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【密教の教え】密教の実践~三密加持~

密教の最終目標はその身のまま仏になること。正しく三密加持(さんみつかじ)を行えば即身成仏(そくしんじょうぶつ)できるという考えが密教の根幹となっています。

現代社会では「成仏=死んでこの世の苦しみから解放されること=亡くなること」の意味で使われることが多いのですが、仏教では「煩悩(ぼんのう)を断って悟りを開き、仏に成ること」を成仏と呼んでします。

密教ではさまざまな修行を行いますが、全ての基本となるのが三密加持です。手で印を結ぶことが「身密(体)」、口で真言(しんごん)(人の言葉では表現できない仏の言葉)を唱えることが「口密(口)」、大日如来(だいにちにょらい)と同じ瞑想(めいそう)の境地に入ることが「意密(意識)」です。また加持とは、仏からの働きかけ(加)を行者が受け止める(持)ことをいいます。空海は「三密を一致させ、仏からの働き掛けを受け止めることができれば、この身のままで仏に成れる」と解説しています。

【密教の教え】密教の実践~印と真言~

密教では、両手を合わせて印(いん)を結び仏と一体化して真実の言葉である真言(しんごん)を唱えると、仏の加護を得ることができます。密教の実践方法について、まずは仏と人が一体となるための印とはどんなものなのでしょうか。

密教では「印を結ばなければ、三密加持(さんみつかじ)を修めることはできない」とされています。印とは、手の指を組み合わせて仏の真理(悟り)を表したもの。右手は仏、左手は人を意味し、10本の指を交差させて印を結ぶことは仏と人を結び、仏と人が一体化することを表しています。印にはさまざまな種類がありますが、空海が日本に持ち帰った『大日経疏(だいにちきょうしょう)』(大日経の注釈書)には、印の基礎として「十二合掌」の説明がされています。

印は真言と合わせて結ぶものであり、印を結んで真言を唱えることは悟りに近付くことです。密教の印は師から弟子に直接伝授されるもの。印を結ぶ時は人に見せることはせず、袈裟(けさ)や清らかな布で手元を隠して行うのが習いです。

十二合掌とは

合掌も印の一つです。密教では右手を上に、両手の指を交互に組み合わせる「帰命合掌(きみょうがっしょう)」を正式な合掌としています。十二合掌には、堅実合掌、虚心合掌、未敷蓮合掌、初割蓮合掌、顕露合掌、帰命合掌、反叉合掌、反背互相著合掌、持水合掌、横柱指合掌、覆手向下合掌、覆手合掌があります。

真理の言葉を伝える真言

密教の修行において欠かせないのが、真言です。真言とは、大日如来(だいにちにょらい)の教えを説いた真実の言葉という意味。仏教は中国や朝鮮半島を経由して日本に伝わったため、中国語に翻訳された経典も少なくありません。

このため一般的な「お経」は漢字で書かれていることが多いのです。しかし真言は、古代インドの言葉であるサンスクリット語(梵語(ぼんご))のまま日本に持ち帰られ、現代まで伝わっています。中国語などに翻訳されなかったのは、「翻訳すると正しい意味(真実の言葉・真理)が伝わらない」という思いからです。

三密修行を行う方法

真言は如来(にょらい)や菩薩(ぼさつ)など仏ごとに存在し、梵字(サンスクリット語を表現するための文字)1文字が仏そのものを表しています。

三密修行を行う際は印を結んで本尊の前に座り、真言を唱えながら本尊の中に梵字をイメージします。真言は自分だけに聞こえる程度の小さく低い声で唱えるのが重要で、唱える回数は煩悩の数とされる108回。途中で集中が途切れてしまったら、最初からやり直しとなります。密教寺院などに参拝する際は合掌して真言を3回唱え、本尊の加護を得ると良いでしょう。

