目次
源氏物語のあらすじ①~光源氏の青年時代は 恋の旅路を歩む貴公子
ある帝の時代、光り輝く玉のような皇子(みこ)、光源氏が生まれます。
幼くして母を亡くした光源氏は、母の面影を宿した初恋の女性と出会いますが、それは禁断の恋でした。成長した光源氏は恋の冒険に励み、零落した女性との恋愛を繰り返していきます。
帝への裏切りとなる恋焦がれた女性との逢瀬、最愛の女性となる少女との出会い、正妻の死…運命の扉が次々と開いていくのです。
【源氏物語のあらすじ】青年時代の光源氏:誕生から最愛の女性に出会うまで
光源氏の生母は、帝の寵愛を一身に集めていた桐壺更衣(きりつぼのこうい)です。彼女は帝の妃たちの激しい嫉妬を浴び嫌がらせを受け、心労のため、光源氏が3歳のときに世を去ってしまいました。
光源氏は、学問や音楽においても優れた資質を発揮します。帝は弘徽殿女御(こきでんのにょうご)が生んだ第一皇子との間に皇位を巡る争いが起きるのを避けるため、光源氏に臣籍の身分に下し、「源」の姓を与えました。こうして彼は「光る君」「源氏の君」ともてはやされ、「光源氏」と呼ばれるようになったのです。
桐壺更衣を失って悲しみに沈んでいた帝であったが、藤壺(ふじつぼ)という女性を妃として迎えます。彼女は桐壺更衣によく似た容貌で、光源氏も強く心を惹かれ慕うように。やがて元服を迎えた光源氏は、左大臣の娘の葵の上(あおいのうえ)と結婚しますが、成人した光源氏は、理想の女性として藤壺に想いを募らせていくのでした。
17歳になった光源氏は、五月雨(さみだれ)の夜に親友の頭中将(とうのちゅうじょう)らと女性談義に興じ、「中の品の(なかのしなの)女がよい」という意見に興味を覚えます。これは、家柄は悪くないものの、零落しているなどの事情を抱える中流階級の女性のこと。そして、零落した女性との恋愛を繰り返していきます。
当時の光源氏には元東宮妃(とうぐうひ)で、身分が高く教養もある六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)という愛人がいましたが、わびしい家に暮らす夕顔(ゆうがお)という女性に恋をするなど、恋の冒険は止まることはありませんでした。
その後、北山を訪れた光源氏は、藤壺によく似た愛らしい少女・若紫(わかむらさき)(紫の上)を見つけます。若紫は藤壺の姪にあたり、光源氏は、若紫を引き取って理想の女性に育て上げたいと願います。若紫を養育している祖母の尼君は、若紫は幼すぎるからとこの申し出を断りますが、光源氏は尼君が亡くなると、若紫を自邸の二条院に引き取ってしまいます。
【源氏物語のあらすじ】青年時代の光源氏:藤壺との禁断の恋から若紫との結婚
光源氏が若紫と出会った頃、藤壺は体調を崩して宮中から三条宮へと里下がりしていました。これを知った光源氏は、藤壺の寝所に入り込みます。恋い焦がれた女性との逢瀬(おうせ)に、光源氏は「このまま夢のなかに消えてしまいたい」と涙しますが、対する藤壺はこれが世に知られてはと苦悩します。
藤壺は帝が深く愛する妃で、光源氏にとっては義理の母。ふたりは二重の禁忌を犯してしまったのです。しかもこの過ちによって、藤壺は懐妊します。帝は当然自分の子と思って喜びますが、藤壺は激しい罪の意識にさいなまれます。
やがて藤壺は皇子を出産。これが光源氏そっくりの容貌であったため、藤壺は裏切りが露見するのではないかと心乱れましたが、帝は気にとめず美しい者は似ているものだと可愛がります。そしてこの皇子をいずれは東宮にと考え、藤壺の地位を上げて中宮としました。
藤壺の出産の前、光源氏は亡き常陸宮の娘である末摘花(すえつむはな)と契りを交わしますが、その顔を見てびっくり。広い額に長い顔、鼻は伸びて垂れ下がり、先の方が赤く色づいていたのです。しかもスタイルは胴長でやせすぎ角ばっていて、これは当時の美女の基準の逆をいくものでした。
その一方で、光源氏は危険な恋に足を踏み入れます。桜の宴の夜に気まぐれに関係を持った朧月夜(おぼろづきよ)は、弘徽殿女御の妹だったのです。
