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稲荷台古墳群の概要

稲荷台古墳群は、養老川下流域の北岸台地上に位置します。現在の市原市役所から1㎞ほど北にあり、合計12基からなる古墳群です。

4世紀後半から7世紀にかけて形成された円墳ばかりで、この古墳群には大型の前方後円墳は存在しません。そのうち1号墳は、稲荷台古墳群では最大規模ですが、全長は27mと、同時期の他地域の古墳と比較してもさほど大きいとはいえません。そのことから、稲荷台古墳群に埋葬された被葬者の支配規模は、およそ「中の下」クラスだったと推測されます。

稲荷台1号墳付近

稲荷台1号墳付近

この付近には、12基の円墳からなる稲荷台古墳群が造成されていました。「3分の1スケール」の稲荷台1号墳が市原市山田橋、稲荷台通りと大多喜街道(国道297号)のあいだに造成された稲荷台古墳記念公園に復元されています。

稲荷台古墳1号墳の副葬品からわかる被葬者の人物像

1号墳の副葬品は5世紀中~後期にかけてのもので、短甲、剣、大刀といった武具類が多く、被葬者はこの地域の有力な武人であったようです。1号墳のなかにはふたつの埋葬施設(中央木棺と北木棺)があり、王賜銘鉄剣(おうしめいてっけん)は中央木棺から見つかりました。

稲荷山古墳の金錯銘鉄剣から見るヤマト王権と東国の関係

では、この被葬者に鉄剣を下賜した「王」とは誰のことを指すのでしょうか。

諸説ありますが、もっとも有力とされるのが畿内の大王、すなわちヤマト王権の首長です。そのヒントとなるのが、稲荷山古墳(埼玉県行田市)から出土した「金錯銘鉄剣(きんさくめいてっけん)」です。

この鉄剣には115文字が刻まれており、ヲワケ一族のワカタケル大王(雄略(ゆうりゃく)天皇)を補佐したと記されていました。この金錯銘鉄剣の銘文は「辛亥年七月中記(471年もしくは531年)」で始まり、5世紀におけるヤマト王権と東国の関係を知ることができ、現在は国宝に指定されています。

稲荷台古墳1号墳の被葬者と鉄剣を下賜した「王」は誰?

稲荷台1号墳から見つかった王賜銘鉄剣も、埼玉の金錯銘鉄剣と同時期のものです。そのことから、稲荷台古墳の被葬者もヤマト王権との関係があり、ヤマトの大王から鉄剣を授与されたと考えるのが自然ではないでしょうか。

しかし、疑問は残ります。先に述べたとおり、稲荷台古墳の被葬者の支配規模は、せいぜい「中の下」程度。対して、養老川の対岸(南岸)には、同時期の5世紀前半~中頃に造営された姉崎二子塚古墳(あねさきふたごづかこふん)(市原市姉崎)があります。

こちらは標高5mほどの台地上につくられた大型前方後円墳であり、墳丘の全長は103m。全長27mの稲荷台1号墳と比べるべくもなく、姉崎二子塚古墳の被葬者がこの地域における最大の権力者であったことは明白です。

なぜ稲荷台古墳1号墳の被葬者に王賜銘鉄剣が与えられた?

王賜銘鉄剣がヤマト王権から下賜されたものであるならば、なぜヤマト王権は地域の支配者である姉崎二子塚古墳の被葬者を差し置いて、「中の下」の稲荷台古墳の被葬者に鉄剣を与えたのでしょうか。周辺地域との複雑な政治情勢が絡んでいるのかもしれません。あるいは、この王賜銘鉄剣に刻まれた「王」は、ヤマト王権ではなく、姉崎二子塚古墳の被葬者のことを指すのかもしれません。

いずれにせよ、古代東国の支配構造を探るうえで、非常に重要な史料となる鉄剣であることに疑いの余地はありません。

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