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台湾鉄道在来線の概要
台湾鉄道の在来線は台北を拠点に西側を南下する西部幹線と、東側を南下する東部幹線をメインとし、高雄と台東(たいとう)を結ぶ屏東線・南廻(なんかい)線で島を一周します。
西部幹線は通称「縦貫鉄道」。都市間輸送に主軸が置かれ、運行本数は多いです。中長距離は自強号(ツーチアンハオ)と莒光号(チュィクワンハオ)(前者は特急、後者は急行に相当)、近距離輸送は通勤電車タイプの車両がその役目を担っています。台湾高速鉄路の開業以降、利便性を重視したダイヤへの移行が進められています。
台湾鉄道・東部幹線の特徴
台湾鉄道の東部幹線は台北から宜蘭(ぎらん)や花蓮(かれん)を経由し、台東に至ります。沿線に大都市はないものの、鉄道のシェアは大きいエリアです。
この路線は変化に富んだ車窓を誇り、瑞芳(ずいほう)付近では渓谷美が楽しめ、大里(たいり)付近では太平洋が車窓の友となります。その後、蘭陽(らんよう)平野の穀倉地帯や蘇澳(すおう)から先の断崖や峡谷も魅力です。花蓮より先は花東縦谷平野を南下します。
そして、南廻線はヤシが生い茂るなかを走ります。台湾海峡と太平洋の両方が楽しめる路線で、その間では中央山脈の南端部を貫いています。
台湾鉄道在来線の多彩な車両
台湾鉄道は、多彩な車両も魅力的です。台鉄の看板列車となっているTEMU1000型(太魯閣号)とTEMU2000型(普悠瑪号)、EMU3000型は日本製の車両で、このほかに韓国製の電車があり、台湾製やインド製の客車、アメリカ製の機関車も見られます。南アフリカ製の機関車が韓国製の客車を挟んで走るプッシュプルスタイルの自強号もあります。
また、都市交通システム(MRT)のバリエーションも豊富で、台北ではドイツ製やフランス製、日本製の車両が見られ、高雄のライトレール(LRT)にはスペインの技術を駆使した車両が導入されています。
台湾鉄道在来線の延伸計画
近年は観光輸送の需要が高まっており、クルーズトレインなども誕生しています。さらに、往年の産業鉄道を観光整備したり、引退した車両を動態保存したりしているほか、日本統治時代の蒸気機関車を復活させる試みも続けられています。
台湾鉄道の未来の延伸計画も興味深いものがあります。台北と宜蘭を15分で結ぶ台湾高速鉄路の延伸計画や、高鉄左営(さえい)駅から屏東(へいとう)を結ぶ計画、そのほかにも、台鉄恒春(こうしゅん)線(内獅(ないし)~恒春)や台中近郊の環状線計画、高鉄駅とのアクセス鉄道の整備、さらに都市交通システムの路線拡充計画もあります。
日本と同様、モータリゼーション(車社会化)が進む台湾ですが、都市間輸送においては鉄道の重要性に変化はなく、乗車率も高いのです。特に都市部における通勤通学輸送については需要が増しており、増発やパターンダイヤの採用、新駅の開設などが進められています。
台湾鉄道台湾高速鉄路の概要
台湾高速鉄路は台湾になくてはならない交通機関です。日本の新幹線技術が初めて海外に導入された高速鉄道でもあります。正式名称は「台灣高速鐵路(THSR/TaiwanHigh Speed Rail、以下、台湾高鉄)」。現地では「高鐵(カオティエ)」と呼ばれています。
台湾が誇る高速鉄道は台北(タイペイ)市の南港(なんこう)から高雄(たかお)市の左営(さえい)までの348.5kmを走ります。列車の最高速度は300km/h。車両は、東海道・山陽新幹線の700系をJR東海・西日本が共同開発し台湾仕様にしたもので、「700T型」と呼ばれています。
台湾高鉄は12両固定編成で、列車定員は989名。軌間は新幹線と同様、1435mm。先頭車のノーズの部分は700系よりも短くなっています。「商務車廂(サンウーツァーシアン)」と呼ばれるグリーン車もあって、定員は66名です。
アイボリーホワイトの車体にコーポレートカラーであるオレンジと黒のラインが入り、颯爽とした印象を与える台湾高鉄。安全管理は日本の新幹線技術をベースとしており、各種マニュアルも新幹線に準じていて、安全で、かつ正確な運転は高い評価を受けています。