藤壺の出産から2年後、帝は退位して桐壺院となります。位を譲られたのは弘徽殿女御(こきでんのにょうご)の子・朱雀帝(すざくてい)でした。
この頃、光源氏の正妻・葵の上は子を宿しましたが、折悪しく葵祭(あおいまつり)の日に、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)と葵の上の間に、車の所争い(ところあらそい)の事件が起こります。互いの従者たちが争った末に、六条御息所の車は力ずくで押しやられてしまったのです。屈辱を受けた六条御息所の恨みは生霊(いきりょう)となって葵の上に取り憑き、葵の上を苦しめます。葵の上は床に臥せりがちになり、男児を生むものの、命を落としてしまったのでした。
悲嘆に暮れる光源氏の心を埋めたのは、14歳になった若紫の美しさでした。光源氏は彼女と枕を交わして結婚します。しかしこの結婚は、正式な手順を踏んだものではありませんでした。若紫に馴れ親しんだ光源氏にとって、手続きなどはことの次だったのもしれませんが、女性の成人式である裳着(もぎ)の儀式が後回しになり世間的には軽んじられたも同然の扱いでした。
【源氏物語のあらすじ】青年時代の光源氏:運命が暗転し須磨、そして明石へ
六条御息所との別れの翌々月、桐壺院が崩御します。大后ら右大臣方が権勢を強めた結果、窮地に立たされたのが、東宮(とうぐう)(皇太子)を抱える藤壺です。彼女は右大臣方に対抗するべく光源氏に接近しますが、光源氏は藤壺に恋情を訴えたため藤壺はついに出家してしまいます。
絶望しつつも光源氏は朧月夜との密会を続けます。ところがある夜、朧月夜の父である右大臣が娘の寝所に踏み込んで、光源氏と遭遇。娘の醜聞が公になったことで朧月夜の朱雀帝への入内が立ち消えとなっていただけに右大臣は激怒しましたが、弘徽殿大后は光源氏を失脚させる好機と見て策を練ります。
右大臣方の動きから官位剝奪の危機を察知した光源氏は、自ら須磨(すま)へ退去し、謹慎することを決めます。紫の上に別れを告げ、光源氏はわずかな従者とともに須磨に下ると、読経(どきょう)や写生など出家僧のような日々を送ります。
須磨へ下る以前、追い込まれた光源氏は、故桐壺院の女御・麗景殿女御(れいけいでんのにょうご)とその妹である恋人・花散里(はなちるさと)のもとを訪ねています。過去の思い出に、厳しい状況に置かれていた光源氏はひとときの安らぎを得るのでした。
都を離れて1年が過ぎた頃、須磨が暴風雨に襲われます。すると、生きた心地もしない光源氏の夢に、亡き父・桐壺院が現れ、ここを立ち去るように告げます。すると翌朝、光源氏を明石(あかし)にお連れせよというお告げを受けたという明石の入道が現れます。光源氏は、夢に導かれるようにして明石へ移りました。明石の入道は、自分の娘・明石の君と光源氏の結婚を望み、光源氏もこれを受け入れました。ふたりの仲は深まり、明石の君は懐妊するのです。
一方、京の朱雀帝は、祖父の右大臣や母に逆らえず、光源氏を須磨に追いやったことを悔いていました。そして亡き父・桐壺院が自分を咎め、睨みつける夢を見て目を患います。怯えた朱雀帝は光源氏を呼び戻すと、退位してしまいます。代わって即位したのは、光源氏を実の父、藤壺を母とする冷泉帝です。
政界に復帰した光源氏は、六条御息所から託された娘(前斎宮)を冷泉帝に入内させ、つながりを強固にします。一方、この時期の光源氏を打ちのめしたのが、37歳の厄年だった藤壺の死でした。恋い焦がれ続けた初恋の女性、理想の女性との永遠の別れだったのです。
源氏物語のあらすじ②~位人臣を極めた 光源氏の絶頂期
復権した光源氏は六条院を建設します。それは4町からなる広大な邸宅で、4つの町には四季の風情が配され、紫の上や明石の君たちが据えられました。
その後、公の場でも絶頂を極めていきます。明石の君との間に生まれた姫が成長し、東宮に入内します。光源氏の息子の夕霧が、雲居雁との結婚を内大臣に認められたのもこの頃のこと。さらに光源氏は、冷泉帝のはからいによって准太上(じゅんだじょう)天皇の位を与えらることになります。