【密教の教え】曼荼羅とは~両界曼荼羅~

密教を経典や注釈書だけで理解するのは困難なため、大宇宙の本質を仏の配置で表現した曼荼羅(まんだら)で把握するのが、基本となっています。

曼荼羅には、表裏一体の世界を表す2種類の曼荼羅があります。曼荼羅とは密教の教えを視覚的に表現したものです。空海が経典とともに唐から持ち帰ったもので、御請来目録(ごしょうらいもくろく)では「密教の教えは非常に奥深く、文章で伝えるのは難しい。このため図画(曼荼羅)を用いて、まだ悟りを開いていない人たちに開示するのだ」と説明しています。

【密教の教え】密教の仏~仏の種類~

仏の区分は、如来(にょらい)・菩薩(ぼさつ)・明王(みょうおう)・天(てん)の4種類です。それぞれの仏の違いと特徴について整理していきましょう。まずは、仏教の本尊である大日如来(だいにちにょらい)です。

日本でよく見られる仏は、「如来」「菩薩」「明王」「天」の4種類に区分されます。如来とは悟りを獲得した仏のことで、密教では大日如来を本尊としています。密教の根本経典である『大日経(だいにちきょう)』と『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』は、大日如来は太陽の象徴であり、全ての諸尊は大日如来から出生したと解説しています。また大日如来は姿形を変え、さまざまな仏の姿になって人々を救い導くといいます。

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仏の特徴の違い

すでに悟りを開き煩悩から解放されている如来は宝石や装飾品などを身に着けておらず、衣1枚の姿で表現されることが多いです。

しかし大日如来は宝冠をかぶり、首飾りや腕飾りを着けています。これは大日如来が宇宙の真理そのものであり、全ての仏を統一する最高の地位にあることを示すためです。装身具により大日如来の特別感や威厳を示しているのです。密教の根本仏として帰依されている大日如来ですが、胎蔵界(たいぞうかい)の大日如来は悟りの境地を象徴する法界定印(ほっかいじょういん)を、金剛界(こんごうかい)の大日如来は仏の智慧を表す智拳印(ちけんいん)を結んでいるのも特徴の一つです。

人が臨終を迎えようとしたとき、極楽浄土へ導くために迎えに来てくれるのが阿弥陀(あみだ)如来です。しかしその人の資質や信仰の深浅によって、極楽往生の方法は異なっています。阿弥陀如来の来迎印(らいごういん)には9種類あり、印の種類によって往生の方法と成仏の種類を表しています。奈良国立博物館所蔵の阿弥陀如来の右手の施無畏印(せむいいん)は、相手の畏れをなくす姿勢を、左手の与願印(よがんいん)は相手の願いを聞き届ける姿勢を表しています。

阿弥陀如来の結ぶ九品(くほん)来迎印

※拡大できます

人々を苦難から救う菩薩

菩薩は悟りを求める者。如来となるための修行を積みながら人々を救済しており、すでに悟りを開いていますが人々の救済を続けるためにあえて如来にならず、この世に留まっている存在です。出家する前の釈迦の姿をモデルにしているため衣装は豪華で、冠や耳飾り、腕輪などを着けています。

如来同様菩薩も複数存在し、それぞれが人々を苦難から救済する役割を担っています。よく耳にする「お地蔵様」や「観音様」も菩薩たちの一尊です。密教の仏はヒンズー教の影響を受けており、「多面多臂像(ためんたひぞう)(顔や腕がたくさんある像)」や「忿怒形(恐ろしく(ふんぬぎょう)険しい形相)」といった密教独特の特徴を持っています。あらゆる方向に慈悲を示す十一面観音や、多様な願いを聞き届けるために千本の手を持つ千手観音は、多面多臂像の最たる像といえるでしょう。

奈良国立博物館所蔵の重要美術品である普賢菩薩坐像は、釈迦如来の慈悲を象徴する仏で、心の安定をつかさどるとされています。法華経を守る仏として、白像に乗る姿で表されることもあります。

