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数々の灌漑施設を手掛けた丈八こと橋本勘五郎

通潤用水は、矢部の惣庄屋(そうしょうや)・布田保之助(ふたやすのすけ)の主導で造られました。江戸時代、熊本藩では領内を、54の「手永(てなが)」という行政区分に分け、責任者として惣庄屋を置いていました。矢部(やべ)手永は、その中でも、78カ村、78人の庄屋からなる熊本藩最大の規模でした。布田は、それらの庄屋たちのトップに立つ、今でいえば町長のような立場で、田吉、小原、長野、犬飼、新藤、小ヶ蔵(こがくら)、白石、畑村8カ村への通水を計画しました。また、実際の工事で活躍したのは、種山石工と呼ばれる丈八(じょうはち)を中心とした技術者集団でした。彼らは、熊本城の「武者返し」と呼ばれる石組の技術を導入して、通潤橋を完成させたと伝えられています。丈八はその後、橋本勘五郎と名乗り、明治政府から招聘され、皇居の旧眼鏡橋や日本橋、浅草橋、江戸橋、万世橋なども手掛けています

熊本の灌漑施設はいくつも「世界灌漑施設遺産」にも登録されている

の通潤用水は国の重要文化財に指定されているほか、2014(平成26)年に「世界灌漑施設遺産」にも登録されていますが、実は熊本県には通潤用水以外にも、世界灌漑施設遺産に登録されている施設があります。「幸野溝・百太郎溝水路群」(球磨郡湯前町、多良木町他:2016年登録)、「白川流域灌漑用水群」(熊本市、菊陽町、大津町:2018年登録)、「菊池の灌漑用水群」(玉名市、山鹿市、菊池市、和水町:2019年登録)がそれにあたります。

驚くべきことは、これらすべてが、現在も機能を失うことなく、農業用水や生活用水として利用されているばかりではなく、観光資源などとしても新たな価値を生み出していることです。

熊本の灌漑施設①:通潤橋

観光客のために予定日を決め、放水を行っています。2016年4月の熊本地震による橋上部の損傷に加え、2018年5月の豪雨で石垣が崩落するなどの被害を受け、保存修理工事を行っていましたが、2020年から放水が再開しています。

熊本の灌漑施設②:白川流域の灌漑用水群の「鼻ぐり井手」

白川流域の灌漑用水は、菊池郡菊陽町馬場楠の白川取水口から12km先の熊本市大江渡鹿までの田畑に水を送っています。岩盤掘削時に一部を壁のように残し、その下辺に穴をくり貫いてトンネル状にすることで、掘る岩の量を減らすと同時に、水流が穴の壁にぶつかった際に渦を巻き上げ、土砂と一緒にはき出し、川底に土砂を溜めないように工夫されています。

熊本の灌漑施設③:菊池の灌漑用水群の「原井手下り」

菊池の灌漑用水群は1615年の「築地井手」の建造に始まり、615haの水田に灌漑用水を供給する菊池川の水源とした施設群。崩れやすい石灰岩質の山間部を貫通する水路トンネルなど、当時の農業土木技術が集約されています。今では用水路の一部(原井手)を活用して、カヤックで下る「原井手下りアドベンチャー・イデベンチャー」も人気となっています。

熊本の灌漑施設④:百太郎溝

百太郎溝は、現在の百太郎公園付近を取水口とし、幹線水路の延長は約19㎞で、多良木町、あさぎり町、錦町の1500haを潤しています。開削開始時期は定かではありませんが、鎌倉時代には始まり、5回にわたって工事が行われ、1710(宝永7)年に完成したとされています。

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Part.1 地図で読み解く熊本の大地

・激しい地殻運動が生んだ熊本県の変化に富んだ地形
・御船町でさまざまな恐竜の化石が発見されるのはなぜか?
・阿蘇で今も語り継がれる「健磐龍命蹴裂伝説」の謎
・南北に分断された九州がひとつになった理由とは?
・4つの川は熊本にとって恵みの存在なのか?
・ちょっと不思議な天草諸島の地形はどうやってできたのか?
・熊本は「火の国」ではなく、実は「水の国」だった!?

…などなど熊本のダイナミックな自然のポイントを解説。

Part.2 熊本を駆け抜ける鉄道網

・熊本の物流を支える鉄道はどうやってつくられたのか?
・熊本電鉄の路線で、“懐かしの車両”に出合えるのはいったいなぜなのか?
・2020年7月豪雨で存亡の危機に! 果たして肥薩線は復活できるのか?
・全線不通から全線開通は可能か? くま川鉄道と南阿蘇鉄道の挑戦は続く
・熊本を走る観光列車のいろいろ。その歴史と魅力を知っておこう!
・九州新幹線の開通で人の流れは変わったのか?

…などなど熊本ならではの鉄道事情を網羅。

Part.3 熊本で動いた歴史の瞬間

・旧石器時代の沈目遺跡の打製石器は誰がつくったのか?
・弥生時代の熊本は鉄器製造の一大産地だった!?
・菊池を450年にわたって支配した大豪族・菊池氏の正体は?
・肥後を支配した守護代「大友氏」の壮絶な家督争いとは?
・加藤清正が「セイショコさん」と呼ばれ、今でも熊本県民に慕われるワケは?
・西南戦争における最大の激戦「田原坂の戦い」とは?
・軍都へと変貌していった熊本県と熊本城の運命は?

…などなど、激動の熊本の歴史に興味を惹きつける。

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