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地政学は「戦争の道具」という批判

地政学が学問として成立したのは、19世紀末から20世紀前半のことでした。

アメリカ海軍の軍人で海洋戦略を研究したマハン、ランドパワーの脅威を警告したイギリスの地理学者マッキンダー、リムランドの概念を提唱したアメリカの国際政治学者スパイクマンらが創始者とされ、スウェーデンの政治学者チェーレンが1916年に地政学という言葉をはじめて用いたといわれています。

そして二度の世界大戦のさなか、地政学は注目を集めます。たとえばナチス・ドイツのヒトラーは、地政学を信奉して周辺諸国侵略の理論的根拠にしました。ゆえに第二次世界大戦後は「戦争の道具」とか「悪魔の学問」などといわれ、負のイメージを強くします。終戦直後の日本でもGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が地政学の研究を禁じました。

その後、地政学は米ソを中心とする東西冷戦のなかで再び注目されはじめます。そして1990年代初頭のソ連崩壊、東西ドイツの統合といった激変、2001年のアメリカ同時多発テロを経て、盛り上がりをみせていったのです。現在の世界は米中対立の激化、ウクライナ戦争、イスラエルのガザ侵攻など、激動の時代に突入しています。そうした時代に、地政学は国際情勢の大局を読むための学問として重視されてきています。

地政学の誕生から現在まで

19世紀末~20世紀前半
マハン(1840~1914)、マッキンダー(1861~1947)、スパイクマン(1893~1943)らによって地政学が創始される。

1914~1918年頃
第一次世界大戦で地政学を用いた軍事戦略の研究が行われる。

1916年
スウェーデンの政治学者チェーレンが地政学という言葉をはじめて用いる。

1939~1945年頃
第二次世界大戦
ナチス・ドイツのヒトラーが地政学を信奉して周辺諸国を侵略。
日本軍も地政学を理論的根拠として大東亜共栄圏構想を推進する。

1945年以降
地政学が「戦争の道具「」悪魔の学問」などといわれ、忌避されるようになる。

1950~1990年頃
冷戦構造のなかで紛争や内戦が多発。それらを分析するために地政学が注目される。

2001年以降
アメリカ同時多発テロなどで世界が不安定化するなかで、地政学に対する関心が高まる。

地政学から見る世界の4つの勢力圏

地政学において、現在の世界は大きく4つの勢力圏に分かれると考えられています。最大勢力はアメリカと西欧諸国を中心とするアメリカ勢力圏。第二次世界大戦以降、アメリカと張り合ってきたロシアを中心とするロシア勢力圏は、ウクライナ侵攻などによるロシアの孤立化で減衰する一方、覇権を狙う中国を中心とする中国勢力圏が躍進しています。イスラム教を基盤とするイスラム勢力圏は、人口増加と移民によって存在感を高めています。

アメリカ勢力圏
経済力や軍事力で世界最強のアメリカは、西欧諸国とNATO(北大西洋条約機構)を結成し、アジアでは日本や韓国などと同盟関係を締結。長年続けてきた「世界の警察官」の座から下りたが、世界全体を見据えている。

ロシア勢力圏
ロシアはプーチン政権下で経済復興を成し遂げたが、ウクライナ侵攻により国際的に立。旧ソ連時代の威信を取り戻そうとする考えが失敗につながり、ロシア勢力は縮小することになった。

中国勢力圏
アメリカと対峙し、覇権の座を狙う中国は、一帯一路構想や海洋進出などにより、その影響力を周辺国に拡大しようとしている。アメリカおよびアメリカ勢力にとって、最も警戒すべき勢力となっている。

イスラム勢力圏
イスラム教という宗教を基盤とした結びつきは非常に強い。中東や北アフリカを中心に、国や民族の壁を超えてまとまる。

地政学から見る世界の軍事力

ロシアによるウクライナ侵攻や中国による海洋進出などによって、多くの国が危機感を高め、防衛のための軍事力の強化を進めています。アメリカの軍事力評価機関グローバル・ファイヤー・パワーが各国の装備、兵力、財政状況、地理的条件などをもとに算出した軍事力ランキングでは、アメリカ、ロシア、中国がトップ3。周辺国との間に軋轢を抱えている国や地域大国が上位にランクされる傾向にあります。

1位 アメリカ
軍事費、装備など、多くの分野で他国を圧倒する世界最強の軍事大国。対中国、対ロシアの二正面作戦に対応中。

2位 ロシア
ウクライナ戦争で疲弊し、国際的にも孤立。それでも軍事力はアメリカに次ぐ世界第2位の座をキープしている。

3位 中国
台湾統一、海洋進出を念頭に軍備増強を続ける。ロシアが失墜した今、アメリカに対抗する一番手に。

4位 インド
世界最大の人口大国になり、経済成長も著しいアジアの大国は軍事力も強い。武器のロシア依存からの脱却を図る。

5位 イギリス
6位 韓国
7位 パキスタン

8位 日本
中国、北朝鮮、ロシアなどの軍事的脅威に対抗するため防衛力の強化を図る。

9位 フランス
10位 イタリア
11位 トルコ
12位 ブラジル
13位 インドネシア
14位 エジプト
15位 ウクライナ
16位 オーストラリア
17位 イラン

