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鳥取城内に住民たちが逃げ込むよう画策。羽柴秀吉の狡猾な策謀がいかんなく発揮
短期間で戦いのための陣を築くのは秀吉の得意技です。秀吉はまず、鳥取城周辺に丸山・雁金の城を構築。これらの城を拠点にして、鳥取城と周囲の交通を遮断しました。また周辺の村落を襲撃し、住民たちが鳥取城内に逃げ込むよう画策。農民ら2000人が先に籠城していた兵士1400人に加わり、城内の兵糧はあっという間に枯渇してしまいます。さらに秀吉は、米を高値で買い占めたり、海や河川からの補給路も断ったりと、素早く兵糧を枯渇させる策を次々に講じました。それ以前の播磨国三木城の籠城戦で、落城までに2年近くを要した苦い経験があったからです。
補給を絶たれた鳥取城内は秀吉の進軍から1か月で兵糧米が尽き、草木や家畜も食い尽くしたあげく4か月後には餓死者が出るようになりました。その凄惨さは、秀吉軍から銃撃を受け傷ついた兵が生きたまま解体されて食べられたほどだといいます。鳥取方にはあまり詳細な記録が残っていませんが、秀吉方では『信長公記』にその悲惨な様子が繰り返し記されています。勝者側の記録ゆえに誇張が入っているとしても、過酷な戦闘状況だったことは間違いないでしょう。
鳥取城は開城するも吉川経家、旧山名家臣は自害
鳥取方で籠城戦を指揮した吉川経家(きっかわつねいえ)はやがて降伏を決断。秀吉は吉川経家を家臣に迎えたい考えを示しますが、吉川経家は自害を選択しました。続いて旧山名家臣も自害し、ついに開城となりました。秀吉は空腹の兵士らに食料を振舞いますが、飢餓状態から急に食べ始めたためにショック死する者も多かったと伝えられています。
鳥取城攻めは、なぜこれほど悲惨な結果に終わったのでしょうか。通常であれば籠城側の兵糧が少なくなった段階で降伏がない場合、力攻めに転じるというのが攻城戦のセオリーです。しかし、秀吉軍は執拗に降伏を待ち続けたのです。軍事力を次の戦いに温存するため消耗を最低限に抑えようと考えたのでしょうが、勝つための手段を選ばない秀吉の冷徹な性格も垣間見えます。そうした怜悧に先を見通す戦略眼の高さが、後に天下人に上り詰めた要因のひとつといえそうです。
鳥取城跡は久松公園として美しく整備され感慨深く目に映る
鳥取城周辺には今も秀吉が拠点を置いた太閤ケ平(たいこうがなる)や陣跡が残っています。また、鳥取県立博物館には吉川経家の遺言状など、鳥取城の戦いに関する資料が収蔵されています。久松公園として美しく整備され鳥取市民の憩いの場になっている鳥取城跡も、その歴史をよく知るほど感慨深く目に映ります。
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