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ナシリ・メナシの戦いのへ経緯①:松前藩の特殊なシステム「商場知行制」

江戸時代の幕藩体制では、主君が家臣に土地(知行地(ちぎょうち))を貸与し、所領から得られる収益を安堵(保証)していました。これは農業を基盤とするシステムであり、米が収穫できない松前藩では、特殊な形態をとっていました。それが「商場(あきないば)知行制」です。

松前藩は「商場」と呼ばれる交易所を家臣にあてがい、商場に出向いて交易をし、そこでの収益が家臣の収入となりました。幕府から対アイヌ交易権を認可された藩主が、交易の権利を知行として家臣に分与する形で封建的主従関係を維持したのです。この「商場知行制」は、寛永年間(1624~1645年)には成立していたようです。

ナシリ・メナシの戦いのへ経緯①:松前藩の特殊なシステム「商場知行制」

松前藩では、農地ではなく「商場」が家臣に与えられました。商場の区画はアイヌ集落をもとに区分されました。

ナシリ・メナシの戦いのへ経緯②:アイヌとの交易を商人に請け負わせる「場所請負制」

時代を経て元文年間(1736~1741年)になると「場所請負(ばしょうけおい)制」が始まります。従来の「商場知行制」では藩士が直接交易を行っていましたが、商場交易の権利を商人に預け、請負人(商人)がアイヌとの交易を代行し、藩士(知行主)は運上金を受け取るだけのシステムに変化したわけです。

ナシリ・メナシの戦いのへ経緯②:アイヌとの交易を商人に請け負わせる「場所請負制」

商人たちが自ら漁業を始めるなど交易が複雑化すると、松前藩家臣は商人に商場の経営を任せるようになったのです。

ナシリ・メナシの戦いのへ経緯③:アイヌに不利な交易の拡大

18世紀中頃には、日本海沿岸の寄港地で商品の売買を繰り返しながら航行する「北前船(きたまえぶね)」が盛んになり、蝦夷地は大坂と航路で結ばれました。商人資本が投入されて交易の規模が大きくなると、松前を中心に和人地も開拓されていきますが、そのいっぽうでアイヌの生活圏は徐々に脅かされていきました。また、アイヌ側からすれば請負人以外に交易相手の選択肢がないため、分の悪い交易を強いられることが多くなっていきました。

ナシリ・メナシの戦いのへ経緯④:アイヌが迫害に耐えかねて蜂起する

商人たちは交易だけにとどまらず、漁業開発にも乗り出します。そうしたなかでアイヌたちは漁場を奪われ、低賃金で酷使され、なかでもクナシリを請け負った商人・飛騨屋はアイヌへの横暴が苛烈を極めました。働きの悪い者は殺す、アイヌの土地を奪うと脅迫し、実際にアイヌを殺害したり、アイヌ女性への暴行をはたらいたりしていたのです。

そしてクナシリの惣長人(そうおとな)・サンキチが、支配人から振る舞われた「暇乞(いとまごい)の酒」を飲んで死亡するに至ると、1789(寛政元)年5月、クナシリ本島とメナシ地方の合計130名以上のアイヌが蜂起し、飛騨屋関係者など71人の和人を殺害したのでした。

クナシリ・メナシの戦い関係図

クナシリ・メナシの戦い関係図
『北海道の歴史』(山川出版社、2015年)を元に作成

もともと東蝦夷地のアイヌは和人支配に強く反発しており、交易にこぎつけるまでにも時間がかかりました。こうしたアイヌ勢力の抵抗は、ロシアの南下の抑止力にもなっていたといわれます。

クナシリ・メナシの戦いその後:アイヌ首長たちの協力より鎮圧された蜂起

アイヌ蜂起の報告を受けた松前藩はただちに鎮圧軍を派遣しました。蜂起勢と松前藩の衝突は不可避かと思われました。ですが、アイヌの首長たちが松前藩に協力し、アイヌ勢を説得したことにより、蜂起勢は次々と投降。両陣営の激突は避けられたのです。

結果、飛騨屋は責任を問われて場所請負人の権利を剥奪され、アイヌ側の首謀者37人が処刑されて事件は収束しました。なお、鎮圧に協力したアイヌの首長らは松前藩に讃えられ、『夷酋列像(いしゅうれつぞう)』という連作の肖像画が描かれました。

事件後、東蝦夷では場所請負制が幕府に管理され不正は防止されるようになりますが、半面、アイヌは幕府の経済体制に組み入れられていくのでした。

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