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【台湾の言語事情】多言語社会・台湾

台湾は多言語社会です。政府が規定した公用語は「國語(クオユィ)」と呼ばれてきたもので、最近は「台湾華語」という表現が多くもちいられるようになっています。

学校ではこの言語で教育が実施されており、普及度は高いのです。これはいわゆる「中国語」ですが、中華人民共和国の公用語である「普通話(プートンホワ)」とは語彙や発音、表現、言語感覚に差異が見られます。

台湾の文字事情

文字については中国の簡体字に対し、日本の旧字体に近い繁体字(正字)が使用されています。さらに、外来語の多用や土着言語であるホーロー語の影響、日本語や英語の借用語の存在など、「台湾の北京語」と言うべき、強い独自性が見られます。

【台湾の言語事情】台湾土着の言語

台湾土着の言語としてはホーロー語、客家語、原住民族各部族の言語があります。

ホーロー語は台湾語とも呼ばれ、福建南部や広東東部の言葉をルーツとしますが、台湾の地に溶け込み、独自の進化を遂げています。話者は総人口の7割を占める多数派言語で、日常的に「台湾話(たいおわんおぇ)」、「台語(たいぎー)」と呼ばれています。また「Holo語」とローマ字で記すことも多い一方で、台湾に存在する諸言語の総称を「台湾語」とするべきだという意見もあります。

また、客家語も一定数の使用人口があるほか、原住民族については16の部族に分類されますが、言語の使用状況は複雑で、政府が主宰する言語能力試験では43種の部族言語について試験問題が用意されています。

さらに、金門(チンメン(きんもん))県では近接する廈門(アモイ)の訛りが強い閩南(びんなん)語、馬(マーツー(ばそ))祖列島では閩東(びんとう)語の一方言である福州(ふくしゅう)語(馬祖話)がもちいられています。なお、老年世代に限られますが、日本統治時代の教育を受け、日本語を今でも常用している人々もいます。日本統治時代に生まれ育った世代は、「日本語世代」と呼ばれています。

【台湾の言語事情】言語政策

このように、台湾では複数の言語が交じりあい、人々の暮らしの中に溶け込んでいます。戦後長らく続いた国民党政権の一党独裁時代、郷土言語はいずれも虐げられた状態で、弾圧の対象でもありました。

しかし、1987年に戒厳令が解除され、言語政策にも変化が生じます。「諸言語尊重主義」とも言うべき、多言語社会への移行を始めたのです。1990年には宜蘭(ぎらん)県でホーロー語の教育が始まり、1999年には「母語教育」という名で、全国の初等教育機関での授業実施が決まりました(2001年から必修となっています)。

「国家語言」として保護、記録、活用する政策

現在、政府は台湾で使用されているさまざまな言語を「国家語言(国家の言語)」に指定しています。
これには台湾華語やホーロー語、客家語を筆頭に、原住民族の諸言語や地域言語、そして台湾式の手話も含まれています。子供たちは台湾華語に加え、この「国家語言」から1つを選び、学ぶようになっているのです。

日月潭(じつげつたん)付近に暮らす人口800人あまりのサオ族では、サオ語の話者は200人を下回り、消滅の危機にあります。このように衰退を免れず、消滅の危機にある言語も少なくありませんが、そういった言語を保護し、記録していくことも重要視されています。

多言語使用を通し、少数言語コミュニティにも平等な社会を

2019年からは「国家語言発展法」が施行されています。
これは台湾におけるあらゆる言語を尊重し、多元的な言語文化を守ることを目的としています。そして、政府は国民が平等に公共サービスを享受できるよう、最大限の配慮と努力をしているのです。複数言語による車内放送は法整備の前から実施されていましたが、現在はこの政策の一環とされています。

台湾のテレビ番組は多くの場合、どの言語で話されていても台湾華話による漢字の字幕が付きます。これも言語政策の一環です。

台湾の地に存在する言語を平等に扱い、教育や公共の場で多言語使用を促す。同時に、少数言語の尊重や復興を促進し、平等な社会を実現する。これもまた、台湾社会が目指す理想のひとつなのです。

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【著者】 片倉佳史(かたくらよしふみ)

台湾在住作家。武蔵野大学客員教授。台湾を学ぶ会代表。1969年生まれ。
早稲田大学教育学部教育学科卒業後、出版社勤務を経て台湾と関わる。台湾に残る日本統治時代の遺構や建造物を記録するほか、古写真や史料の収集、古老や引揚者の聞き取り調査を進める。 著書に『台北・歴史建築探訪』、『台湾旅人地図帳』、『台湾に生きている日本』、『古写真が語る台湾 日本統治時代の50年』など。
台湾事情や歴史秘話、日台の結びつきなどをテーマに講演をこなすほか、ツアーの企画なども行なっている。

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