徳川幕府は房総地域を「江戸を補佐する地域」と位置づけ、政治的にも経済的にも重要視しました。

幕府主導で行われた再開発政策としては、利根川東遷（とねがわとうせん）事業が挙げられます。江戸湾に流れ込んでいた利根川の本流を、銚子から太平洋に注ぐように治水工事を行ったのです。これによって江戸は水害から守られ、併せて千葉県域では新田開発が行われました。

印旛沼の治水工事や椿海（つばきのうみ）（下総に存在した湖）の干拓が行われ、農作物増産が推進され、人口が急増する江戸の食糧需要に応えていったのです。

また、利根川東遷事業の結果、千葉県域では江戸へと通じる舟運が発達しました。蝦夷や奥州からの年貢米や交易品は、かつては房総半島を大回りして江戸湾へと入っていましたが、銚子から利根川を遡行して江戸へと至る水運が確立しました。

千葉県域においては、一大消費地となった江戸に供給する商品作物が栽培されるようになり、銚子や野田の醤油を筆頭に千葉の名産品が生み出されていきました。

このような銚子から利根川へ入る舟運に劇的な変化を与えたのは、幕府とも通じていた政商・河村瑞賢（かわむらずいけん）です。

河村瑞賢の開拓した海運ルートは、東北から本州沿いに南下するまでは同じで、そこから銚子に至るのではなく、阿武隈川（あぶくまがわ）河口の荒浜（あらはま）（宮城県亘理郡（わたりぐん））から太平洋沖に出るものでした。房総半島を大きく迂回したのち、伊豆半島の下田（静岡県下田市）に入り、西南風を受けて江戸湾に入るのです。

外海と西南風を利したこのルートは 「東廻り航路」と呼ばれ、東北地方から年貢米を運搬する主要航路になっていきます。

房総の陸路としては、五街道に準ずる脇街道として水戸街道（千住宿～水戸）が整備されました。新宿（東京都葛飾区）から分岐する佐倉街道は、佐倉藩や多古藩などの下総の諸藩が参勤交代に用いました。

また、江戸中期になると、人気歌舞伎役者 の市川團十郎（いちかわだんじゅうろう）が成田不動に帰依したことから、江戸では成田山新勝寺（なりたさんしんしょうじ）（成田市）への参詣がブームとります。佐倉街道は成田山新勝寺へ至る街道としても利用されたことから、成田街道とも呼ばれるのでした。

日本の各県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。本書では千葉県の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載！

●収録エリア：千葉県全域