【源氏物語のあらすじ】光源氏の絶頂期:息子・夕霧
光源氏と亡き葵の上の子・夕霧(ゆうぎり)は、葵の上の実家で祖母の大宮(おおみや)に育てられ、12歳で元服しますが、光源氏は夕霧を六位という低い位にあえて置きます。
名門の子だからといって苦労も努力もせず高い位を得たところで、後ろ盾がなくなれば地位を失い人の心も離れるだけ。わが子には学問を身につけて這い上がり国家を支え、家を繁栄させるような人物になって欲しいというのです。人の世の移り変わりを知る、光源氏ならではの教育観です。夕霧も、生来の真面目さから学問に打ち込み、優れた成績をあげるようになりました。
夕霧の恋の相手は、内大臣(頭中将)の娘で幼馴染の雲居雁(くもいのかり)ですが、これを知った内大臣は激怒します。雲居雁を入内(じゅだい)させようと考えていたのに、夕霧と男女の仲になっていたのでは断念せざるを得ない。内大臣は雲居雁を自宅に連れ帰り、ふたりは会うことすらできなくなってしまうのです。
その頃、光源氏にはかつて愛した女性の忘れ形見が出現します。
若き日の光源氏の前で突然息絶えた夕顔(ゆうがお)の娘、玉鬘(たまかずら)です。
実は玉鬘の父は、光源氏のライバルの頭中将。光源氏は、今は内大臣となっている実の父にも黙って玉鬘を六条院に引き取ります。すると、これを聞きつけた多くの貴公子から求婚者が殺到する事態となっていきます。光源氏は、求婚者たちからの恋文を見ては、取り持とうとしたり批評したりしていましたが、本心では自身も玉鬘を手に入れたく思っており、ついには、玉鬘にいい寄ってしまいます。
養父の振る舞いに驚き呆れる玉鬘を見て、光源氏もさすがに自制し、玉鬘を尚侍(ないしのかみ)として冷泉帝のもとに入内させようと考えます。光源氏は、玉鬘の裳着(もぎ)の式を行ない、ことの次第を内大臣に打ち明けると、娘と対面を果たした内大臣はうれし涙に暮れました。
しかし、求婚者のひとりで、東宮の母の兄にあたる鬚黒(ひげぐろ)の大将が、強引に寝所に入り込んで玉鬘をものにしてしまったのです。
【源氏物語のあらすじ】光源氏の絶頂期:公の場での頂点につく
その後、明石の君との間に生まれた姫が成長し、東宮に入内することとなります。また息子の夕霧が、雲居雁との結婚を内大臣に認められたのもこの頃のこと。父親同士のわだかまりが消えたことで、若いふたりの恋が成就したのです。
いよいよ明石の姫君が東宮に入内するとき、宮中に上がって付添人を務めていた紫の上は、その晴れがましい役目を生母である明石の君に譲ります。ふたりは同じ六条院に暮らしながらこれまで顔を合わせたことがありませんでしたが、すぐに互いの物腰や気高さを認め合い、気持ちを通い合わせました。
さらに光源氏は、冷泉帝のはからいによって准太上(じゅんだじょう)天皇の位を与えられます。
これは臣籍ながら太上天皇と同等の扱いを受けるということです。冷泉帝は、自分が光源氏の子であることを知っており、父より上の位にいることをよしとしていなかったのです。
冷泉帝と朱雀院が六条院に行幸した際、光源氏は同列の座につき、この上ない栄華を極めたことを広く知らしめました。
【源氏物語のあらすじ】光源氏の絶頂期:女三宮の登場から紫の上の死
新たな正妻の登場が六条院に波乱と秩序の崩壊を招きます。
出家を控えた朱雀院は、光源氏に娘の女三宮(おんなさんのみや)を妻としてくれるよう依頼します。これを知った紫の上は衝撃を受けます。皇女が降嫁(こうか)すれば、自分に代わって正妻となるのです。
光源氏は、女三の宮のあまりの幼さ、頼りなさに失望するも、立場上、女三の宮を重んじなくてはなりません。夜離れが続いて心労を募らせた紫の上は、出家を望むようになっていきます。
六条院で女性たちが楽器を奏でる女楽(おんながく)の催しが行なわれた夜、光源氏と紫の上はこれまでの半生を語り合いますが、紫の上は明け方、胸の苦しみを覚え倒れてしまうのです。