厳しい表情で人々を導く明王

明王は密教独自の尊格(そんかく)(種類)であり、大日如来の命を受け、人々を正しい教えに導き救うという役割を担っています。衆生救済という目的は菩薩と同じですが、菩薩が慈愛に満ちた表情をしているのに対し、明王は忿怒形を示しています。これは「人々を救うのだ」という強い決意の表れであり、救い難い衆生を怒りの表情で導く様子を表現しています。

護摩行(ごまぎょう)の本尊である不動明王(ふどうみょうおう)は、明王の中心的存在。背負っている火で煩悩を焼き、智慧(ちえ)の象徴である宝剣で煩悩や災いを断ち切り、羂索(けんさく)(縄)で迷っている人を引き上げて衆生を導いたり、従わないものを縛って仏法の世界へ導くとされています。

如来や菩薩は慈悲の心で衆生を救いますが、明王は半ば実力行使で人々を救うのです。宝剣や弓矢などの武器は、敵を倒すためではなく煩悩を断ち切り迷いをはらうために用いられる宝具です。

如来や菩薩を守護する天

天は、バラモン教やヒンズー教など古代インドの神々を仏教に取り入れたもので、神々が仏教に帰依して天になったといわれています。如来や菩薩の眷属(けんぞく)として仏を守るとともに、その仏を信じる人を救い守る存在です。貴族の姿をした梵天(ぼんてん)や帝釈天(たいしゃくてん)、女性の姿をした吉祥天(きっしょうてん)や弁財天(べんざいてん)、武将の姿をした毘沙門天(びしゃもんてん)、動物の姿をした迦楼羅(かるら)など、姿形は多種多様です。

毘沙門天は、サンスクリット語のヴィシュラヴァナを音写したもの。インドの財宝神が原型で、軍神・守護神としても崇敬を集めています。平安時代には羅城門(らじょうもん)(平安京の正門)の楼上に安置され、鎮護国家(ちんごこっか)の役割を担っていました。毘沙門天は七福神にも含まれており、広く民間で信仰されています。また、戦勝を祈願する神として、武士階級からの信仰を集めました。奈良国立博物館所蔵の毘沙門天立像は、右手に三つの穂を有するほこの一種である三叉戟(さんさげき)、左手に釈迦の遺骨を納めた多宝塔を持ち、足で邪鬼をふみつけています。

【密教の教え】密教の修行~護摩行~

護摩行(ごまぎょう)は密教の修法(しゅほう)の一つです。大日如来(だいにちにょらい)の智慧の火で煩悩を焼き払うという意味があり、護摩行の火は大日如来の智慧(ちえ)の象徴とされています。

一般的には加持祈祷(かじきとう)と同一視されることが多いのですが、密教では「加持」と「祈祷」を区別しています。加持とは大日如来の慈悲と衆生の信仰心が一つになること、祈祷とは仏に自分の願いや意志を届けることを指しています。

護摩行は「護摩壇(ごまだん)に設けられた火炉(かろ)に護摩木(ごまき)を焚(た)き、火の前で祈祷する修行」であり、護摩祈祷とも呼ばれます。もともとはバラモン教の「供物を火中に投げ入れ、天の神々のもとに運んで供養する」という祭礼でしたが、紀元前5世紀ごろに仏教と融合。密教の教えの中で発展し、現在の形となりました。

『スッと頭に入る空海の教え』6月13日発売!

