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空海が開いた真言宗~真言宗の究極の目的、基本とは

密教は「仏も人も本質的には同じであり、人は誰しも生まれながら仏性(ぶっしょう)(仏になれる性質)を備えている」と考えます。自分自身がすでに仏であることに気付き、仏と一体になるための修行を積むことで、現世利益(げんぜりやく)(仏の恵を授かり、生きている世界で幸せになること)が得られるという教えです。

密教の真髄は言葉や文字で表すことが難しいため、感覚的に理解する必要があります。知識として理解するのではなく、自分なりに解釈して行動に移すことに重きを置いているのです。

真言宗の究極の目標は、即身成仏

空海は「仏と人はもともと一体なので、生まれ変わらなくても仏に成れる(即身成仏)」と説明。自著の『即身成仏義(そくしんじょうぶつぎ)』では、「密教の教えに従って修行をすれば、この世のうちに仏に成ることができる」「即身成仏できるのは密教だけ」と主張しています。

真言密教の究極の目標は即身成仏で、それを実現するために教相(きょうそう)と事相(じそう)があります。空海は「自分自身の中にある仏の心に気付くこと」「気付きを行動に移すこと」の重要性を繰り返し説いており、真言宗では「教相(きょうそう)(経典に書かれた教え)」と「事相(じそう)(行動、実践)」が必修となっています。

教相の理論によって密教の道を知り、この道を実際に実践するのが事相という関係です。教相と事相は車の両輪に例えられ、一体無二といわれます。空海は実践を重要視していましたが、密教の「実践」とは具体的にどのようなことをするのでしょうか。

真言宗の全ての基本となる三密加持

密教ではさまざまな修行を行いますが、全ての基本となるのが三密加持(さんみつかじ)です。

手で印を結ぶことが「身密(体)」、口で真言(しんごん)(人の言葉では表現できない仏の言葉)を唱えることが「口密(口)」、大日如来(だいにちにょらい)と同じ瞑めいそう想の境地に入ることが「意密(意識)」です。

加持とは、仏からの働きかけ(加)を行者が受け止める(持)ことをいいます。空海は「三密を一致させ、仏からの働き掛けを受け止めることができれば、この身のままで仏に成れる」と解説しています。体と言葉と意識を一致させ、三摩地(さんまじ)(精神を一点に集中する瞑想)を行うことは、密教の重要な修行の一つです。

真言宗の実践、印と真言

密教では「印を結ばなければ、三密加持(さんみつかじ)を修めることはできない」とされています。印とは、手の指を組み合わせて仏の真理(悟り)を表したもの。右手は仏、左手は人を意味し、10本の指を交差させて印を結ぶことは仏と人を結び、仏と人が一体化することを表しています。

印は真言と合わせて結ぶものであり、印を結んで真言を唱えることは悟りに近付くことです。密教の印は師から弟子に直接伝授されるもの。印を結ぶ時は人に見せることはせず、袈裟(けさ)や清らかな布で手元を隠して行うのが習いです。

真言とは、大日如来(だいにちにょらい)の教えを説いた真実の言葉という意味です。真言は如来(にょらい)や菩薩(ぼさつ)など仏ごとに存在し、梵字(サンスクリット語を表現するための文字)1文字が仏そのものを表しています。

空海が開いた真言宗~真言宗の曼荼羅、仏とは

密教を経典や注釈書だけで理解するのは困難なため、大宇宙の本質を仏の配置で表現した曼荼羅(まんだら)で把握します。

曼荼羅とは密教の教えを視覚的に表現したもの。空海が経典とともに唐から持ち帰ったもので、御請来目録(ごしょうらいもくろく)では「密教の教えは非常に奥深く、文章で伝えるのは難しい。このため図画(曼荼羅)を用いて、まだ悟りを開いていない人たちに開示するのだ」と説明しています。

胎蔵界曼荼羅は、大日如来(だいにちにょらい)を中心に密教の仏が全て集まった集合図です。一方、金剛界曼荼羅は、大日如来の智慧を表現したもの。9種類(九会)の曼荼羅で構成されており、衆生が悟りに至る過程と大日如来が衆生を救済する過程を表しています。

密教の本尊である大日如来

日本でよく見られる仏は、「如来」「菩薩」「明王」「天」の4種類に区分されます。

「如来」とは悟りを獲得した仏のことで、密教では大日如来を本尊としています。「菩薩」は悟りを求める者。如来となるための修行を積みながら人々を救済しており、すでに悟りを開いているが人々の救済を続けるためにあえて如来にならず、この世に留まっている存在です。

「明王」は密教独自の尊格(そんかく)(種類)であり、大日如来の命を受け、人々を正しい教えに導き救うという役割を担っています。「天」は、バラモン教やヒンズー教など古代インドの神々を仏教に取り入れたもので、神々が仏教に帰依して天になったといわれています。如来や菩薩の眷属(けんぞく)として仏を守るとともに、その仏を信じる人を救い守る存在です。

