大阪都構想に向けての遷都案
1868年1月、王政復古(おうせいふっこ)を成しとげた明治新政府は鳥羽・伏見の戦いで旧幕府軍に勝利を収めます。ちょうどこのころ、政府内では遷都(せんと)についての議論が起こっていました。明治政府が新しい世で目指したのは、天皇を中心とした国家体制です。そのためには、これまで公家や女官に囲まれ非政治的な存在であった天皇のあり方を刷新する必要がありました。
そこで京都の因習を断つべく考えられたのが、遷都という手段。候補地となったのが大坂です。
大久保利通が大阪への遷都を提案
大坂を推したのは薩摩藩士で明治維新の立役者の1人である大久保利通(おおくぼとしみち)。陸海の交通の便が良いこと、港があり外交の窓口に適していること、そして攻守の見極めに有利な地形であることなどを理由としました。
大久保は政府副総裁の岩倉具視(いわくらともみ)や三条実美(さんじょうさねとみ)らに根回しをしたうえで、遷都の建白書を提出します。
大阪都構想への猛反発
しかし、この遷都計画は早くも暗礁に乗りあげました。多くの公家が「遷都計画は薩長が政権を牛耳るための陰謀」と猛反発したのです。
また、「幕末の四賢侯」と呼ばれた山内容堂(やまのうちようどう)や松平春嶽(まつだいらしゅんがく)らも、遷都案が一部の人間だけで練られたことに強い不満を持ちました。そのため、大久保も遷都でなく、一時的に天皇が出向く「行幸」という形で妥協せざるを得なくなりました。
大阪都構想からの大坂行幸
大坂行幸は実現し、明治天皇は約1700名を伴って大坂入りをはたします。そして「本願寺津村別院(ほんがんじつむらべついん)(北御堂)」を行在所(あんざいしょ)、つまり仮皇居として外交団への謁見や住吉大社への行幸などの政務を執り行いました。
また、天保山台場(てんぽうざんだいば)では日本初となる観艦式も実施され、天皇は生まれて初めて見る海に大いに感動したといいます。
明治天皇が大坂行幸で訪れた場所
大坂にいた徳川慶喜が江戸に去ったあと、明治天皇は京都から大坂に入りました。天皇の行幸は約500年ぶりのことでした。3月26日には天保山から各藩の軍艦を眺めました。
大阪都構想は幻となり江戸から東京へ
行幸はおよそ40日で終わりましたが、天皇が京都を離れるのはおよそ500年ぶりのこと。その後、4月に江戸無血開城が実現したことで、新政府からは「関東の政情を安定させるべく首都を江戸に置くべき」といった声が高まり、大久保もこれに賛同しました。
そして1868年7月には、江戸から名を改めた東京への遷都が決定し、大坂都構想は幻となったのです。
大大阪時代(だいおおさかじだい)は東京を陵駕した
大正時代後期から昭和初期にかけて、大阪市が「大大阪」と呼ばれた時代がありました。そのきっかけとなったのが、1925年の第2次市域拡張として実施された44町村の合併です。これにより人口は211万人、面積も前年の3倍の181㎢と、いずれも東京市を上回り、日本一の都市「大大阪」へと成長したのです。
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