真言宗の開祖であり今も「お大師さま」として多くの人から信仰を集める空海。天才であるが故に数多くの挫折や苦悩を経験しながら、当時まだ新興勢力にすぎなかった密教をいかにしてこの世に広めたのか、そこには現代にも通じる社会を生き抜くための知恵が隠されています。本書は、謎の多い空海の生涯と思想をひも解きながら現代社会を生き抜くための行動の指針や考え方のヒントを紹介していくものです。

1.空海の行動から見る教え~空海の処世術~

・四国の地方豪族出身の真魚(空海)が貴族の子弟が通う大学に入学
・官吏を目指し勉学に励むも儒教に興味が持てず大学を退学、出家
・西日本の霊場で山岳修行に励み悟りを開いて「空海」になる
・苦悩の末、大日経と出会う
・朝廷が派遣する遣唐使使節団の一員として唐へ向かう
・30日以上の漂流の末、福州に漂着。約2400㎞の道のりを経て長安へ。
・密教習得に必要な梵語を学び、中国密教の中心的人物である恵果阿闍梨から密教の全てを伝授され後継者と認められる
・「日本で密教を広めよ」という恵果の遺言を果たすため日本へ早期帰国
・朝廷との約束を破って帰国したため上京の許可が下りず筑紫に滞在
・最澄の執り成しもあり809年に入京が叶う

2.空海の考え方から見る教え ~空海の交渉術~

・南都六宗と距離を置きたい桓武天皇と最澄の活動により、密教布教の基盤が固まる
・「書」という共通点を持つ橘逸勢との交流が嵯峨天皇と結びつく
・薬子の変で乱れた国家を平穏にするため鎮護国家の修法を行ない嵯峨天皇から信任を得る
・早良親王の怨霊を鎮めるために乙訓寺の別当となり高雄山寺で最澄に持明灌頂を授ける
・自分の都合で密教の教えを求める最澄を許せず経典の貸与を拒否。2人の関係が途絶える
・都から離れた紀伊山地に位置する高野山を真言密教の修禅道場として開創する
・唐で学んだ最先端の技術を駆使して故郷に貢献。築池別当として満濃池の修築工事を完遂する
・嵯峨天皇より東寺を賜り国立寺院だった東寺を密教の根本道場に再編する
・さまざまな学問を学べる庶民のための学校、綜藝種智院を設立する
・密教の基盤強化のために病を押して活動し弟子たちに具体的な指示を残して入定する

3.空海が完成させた密教とは ~密教の教え~

・鎮護国家思想の学問から現世利益の仏教へ。これまでの仏教と空海が持ち帰った密教の違い
・密教の最終目標はその身のまま仏になること。正しく三蜜加持を行なえば即身成仏できる
・両手を合わせて印を結び仏と一体化して真実の言葉である真言を唱え仏の加護を得る
・密教を経典や注釈書だけで理解するのは困難なため大宇宙の本質を仏の配置で表現した曼荼羅で把握する
・仏の区分は如来・菩薩・明王・天の4種類。それぞれの仏の違いと特徴を知る
・護摩行は密教の修法の一つ。大日如来の智慧の火で煩悩を焼き払う

4.弘法大師の教えを感じる場所 ~弘法大師信仰~

・最澄に遅れること55年、空海がとうとう弘法大師になる
・人智の及ばない出来事から人々を守る密教の教えと弘法大師・空海への感謝が、弘法大師信仰として定着
・修行のための巡礼路だった「四国辺路」が一般庶民の間に広がり「四国遍路」として定着する
・空海の足跡をたどりながら自分を見つめ直す。全長約1400㎞の四国八十八ケ所巡り
・四国遍路をしたいが四国まで行けない人のために全国各地で四国霊場を模した「地四国」が開かれる
・水にまつわる伝説が多い?全国各地に点在する弘法水伝説と開湯伝説
・「うどん県・香川」の産みの親は空海だった?空海が唐から持ち帰ったと伝わる食べ物

【監修者】吉田 正裕(よしだ しょうゆう)

広島県廿日市市出身、真言宗御室派大本山大聖院第77代座主。2008~2018年総本山仁和寺本山布教師。2018~2022年総本山仁和寺執行長、真言宗御室派宗務総長。宗教事業にかかわらず、宮島、広島の地域活動、文化活動などを幅広く行なっている。

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