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カミオカンデの当初の建設目的は陽子崩壊観測の装置だった

そもそもカミオカンデはニュートリノ観測のためにつくられたわけではありません。1974(昭和49)年に大統一理論という素粒子理論が生まれ、すべての物質が崩壊すると提言されました。世界中の研究者がそれを証明しようと躍起になり、当時の東京大学理学部・小柴昌俊教授も陽子崩壊を検出するための実験計画を作成。物質に含まれる陽子が壊れた時、放出される粒子が発するチェレンコフ光を捉える観測装置をつくろうとしました。つまりカミオカンデは陽子崩壊観測の装置だったのです。

その装置建設候補地の一つが神岡町でした。陽子崩壊は非常に稀有な現象で、宇宙線が大気に突入した時の反応にも類似し、地上に装置を置けば他の現象と判別が難しくなります。そのため硬い岩盤に守られた地中である必要があったのです。

カミオカンデが建設されることとなった神岡鉱山

神岡町は鉱山の町です。神岡鉱山は奈良時代の養老年間(720年前後)から採掘が始まり、戦国時代や江戸時代にも部分的に開発されました。江戸時代には銀山が隆盛となり、1874(明治7)年からは三井組が近代的な鉱山経営に着手し、数多くの鉱床を生み出しました。閉山する2001(平成13)年までの130年間、亜鉛・鉛を採掘し続けました。

鉱山は役目を終えますが、長年培った技術を生かし、亜鉛精錬を始め精錬工場が市内で稼働しています。周辺の地層は飛騨片麻岩類(ひだへんまがんるい)という硬い岩盤が分布する飛騨帯に属し、日本の中でも古い時代に生まれたと考えられています。この丈夫な岩盤と、最大地下1000mの土の層に空洞を掘れることから装置の建設地に選ばれ、1983(昭和58)年にカミオカンデが完成します。20インチの光電子増倍管1000本と、3000トンの水を備えた巨大装置は、すぐにデータを収集し始めました。

カミオカンデはニュートリノの検出に成功し、スーパーカミオカンデでニュートリノの質量を捉えた!

しかし、陽子崩壊はなかなか検出されません[1996(平成8)年から稼働しているスーパーカミオカンデでも検出されておらず、現在計画中のハイパーカミオカンデに夢が託されています]。
そこで1984(昭和59)年から「太陽ニュートリノ(太陽が核融合反応する際に放出されるニュートリノ)の観測を目指そう」と路線変更し、改造を始めたのでした。ここからカミオカンデの躍進は始まり、1987(昭和62)年の超新星爆発ニュートリノの初検出を皮切りに、太陽ニュートリノ欠損の確認や大気ニュートリノの謎を呼び起こし、スーパーカミオカンデ建設へと繋がります。遂には大気ニュートリノと太陽ニュートリノの振動を発見し、ニュートリノの質量を捉えたのです。

この功績が評価され、2002(平成14)年には小柴教授、2015(平成27)年には東京大学宇宙線研究所の梶田隆章氏がノーベル賞を受賞しました。神岡鉱山は、宇宙線研究の最先端の地に生まれ変わったのでした。

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Part.2 岐阜を駆ける充実の交通網

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Part.3 岐阜で動いた歴史の瞬間

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・瀬戸から美濃への大移動 秀吉や家康をトリコにした美濃焼 ほか

Part.4 岐阜で育まれた産業や文化

・福澤桃介の木曽川水力発電が中京と関西を近代化させた!
・アパレル・窯業・伝統工芸品など「ものづくり」大国へと成長
・夏の世を彩る長良川鵜飼 苦難を乗り越えたかがり火
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・神岡鉱山の跡地に生まれたカミオカンデの大躍進

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