光源氏は、療養のため二条院に移った紫の上を看病し、女三の宮のもとから遠ざかりました。そこへやって来たのが、内大臣の息子で女三の宮を一途に想う柏木(かしわぎ)。突然寝所に入って来た柏木に女三の宮は驚き、うろたえるばかり。柏木が強引に契りを結ぶとその後も逢瀬は続き、女三の宮は懐妊してしまいます。
自分が不在のなかでの妊娠を不思議に思った光源氏は、柏木から女三の宮への手紙を発見して、密通を知ります。光源氏への露見を知った柏木は、震え上がり病床に臥してしまいました。
そうしたなか、女三の宮は柏木との子・薫(かおる)を出産。光源氏は表向き自分の子として育てるものの、その冷淡さに女三の宮は出家を望むようになります。光源氏は世間体をはばかって止めますが、これを聞いてやって来た朱雀院が、自らの手で出家させてしまうのです。
病の床でこれを聞いた柏木は見舞いに来た夕霧に、光源氏の許しを得られないでいることと、妻の落葉宮(おちばのみや)を頼むと言い残し、世を去ります。これを聞いた光源氏は、藤壺との不義を思い、因果応報を痛感するのでした。
一方、病に倒れた紫の上は、自分の命が尽きようとしていることを知って何度も出家を願いますが、光源氏はそれを許しません。そうしたなか、紫の上は、桜の盛りに二条院にて盛大な法要を行ない、すべての人々にそれとなく別れを告げたのでした。
その後、紫の上の病状は悪化。光源氏が見守るなか、明石の中宮(明石の姫君)に手を握られ、紫の上はついに世を去ってしまいます。光源氏は、出家を許してやらなかったことを悔い、葬送の列でも人の支えを借りてやっと歩くほどでした。紫の上を失って、その愛の深さ、非の打ち所のなさに改めて気がつき、それまでの自分の行ないを責めて出家する気力さえもなかったのでした。
その後の光源氏は、外部の人と会わず、六条院の女性たちを訪ねることもせず、御簾(みす)のなかに閉じ籠って暮らします。紫の上の死から1年以上がたつと、出家の思いを固め、紫の上からの手紙や思い出の品々をすべて焼きます。そして光源氏が御簾の外に出たとき、人々は変わらぬ美しさに涙したのでした。
源氏物語のあらすじ③~宇治十条:光源氏亡き後の世界
静けさが漂う光源氏没後の世界で、不義の子・薫は玉鬘との交流を深めていきます。
試行錯誤を繰り返した薫の恋は、悲劇的結末を迎えます。薫が初めて真剣に愛した女性である大君(おおいぎみ)の生き写しの浮舟(うきふね)に出会うのです。
薫は、浮舟に大君の身代わりを求めます。そして、親友でありライバル・匂宮(におうみや)の対抗意識が、薫と浮舟の恋を終焉へと導いていくのです。
【源氏物語のあらすじ】宇治十条:薫と匂宮
物語は、光源氏の死の9年後に移ります。
光源氏の後継者とされる人物はいませんでしたが、何かと女性の間で噂に上るのが薫と匂宮でした。薫は、柏木と女三宮の間に生まれた不義の子ですが、光源氏の子として育てられています。
匂宮は、今上(きんじょう)帝と明石の中宮の間に生まれた皇子で、ことに可愛がられていました。
不思議なことに薫は、生まれつき体からよい香りが漂っていました。自分の出生には何か秘密があるのでは、と薄々感じていたため万事控え目で、女性にも興味がないようでした。
一方の匂宮は薫に対抗すべく、自らあれこれ香を調合しては衣に焚きしめ、多くの女性に言い寄っていました。何かと競い合うふたりは仲のよい友人で、婿として迎えたいと望む家がたくさんありました。
光源氏の時代に多くの男性を魅了した玉鬘は、鬚黒の妻となって家庭を築いており、ふたりいる娘はどちらも美しいと評判でした。
玉鬘は誠実な薫に何かと相談を持ちかけ、婿になってくれたらと望んでもいましたが結局、姉の大君(おおいぎみ)は冷泉院(れいぜいいん)のもとへ上がり、妹君は今上帝に入内します。
【源氏物語のあらすじ】宇治十条:かなわなかった薫の恋
いずれ出家をと考えていた薫は、宇治の八の宮のもとを訪れるようになります。八の宮は光源氏の異母弟ですが、仏道修行を続け、俗聖(ぞくひじり)と呼ばれている人物。薫は八の宮と語り合ううちに、八の宮のふたりの姫君の存在を知るのです。
八の宮との交流が始まって3年もたってから、薫は八の宮のふたりの姫君を垣間見ます。姉の大
