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印旛沼の堀割工事は江戸時代に3度も実施された!

この水害を減らすには、とにかく印旛沼から東京湾(江戸湾)へと水を逃がす水路を開削する必要があります。そして水害を減らせれば、水害を想定して田畑をつくれなかった地域を耕作地として開発することもできるため、印旛沼の堀割(水路)をつくる工事は、実際に享保、天明、天保と、江戸時代に3度も実施されました。

【印旛沼の堀割工事①】享保の堀割工事

1724(享保9)年、8代将軍・徳川吉宗は享保の改革の一環として、民間での新田開発を奨励していました。この機に乗じて平戸村(八千代市)の名主・染谷源右衛門(そめやげんえもん)は印旛沼の新田開発を願い出て、平戸橋から検見川浦まで水路を開削する計画を立てました。源右衛門は私財をなげうって事業を行いましたが、ついに資金が尽き、工事は頓挫してしまうのでした。

【印旛沼の堀割工事②】天明の堀割工事

天明年間の堀割事業は、幕府老中・田沼意次(たぬまおきつぐ)の肝いりで開始されました。

惣深新田(そうふけしんでん)(印西市)の名主・香取平左衛門(かとりへいざえもん)と島田村(八千代市島田)の名主・信田治郎兵衛(しのだじろべえ)が開発人となって1782(天明2)年に着工したところ、翌年には浅間山が大噴火し、流出した火山灰で川底が上昇。工事は一時中止を余儀なくされました。

さらに折悪く、1786(天明6)年には関東一円が大豪雨に見舞われ、利根川は徳川幕府始まって以来という大氾濫を起こし、工事中の場所はことごとく破壊されてしまいます。

そして同年に田沼意次が失脚すると、開削工事は完全に見送られることになりました。

【印旛沼の堀割工事③】天保の堀割工事

天保期の開削は老中・水野忠邦が主導しました。1843(天保14)年、忠邦は沼津藩、庄内藩、鳥取藩、貝淵藩、秋月藩の5大名に普請の手伝い(と資金の供出)を命じました。しかし、同年に忠邦が失脚すると、やはり工事は未完成のまま中止に。

このように江戸時代に行われた堀割普請は、ことごとく失敗に終わったのです。

印旛沼が東京湾につながった!昭和の大開削事業

印旛沼の開削事業が本格的に実施されるのは、第二次世界大戦後の1947(昭和22)年まで待つことになります。

国が主導し、江戸時代とは異なり重機が導入されたものの、それでも平戸川と花見川をつなげるまでには20年以上の長い歳月を要しました。1966(昭和41)年には、平戸川と花見川の分水場である大和田(八千代市村上)に排水機場が設けられ、ようやく印旛沼は東京湾につながり水害の心配がなくなったのです。

染谷源右衛門が事業を興してから、じつに250年後に実現した工事でした。

印旛沼の開発前後の姿

印旛沼の開発前後の姿

印旛沼開発事業は、印旛沼放水路の開削と広大な干拓地の造成からなり、1969(昭和44)年に竣工。印旛沼は南北に分かれ、開発前(昭和20年頃=薄い水色部分)と現在(濃い水色部分)とでは形状が大きく変わりました。

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