台湾高鉄は重要なアクセス手段
輸送人員は1日平均18.4万人となっており、週末には30万人を超えています。東海道新幹線の48万人にはおよばないものの、山陽新幹線の23万人と比べても、近い数字となっています(いずれもコロナ禍前の2019年)。なお、乗車総人数は開業からわずか3年で1億人を超え、2020年1月17日には6億人を突破しています。
台湾鉄道台湾高速鉄路ができるまで
高速鉄道の構想が上がったのは1970年代で、80年代に本格化しました。
規格やルートが決定したのは1991年ですが、5年後となる1996年には入札が行われています。このときはフランス・ドイツの欧州連合チームに優先交渉権が与えられました。しかし、1998年6月にドイツで大規模な列車事故が起き、そして、1999年9月の台湾中部大地震を経て、状況は変わっていきます。
地震の経験が少ない欧州式を不安視する声は大きく、同じ地震大国である日本の技術が注目を集めました。また、台風や豪雨といった自然災害への対策がしっかりしていることも新幹線システムの導入を促す結果となったのです。(地震が観測された瞬間に全列車の運行が停止する、自動安全装置が組み込まれています。)
ついに採用が決まるも、難航する技術調整
1999年12月、日本の新幹線システムが採用されることが決まりました。しかし、すべてにおいて新幹線方式が採用されたわけではなく、欧州式の土台に日本の新幹線が乗っているという構図となりました。
そのため、日本とは技術や管理に対する価値観が異なるコンサルティング会社との間に軋轢(あつれき)が生じ、数多(あまた)の調整を要しました。そして、予定よりも遅れ、2007年1月5日、板橋(いたはし)~左営が先行開業したのです。
台湾鉄道台湾高速鉄路の個性的な駅舎とその未来
台湾高鉄の駅はどこも個性的なデザインです。
南港駅と台北駅、そして新北(シンペイ)市の中心駅である板橋は在来線と乗り換えが可能な地下駅。桃園(とうえん)駅はドイツで見かけそうなガラス張りの駅舎で、乗り場は地下にあります。
そして、サイエンスパークの最寄り駅で台北への通勤客も多く、駅前開発が進む新竹(しんちく)駅の駅舎は青空に映える白雲をイメージし、高架駅に三角屋根が被さったようなスタイルです。
共通しているのは、どこも自然光をふんだんに取り込み、日中は照明がいらない省エネ設計となっていることです。
バリエーション豊かな駅舎
一方で、それぞれの駅の個性も重視されており、苗栗(びょうりつ)駅には太陽光発電パネルが張られ、彰化(しょうか)駅には花の形状をした天窓から自然光が差し込む造りとなっています。
また、雲林(うんりん)駅は所在地の雲林県虎尾(こび)にちなみ、虎の尾や模様をデザインに取り込んでいます。そして、左営駅は地上駅で港湾都市である高雄らしさが強調され、島式ホーム3本を擁し清潔感漂うコンコースの屋根が「波」をイメージしたものとなっています。
車両の整備や点検も万全の体制がとられていて、開業以来、大きな事故がないことはもちろん、定時運行率も99.6%をマークし、世界トップクラスの評価を受けています。開業から15年がすぎ、設備の置き換えや、より進化した技術の導入、システムの更新など、過渡期を迎えている台湾の高速鉄道。新型車両導入計画も注目を集めています。
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【著者】 片倉佳史(かたくらよしふみ)
台湾在住作家。武蔵野大学客員教授。台湾を学ぶ会代表。1969年生まれ。
早稲田大学教育学部教育学科卒業後、出版社勤務を経て台湾と関わる。台湾に残る日本統治時代の遺構や建造物を記録するほか、古写真や史料の収集、古老や引揚者の聞き取り調査を進める。 著書に『台北・歴史建築探訪』、『台湾旅人地図帳』、『台湾に生きている日本』、『古写真が語る台湾 日本統治時代の50年』など。
台湾事情や歴史秘話、日台の結びつきなどをテーマに講演をこなすほか、ツアーの企画なども行なっている。
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