に地域のパワーバランスに都合のよい組織を支援しました。22年ロシアによるウクライナ侵攻後には、トルコがフィンランドとスウェーデンのNATO加盟をPKKなどへの支援を理由に反対しました。いまだクルド人の未来は不透明なままなのです。

クルディスタンの広がりと各国の主な民族主義組織

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福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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