真言宗の修行・護摩行

護摩行(ごまぎょう)は密教の修法(しゅほう)の一つ。大日如来(だいにちにょらい)の智慧の火で煩悩を焼き払います。

一般的には加持祈祷(かじきとう)と同一視されることが多いのですが、密教では「加持」と「祈祷」を区別しています。加持とは大日如来の慈悲と衆生の信仰心が一つになること、祈祷とは仏に自分の願いや意志を届けることを指しています。護摩行は「護摩壇(ごまだん)に設けられた火炉(かろ)に護摩木(ごまき)を焚(た)き、火の前で祈祷する修行」であり、護摩祈祷とも呼ばれます。

もともとはバラモン教の「供物を火中に投げ入れ、天の神々のもとに運んで供養する」という祭礼でしたが、紀元前5世紀ごろに仏教と融合。密教の教えの中で発展し、現在の形となりました。日本の仏教宗派の中で護摩行を執り行なうのは真言宗と天台宗だけです。

『スッと頭に入る空海の教え』好評発売中!

真言宗の開祖であり今も「お大師さま」として多くの人から信仰を集める空海。天才であるが故に数多くの挫折や苦悩を経験しながら、当時まだ新興勢力にすぎなかった密教をいかにしてこの世に広めたのか、そこには現代にも通じる社会を生き抜くための知恵が隠されています。本書は、謎の多い空海の生涯と思想をひも解きながら現代社会を生き抜くための行動の指針や考え方のヒントを紹介していくものです。

1.空海の行動から見る教え~空海の処世術~

・四国の地方豪族出身の真魚(空海)が貴族の子弟が通う大学に入学
・官吏を目指し勉学に励むも儒教に興味が持てず大学を退学、出家
・西日本の霊場で山岳修行に励み悟りを開いて「空海」になる
・苦悩の末、大日経と出会う
・朝廷が派遣する遣唐使使節団の一員として唐へ向かう
・30日以上の漂流の末、福州に漂着。約2400㎞の道のりを経て長安へ。
・密教習得に必要な梵語を学び、中国密教の中心的人物である恵果阿闍梨から密教の全てを伝授され後継者と認められる
・「日本で密教を広めよ」という恵果の遺言を果たすため日本へ早期帰国
・朝廷との約束を破って帰国したため上京の許可が下りず筑紫に滞在
・最澄の執り成しもあり809年に入京が叶う

2.空海の考え方から見る教え ~空海の交渉術~

・南都六宗と距離を置きたい桓武天皇と最澄の活動により、密教布教の基盤が固まる
・「書」という共通点を持つ橘逸勢との交流が嵯峨天皇と結びつく
・薬子の変で乱れた国家を平穏にするため鎮護国家の修法を行ない嵯峨天皇から信任を得る
・早良親王の怨霊を鎮めるために乙訓寺の別当となり高雄山寺で最澄に持明灌頂を授ける
・自分の都合で密教の教えを求める最澄を許せず経典の貸与を拒否。2人の関係が途絶える
・都から離れた紀伊山地に位置する高野山を真言密教の修禅道場として開創する
・唐で学んだ最先端の技術を駆使して故郷に貢献。築池別当として満濃池の修築工事を完遂する
・嵯峨天皇より東寺を賜り国立寺院だった東寺を密教の根本道場に再編する
・さまざまな学問を学べる庶民のための学校、綜藝種智院を設立する
・密教の基盤強化のために病を押して活動し弟子たちに具体的な指示を残して入定する

3.空海が完成させた密教とは ~密教の教え~

・鎮護国家思想の学問から現世利益の仏教へ。これまでの仏教と空海が持ち帰った密教の違い
・密教の最終目標はその身のまま仏になること。正しく三蜜加持を行なえば即身成仏できる
・両手を合わせて印を結び仏と一体化して真実の言葉である真言を唱え仏の加護を得る
・密教を経典や注釈書だけで理解するのは困難なため大宇宙の本質を仏の配置で表現した曼荼羅で把握する
・仏の区分は如来・菩薩・明王・天の4種類。それぞれの仏の違いと特徴を知る
・護摩行は密教の修法の一つ。大日如来の智慧の火で煩悩を焼き払う

4.弘法大師の教えを感じる場所 ~弘法大師信仰~

・最澄に遅れること55年、空海がとうとう弘法大師になる
・人智の及ばない出来事から人々を守る密教の教えと弘法大師・空海への感謝が、弘法大師信仰として定着
・修行のための巡礼路だった「四国辺路」が一般庶民の間に広がり「四国遍路」として定着する
・空海の足跡をたどりながら自分を見つめ直す。全長約1400㎞の四国八十八ケ所巡り
・四国遍路をしたいが四国まで行けない人のために全国各地で四国霊場を模した「地四国」が開かれる
・水にまつわる伝説が多い?全国各地に点在する弘法水伝説と開湯伝説
・「うどん県・香川」の産みの親は空海だった?空海が唐から持ち帰ったと伝わる食べ物

【監修者】吉田 正裕(よしだ しょうゆう)

広島県廿日市市出身、真言宗御室派大本山大聖院第77代座主。2008~2018年総本山仁和寺本山布教師。2018~2022年総本山仁和寺執行長、真言宗御室派宗務総長。宗教事業にかかわらず、宮島、広島の地域活動、文化活動などを幅広く行なっている。

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