君は落ち着いた様子で、妹の中の君は明るく可愛らしい。薫は姉の大君にすっかり心を奪われ、文を交わすようになります。そしてある日、薫は老女房の弁(べん)という人物から自分の出生の秘密を知らされ、柏木と女三の宮が交わした手紙も渡されます。薫はふたりの恋に胸を熱くする一方で、これは誰にも知られてはいけないと考えます。
薫から宇治の姫君たちのことを聞いた匂宮は、中の君と文を交わすようになります。八の宮が薫に姉妹の後見を依頼して世を去ると、薫は悲しみに沈む大君に結婚を申し込みますが、拒絶されてしまいます。
そこで薫はまず匂宮と中の君を結婚させ、それからまた大君を説得しようと考えるものの、大君の怒りを買い失敗。しかも大君は病の床につき、帰らぬ人となってしまうのです。
【源氏物語のあらすじ】宇治十条:浮船に大君の身代わりを求める薫
大君が没してからも、薫は彼女を忘れることができません。そして中の君から、姉の大君によく似た女性がいると聞かされます。その女性・浮舟(うきふね)は八の宮の子で、大君や中の君の異母妹です。浮舟の母親から置いてくれるよう頼まれた中の君が、浮舟を受け入れます。
浮舟を垣間見た薫は、大君に生き写しだと驚き、彼女こそ大君の「人ひと形がた(身代わり)」だと考えます。浮舟を妹として可愛がる中の君も、薫を見て浮舟と結ばせようと考えます。
ところが匂宮が中の君の夫でありながら、浮舟の部屋に入り込み、言い寄ります。浮舟は危うく逃れ、薫は浮舟を宇治へ連れて行きます。しかし薫は、道中の牛車のなかで浮舟を抱きしめながらも、大君のことばかりを思い出しては浮舟と比較していました。浮舟は遠慮ばかりして素直すぎ、大君と比べて物足りない、教育すれば大君のような女性になるかもしれない……など、薫にとって浮舟は、大君の身代わりに過ぎなかったのです。
浮舟が宇治にいるのを知った匂宮は、薫の留守に女房たちをだまして浮舟の部屋に入ると、驚いて声も出せないでいる浮舟と関係を持ちます。薫に世話になっている浮舟は、薫への申し訳なさで消え入りそうな思いでいますが、またやって来た匂宮の、小舟で浮舟を連れ出すような奔放さ、情熱にも惹かれてしまいます。
とはいえ、薫が求めているのは大君の身代わりで、匂宮も色好みと薫への対抗意識での行動。ついに浮舟は死を決意するのでした。
浮舟が消えて、宇治は大騒ぎ。宇治川に入水(じゅすい)したのではと考えられ、葬儀も行なわれますが、浮舟は生きていました。横川僧都(よかわのそうず)に助けられ、何ヶ月もたってやっと回復したのです。しかし何を尋ねられても素性を明かさず、自ら横川僧都に懇願して出家を果たします。
浮舟が消えてから1年が過ぎ、この女性の噂を聞いた薫は浮舟だと直感。しかし浮舟は会うことを拒み、浮舟の弟・小君を使いにやっても人違いだといって手紙を手に取ろうともしません。小君からそれを聞いた薫は、誰か男性が浮舟を隠しているのではないかと疑うのでした。
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【第2部】 押さえておきたい『源氏物語』
〔第3章〕光源氏の青年時代―恋の旅路を歩む貴公子
〔第4章〕栄華の頂点―位人臣(くらいじんしん)を極めた光源氏
〔第5章〕宇治十帖―光源氏亡き後の世界
【監修者】竹内正彦
1963年長野県生まれ。國學院大學大学院博士課程後期単位取得退学。博士(文学)。
群馬県立女子大学文学部講師・准教授、フェリス女学院大学文学部教授等を経て、現在、國學院大學文学部日本文学科教授。専攻は『源氏物語』を中心とした平安朝文学。著書に『源氏物語の顕現』(武蔵野書院)、『源氏物語発生史論―明石一族物語の地平―』(新典社)、『2時間でおさらいできる源氏物語(だいわ文庫)』(大和書房)、『図説 あらすじと地図で面白いほどわかる!源氏物語(青春新書インテリジェンス)』(青春出版社、監修)、『源氏物語事典』(大和書房、共編著)ほか。
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