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媽祖信仰の背景

台湾における媽祖信仰の背景には移住の歴史が絡んでいます。
明(みん)や(しん)の時代、戦禍や飢饉に苦しめられた人々は台湾を目指して海を渡りました。しかし、台湾海峡は荒波と強風で知られ、航海の途中で命を落とす人が多かったのです。そのため、彼らは必ず出発前に媽祖の加護を願い、台湾にたどり着いた者はまずは媽祖に感謝し、手を合わせました。

これがのちに守護神として敬われるようになり、各地に祠(ほこら)や廟が建てられていったのです。現在、台湾には媽祖を祀る廟が3千近くあるといわれます。台湾の廟は2020年時点で9795件が登録されていますが、その3分の1が媽祖を祀るものなのです。

媽祖巡行とは

媽祖信仰を象徴する行事としては「媽祖遶境(マーツーラオチン)」(媽祖の巡行)があります。これは信徒が担いだ媽祖像が各地の廟を巡るというもので、毎年旧暦3月下旬に催されます。

巡行の出発地となる大甲(たいこう)は、台中(たいちゅう)郊外にある人口8万人の町。ここに媽祖信仰の本山のひとつである鎮瀾宮(ちんらんぐう)があります。巡行の日程は8泊9日。媽祖巡行に参加する区間や時間などは信徒自身が決めます。

媽祖を乗せた神輿(みこし)は大甲を出た後、彰化(しょうか)県と雲林(うんりん)県を跨ぎ、嘉義(かぎ)県の新港(しんこう)にある奉天宮(ほうてんぐう)までを練り歩き、戻ってきます。
途中、大小80か所の媽祖廟に立ち寄りながら移動し、彰化の南瑤宮(なんようぐう)と天后宮(てんこうぐう)、西螺(せいら)の福興宮(ふっこうぐう)、北斗(ほくと)の奠安宮(てんあんぐう)、清水(きよみず)の朝興宮(ちょうこうぐう)といった規模の大きな廟で夜を過ごすのです。

新港の奉天宮では盛大な式典が行われ、廟の前は信徒で埋め尽くされます。その後、祭壇に安置された媽祖像は再び神輿に乗せられ、大甲に戻っていきます。その距離は往復340㎞。距離だけでなく、巡行に参加する信徒の数にも圧倒されます。その数は30万人といわれ、参拝者を含めるとのべ100万人を超えるといいます。台湾の人口は約2320万人なので、単純に計算しても23人に1人がこの祭事に関わっていることになります。

媽祖巡行のルート

媽祖巡行のルート
巡行は大甲媽祖のほか、苗栗(びょうりつ)県の白沙屯(はくさとん)媽祖も知られています。毎年複数のアプリが用意され、リアルタイムでどこに媽祖一行がいるのかが分かります。

巡行の際、媽祖の神輿をくぐると福と平安が訪れるとされています。人々は声をかけ合い、励まし合い、ときには肩を貸し合って歩き続ける。こういったなかで生まれる連帯感、そして、郷土意識。こういったものが台湾人の気質に大きな影響を与えているという指摘はよく耳にします。台湾の人々の一体感はこういったところから生まれているのかもしれません。

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【著者】 片倉佳史(かたくらよしふみ)

台湾在住作家。武蔵野大学客員教授。台湾を学ぶ会代表。1969年生まれ。
早稲田大学教育学部教育学科卒業後、出版社勤務を経て台湾と関わる。台湾に残る日本統治時代の遺構や建造物を記録するほか、古写真や史料の収集、古老や引揚者の聞き取り調査を進める。 著書に『台北・歴史建築探訪』、『台湾旅人地図帳』、『台湾に生きている日本』、『古写真が語る台湾 日本統治時代の50年』など。
台湾事情や歴史秘話、日台の結びつきなどをテーマに講演をこなすほか、ツアーの企画なども行なっている。

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