補陀落渡海は熊野三山だけでなく全国にも確認できる
熊野三山の歴史を伝える『熊野年代記』によると、補陀落渡海の第1号は、868年に那智から出航した慶龍上人(けいりゅうしょうにん)であるとされます。これ以後、熊野では1722年までに25人の僧侶が海を渡っています。
また高知県の足摺岬や室戸岬、博多湾などからも出航が確認されています。全国での出航者を合わせると50人以上になり、『平家物語』にて熊野詣を終えた平維盛(たいらのこれもり)が那智の海に入水した話も、補陀落渡海の一部であるとされています。
平維盛(平清盛の孫)は、1180年に源氏追討の総大将となりましたが敗走し、1183年に源義仲の軍に敗れ都落ちした。翌年、高野山で出家し、那智で入水したとされています。
補陀落渡海で奇跡的に生きて南の島へ漂着した例
補陀洛山寺を中心地とする渡海は1722年まで続きましたが、僧侶が生きて浄土に着くことはありませんでした。そのほとんどが餓死か溺死という結果に終わっています。それでも、生還した事例もいくつかあります。
たとえば、16世紀半ばに出航した日秀(にっしゅう)上人は、奇跡的に沖縄本島へと流れ着きました。地元民に救助された日秀は沖縄に残り、布教活動に励んだとされます。
補陀落渡海で逃亡したものの末路
しかし、生還しながらも入水自殺を強要された事例もあります。1565年に出航した金光坊(きんこうぼう)は、航海の途中で船から脱出。そして勝浦沖の島に逃亡したのですが、現地の信者によって海に突き落とされています。この事件が起きた島が、勝浦町沖合(かつうらまちおきあい)の金光坊島(きんこぶじま)であるといいます。
補陀落渡海は金光坊事件以降二度と行われず
この事件の影響によって補陀落渡海は下火となり、その後は僧侶の死体を海へと流す水葬式に改められました。生きた僧侶の出航は二度となく、江戸中ごろには水葬すらも廃れたのです。
なお、井上靖の小説『補陀落渡海記』は金光坊の事件を参考にして書きあげられました。小説なので脚色は多いのですが、航海への葛藤と生への執着に関する描写は読みごたえがあります。また、補陀洛山寺の境内には、1993年に復元された渡海船のレプリカが展示されています。
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