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台湾の霊峰・玉山の歴史と日本統治

玉山は古くからその存在が知られ、付近に暮らすツォウ族やブヌン族は「聖なる山」としてあがめていました。そして、19世紀後半に欧米列強が東アジアに姿を見せると、近海を航行した米国船アレクサンダー号の船長の名にちなみ、1857年から「モリソン山」という名で呼ばれるようになりました。

玉山の日本統治時代

日本統治時代に入ると間もなく、測量隊が入ってこの山の存在を確認しました。そして、「新領土の台湾にあり、富士山よりも高い」ということで「新高山」と命名されました。命名者は明治天皇で、1897(明治30)年7月6日に告示が出ています。
 
日清(にっしん)戦争に勝利し、下関(しものせき)条約によって得た新領土。台湾は日本史上、国際条約を経て得た初めての海外領土でもありました。そこにあった帝国の最高峰に明治天皇が命名する。この演出は国民に対し、計り知れない告知効果がありました。なお、1909(明治42)年明治天皇は以下の御製(ぎょせい)を残しています。

 新高(にいたか)の山のふもとの民草(たみくさ)も
 茂(しげ)りまさると聞くぞうれしき

新高山は大日本帝国のみならず、東アジアの最高峰ということで霊峰として扱われていました。

台湾・玉山の植生と希少生物

調査や研究も熱心に行われ、特に植物や地質、気象の調査は積極的に進められました。また、「無尽蔵」ともうたわれた森林資源は大きく注目されていました。

この一帯は台湾で唯一、高山性気候に属し、12月から2月までは降雪も見られます。
植物は寒冷地に見られる高山植物が多く、ニイタカビャクシンニイタカシャクナゲなどの固有植物が見られます。これらの研究は日本統治時代に熱心に行われ、多くの文献が残っています。

※ニイタカシャクナゲは5月初旬に美しい花をつける花。合歓山(ごうかんざん)付近では群生する様子も見られます。

玉山の生息動物

動物についても、タイワンクロクマ水鹿(ミズジカ)貂(テン)といった希少動物が生息しており、多くが保護対象となっています。鳥についてはミカドキジタカサゴマシコをはじめ、高山地域だけに生息する固有種が多くいます。なお、台湾の1000元紙幣には玉山とミカドキジが描かれています。

台湾の玉山をはじめとした山岳のトレッキングと入山規制

台湾の山岳は玉山を筆頭に、独特な形状で知られる大覇尖山(たいはせんざん)中央尖山(ちゅうおうせんざん)など、名峰と称される山々が少なくありません。多くは国家公園(国立公園)の管轄下にあり、生態保護と安全管理を目的に入山規制が敷かれています。登山の際は事前に申請を行い、計画書の提出が義務づけられています。なお、玉山は登山希望者が多く、抽選となりますが、外国人は比較的当選しやすいようです。

台湾の玉山をはじめとした山岳のトレッキングと入山規制

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【著者】 片倉佳史(かたくらよしふみ)

台湾在住作家。武蔵野大学客員教授。台湾を学ぶ会代表。1969年生まれ。
早稲田大学教育学部教育学科卒業後、出版社勤務を経て台湾と関わる。台湾に残る日本統治時代の遺構や建造物を記録するほか、古写真や史料の収集、古老や引揚者の聞き取り調査を進める。 著書に『台北・歴史建築探訪』、『台湾旅人地図帳』、『台湾に生きている日本』、『古写真が語る台湾 日本統治時代の50年』など。
台湾事情や歴史秘話、日台の結びつきなどをテーマに講演をこなすほか、ツアーの企画なども行なっている。

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