18位 イスラエル
アラブ諸国に取り囲まれているため、軍事力の増強に余念がない。中東では最強を誇る。

19位 ベトナム
20位 ポーランド

地政学と世界の主要国のGDP

国・地域の経済規模とその変化を図る指標のひとつがGDP(国内総生産)です。2020年から新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済は落ち込み、21年に回復したものの、22年にはロシアのウクライナ侵攻にともなうエネルギー危機で低迷。欧米日などと中ロなどとの溝が深まり、第二次世界大戦前のようなブロック経済が再来する可能性も囁かれています。

1位 アメリカ(22兆9961億ドル)
(一人当たりのGDPは6位、6.9万ドル)
2021年、1984年以来37年ぶりの経済成長を実現。その後も堅調に伸びており、政府の財政赤字の拡大問題は残るものの、先行きは明るいとみられている。

2位 中国(17兆7241億ドル)
(一人当たりのGDPは55位、1.26万ドル)
コロナ禍や不動産バブル崩壊の余波などで経済成長が急減。政府が掲げる「+5.5%前後の年間成長率」という目標達成が危うくなっている。

3位 日本(4兆374億ドル)
(一人当たりのGDPは23位、3.9万ドル)
日本は2010年に中国に抜かれたのに続き、2023年にはドイツにも抜かれ、第4位に転落することになる。

4位 ドイツ(4兆2231億ドル)
(一人当たりのGDPは18位、5.08万ドル)

5位 イギリス(3兆1869億ドル)
(一人当たりのGDPは20位、4.7万ドル)

6位 インド(3兆1734億ドル)
(一人当たりのGDPは100位圏外)

7位 フランス(2兆9375億ドル)
(一人当たりのGDPは21位、4.4万ドル)

11位 ロシア(1兆7758億ドル)
(一人当たりのGDPは58位、1.22万ドル)
ウクライナ侵攻に対する経済制裁により大幅なマイナス成長が予想されていたが、そこまでの下落にはつながらず、なんとか持ちこたえている。

12位 ブラジル(1兆6090億ドル)
(一人当たりのGDPは77位、7519万ドル)

出所:世界銀行(2021年のデータ)

地政学と世界の原油・天然ガス埋蔵量

地政学では資源調達やエネルギー政策も重視します。世界的に脱炭素化が進んでいますが、いまだに重要な化石燃料が原油や天然ガス。原油・天然ガス=中東というイメージが強いかもしれませんが、南北アメリカやロシアにおける埋蔵量も多く、近年はアメリカでのシェール革命が世界のエネルギー勢力図を塗り替えることになりました。

原油埋蔵量 1位 ベネズエラ(3038億バレル)

原油埋蔵量 2位 サウジアラビア(2975億バレル)
原油・天然ガスの産地といえば中東。サウジアラビアをはじめイラン、イラク、カタール、クウェート、アラブ首長国連邦など、有力な産油国が集まっている。

原油埋蔵量 3位 カナダ(1681億バレル)

原油埋蔵量 4位 イラン(1578億バレル)
(天然ガス埋蔵量 2位、32兆1014億㎥)

原油埋蔵量 5位 イラク(1450億バレル)

原油埋蔵量 6位 ロシア(1078億バレル)
(天然ガス埋蔵量 1位、37兆3915億㎥)

原油埋蔵量 7位 クウェート(1015億バレル)

原油埋蔵量 8位 アラブ首長国連邦(978億バレル)

原油埋蔵量 9位 アメリカ(688億バレル)
(天然ガス埋蔵量 5位、12兆6187億㎥)
技術開発により、シェール革命を起こす。その結果、シェールオイルの可採埋蔵量は世界一となった。

天然ガス埋蔵量 3位 カタール(24兆6655億㎥)

天然ガス埋蔵量 4位 トルクメニスタン(13兆6013億㎥)

出所:BP統計2023(原油・天然ガスとも2020年末時点)

地政学と世界の紛争地

世界に存在する武力紛争の数は100以上といわれています。民族・宗教の違い、領土争い、政治思想の問題、経済格差など、紛争の原因はさまざまです。多くの紛争は国際秩序を揺さぶるロシアや中国の周縁部や、経済が脆弱で社会が不安定な中東・アフリカなどに集中しています。

日本周囲
日本の周囲には多数の領土問題が存在している。その多くにロシアと同じ権威主義的な中国が絡んでいる。

ロシア周囲
大国ロシアが領土的野心からウクライナに侵攻するという一大事により、国際秩序が大きく揺らいだ。

中東、アフリカ周囲
産油国ではない貧しい中東の国、資源に恵まれているものの利権争いが激しいアフリカの国で紛争が生じやすい傾向にある。

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