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アイヌと和人をつなぐ安東氏

北海道に独自文化を築いた民族についての(本州側の)文献史料としては、1356(延文元)年に成立した『諏方大明神絵詞(すわだいみょうじんえことば)』が挙げられます。本州の東北、大海の中央に「蝦夷カ千嶋(えぞかちしま)(=北海道)」があり、そこには「日ノモト・唐子(からこ) ・渡党(わたりとう)」の3種類の集団が群居していたとあります。

このうち渡党の居住地域には宇曾利鶴子(うそりけし)別(函館)と前堂宇満伊犬(まとうまいぬ)(松前)がありました。渡党は言葉が通じたことから和人との交易をし、その際に和人側の窓口となったのが「蝦夷管領(かんれい)」こと津軽の安東氏でした。

安東氏は十三湊(とさみなと)(青森県五所川原市)を拠点に日本海貿易を展開し、この頃にアイヌとの交易も盛んになりました。安東氏に騒乱が起きた際には、渡党は津軽外ヶ浜(青森県東津軽郡)まで出向いて合戦に加わっており、安東氏の影響下で津軽海峡を自由に航行できた様子がうかがえます。

日ノモトや唐子とは言葉が通じなかったようですが、いずれにせよ室町幕府からはこの3集団が北海道に住む民族として認識されていたのでした。

アイヌと和人をつなぐ安東氏

蝦夷地にはない鉄器や米を手に入れるため、アイヌは和人と交易をしました。ニヴフを通じて入手する中国製織物や鷲の羽根などが、和人向けの重要な交易品でした。

アイヌへの蒙古襲来は「元寇」よりも先だった

中世のアイヌの歴史で注目すべきは「北からの蒙古襲来」です。蒙古襲来というと1274(文永11)年の元(げん)による対馬侵攻(文永の役)、1281(弘安4)年の北九州来攻(弘安の役)の「元寇(げんこう)」が一般的ですが、実は元は同時期に樺太にも侵攻していたのです。

そもそもモンゴル帝国は中国に征服王朝(元)を樹立する直前、1263(弘長3)年に樺太に遠征し、ロシアの少数民族ニヴフを服属させていました。ニヴフはアムール川下流域から樺太にかけての地域に居住していた先住民族で、オホーツク文化の担い手であったとする説があります。モンゴルに臣従したニヴフは、樺太はたびたび骨嵬(ぐうぇい)(アイヌ)に侵攻されて困っていると皇帝クビライ(フビライ・ハン)に訴えました。

このような経緯でクビライは、翌1264(文永元)年に樺太にモンゴル軍を派遣したのです。つまり「北からの蒙古襲来」は、文永の役より10年も早く始まっていました。そして、文永・弘安の役と異なるのは、こちらはアイヌの侵攻への対抗措置としてモンゴル側が軍を派遣したところにあります。

13世紀の東北アジア情勢

13世紀の東北アジア情勢
『山川 詳説世界史図録 第3版』(山川出版社、2020年)を元に作成

13世紀には、モンゴル民族による中国の征服王朝・元が大陸の広範囲を支配下に収めました。樺太を巡るアイヌと元の戦いは長期に及んだのです。

アイヌの樺太侵攻と元のアイヌ討伐

ともあれ、この「北からの蒙古襲来」でもアイヌの樺太侵攻が止むことはなく、元は1284(弘安7)年から「兵万人、舟千艘」を動員した大規模なアイヌ征伐を開始。この遠征はクビライの死後の1308(延慶元)年まで続き、最終的にはアイヌが毛皮を朝貢することを条件に講和しました。実に40年以上かかったわけであり、それだけアイヌの抵抗が激しかったこともありますが、気候や地理が元軍に不利にはたらいたものと思われます。

以降、樺太からアイヌは排除されますが、のちに元朝が衰退して支配力が低下すると、アイヌは北上を再開し、樺太進出を図るのでした。

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