空海は官の許可がない私度僧となって、修行の道へ
この当時出家するためには国が定めた寺で授戒(じゅかい)(出家のための儀式)を受ける必要がありましたが、槇尾山寺は国が定めた寺ではありません。このため真魚は得度したとはいえ、私度僧(しどそう)(官の許可なく僧となった者)という扱いでした。阿刀大足(あとのおおたり)の人脈を頼れば授戒を受けて正式な僧侶になることもできただろうが、真魚はその道を選ばなかったようです。
空海が行っていた山林修行
虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)の修行は静かな山林で行うのが良いとされ、修行の場所としては吉野山(よしのやま)の比蘇寺(ひそでら)(現在の世尊寺(せそんじ))が有名でした。出家した真魚は吉野山や高野山で山林修行をしながら、奈良の寺で仏教について学んでいたようです。
空海は修行中、室戸岬の絶景に心を打たれ空海と名乗る
真魚が「空海」と名乗るようになったのは、修行をしていた22歳の時とされています。経緯は不明ですが、高知県の室戸岬(むろとみさき)には「洞窟で修行をしている時、口に明星(金星)が飛び込んできた。この時自分の意識が宇宙に溶けていくのを感じ、悟りを開いた。洞窟から出ると、空と海だけが広がっていた。この光景から自らの名前を空海と改め、仏教の道を進むことを決意した」という伝説が残っています。
空海と名乗るようになった経緯はさておき、『聾瞽指帰(ろうこしいき)』(『三教指帰(さんごうしいき)』の草案となった原稿)の序文には「あるときは阿波国大瀧嶽(あわのくにだいりゅうがたけ)によじのぼり、あるときは土佐国室戸崎(とさのくにむろとのさき)でこの法を修行した」とありますから、室戸岬で修行をしたのは事実なのでしょう。
この時の修行経験から出家の思いをさらに強くした空海は、24歳で『聾瞽指帰』を上梓します。20歳から本格的に仏教を学び始め、22歳で悟りを開き、24歳で自分が生涯をかけて極める道を見出すというスピード感には、迷いが全く感じられません。
虚空蔵求聞持法修行をした大瀧嶽の伝承地といわれるのは、徳島県の太龍寺(たいりゅうじ)、悟りを開いた場所と伝わっているのは、室戸岬の御厨人窟(みくろど)として今も残っています。
『スッと頭に入る空海の教え』6月13日発売!
真言宗の開祖であり今も「お大師さま」として多くの人から信仰を集める空海。天才であるが故に数多くの挫折や苦悩を経験しながら、当時まだ新興勢力にすぎなかった密教をいかにしてこの世に広めたのか、そこには現代にも通じる社会を生き抜くための知恵が隠されています。本書は、謎の多い空海の生涯と思想をひも解きながら現代社会を生き抜くための行動の指針や考え方のヒントを紹介していくものです。
1.空海の行動から見る教え~空海の処世術~
・四国の地方豪族出身の真魚(空海)が貴族の子弟が通う大学に入学
・官吏を目指し勉学に励むも儒教に興味が持てず大学を退学、出家
・西日本の霊場で山岳修行に励み悟りを開いて「空海」になる
・苦悩の末、大日経と出会う
・朝廷が派遣する遣唐使使節団の一員として唐へ向かう
・30日以上の漂流の末、福州に漂着。約2400㎞の道のりを経て長安へ。
・密教習得に必要な梵語を学び、中国密教の中心的人物である恵果阿闍梨から密教の全てを伝授され後継者と認められる
・「日本で密教を広めよ」という恵果の遺言を果たすため日本へ早期帰国
・朝廷との約束を破って帰国したため上京の許可が下りず筑紫に滞在
・最澄の執り成しもあり809年に入京が叶う
2.空海の考え方から見る教え ~空海の交渉術~
・南都六宗と距離を置きたい桓武天皇と最澄の活動により、密教布教の基盤が固まる
・「書」という共通点を持つ橘逸勢との交流が嵯峨天皇と結びつく
・薬子の変で乱れた国家を平穏にするため鎮護国家の修法を行ない嵯峨天皇から信任を得る
・早良親王の怨霊を鎮めるために乙訓寺の別当となり高雄山寺で最澄に持明灌頂を授ける
・自分の都合で密教の教えを求める最澄を許せず経典の貸与を拒否。2人の関係が途絶える
・都から離れた紀伊山地に位置する高野山を真言密教の修禅道場として開創する
・唐で学んだ最先端の技術を駆使して故郷に貢献。築池別当として満濃池の修築工事を完遂する
・嵯峨天皇より東寺を賜り国立寺院だった東寺を密教の根本道場に再編する
・さまざまな学問を学べる庶民のための学校、綜藝種智院を設立する
・密教の基盤強化のために病を押して活動し弟子たちに具体的な指示を残して入定する
3.空海が完成させた密教とは ~密教の教え~
・鎮護国家思想の学問から現世利益の仏教へ。これまでの仏教と空海が持ち帰った密教の違い
・密教の最終目標はその身のまま仏になること。正しく三蜜加持を行なえば即身成仏できる
・両手を合わせて印を結び仏と一体化して真実の言葉である真言を唱え仏の加護を得る
・密教を経典や注釈書だけで理解するのは困難なため大宇宙の本質を仏の配置で表現した曼荼羅で把握する
・仏の区分は如来・菩薩・明王・天の4種類。それぞれの仏の違いと特徴を知る
・護摩行は密教の修法の一つ。大日如来の智慧の火で煩悩を焼き払う
4.弘法大師の教えを感じる場所 ~弘法大師信仰~
・最澄に遅れること55年、空海がとうとう弘法大師になる
・人智の及ばない出来事から人々を守る密教の教えと弘法大師・空海への感謝が、弘法大師信仰として定着
・修行のための巡礼路だった「四国辺路」が一般庶民の間に広がり「四国遍路」として定着する
・空海の足跡をたどりながら自分を見つめ直す。全長約1400㎞の四国八十八ケ所巡り
・四国遍路をしたいが四国まで行けない人のために全国各地で四国霊場を模した「地四国」が開かれる
・水にまつわる伝説が多い?全国各地に点在する弘法水伝説と開湯伝説
・「うどん県・香川」の産みの親は空海だった?空海が唐から持ち帰ったと伝わる食べ物
【監修者】吉田 正裕(よしだ しょうゆう)
広島県廿日市市出身、真言宗御室派大本山大聖院第77代座主。2008~2018年総本山仁和寺本山布教師。2018~2022年総本山仁和寺執行長、真言宗御室派宗務総長。宗教事業にかかわらず、宮島、広島の地域活動、文化活動などを幅広く行なっている。
『スッと頭に入る空海の教え』を購入するならこちら
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
まっぷるトラベルガイド編集部は、旅やおでかけが大好きな人間が集まっています。
皆様に旅やおでかけの楽しさ、その土地ならではの魅力をお伝えすることを目標に、スタッフ自らの体験や、旅のプロ・専門家への取材をもとにしたおすすめスポットや旅行プラン、旅行の予備知識など信頼できる情報を発信してまいります!