熊本の古墳分布からみる向野田古墳への違和感
一方、これまでにわかっている熊本県における古墳時代前期の集落跡の分布をみると、菊池川中流域では多くの集落跡が発見され、農耕も盛んだったことがわかっているのに対し、宇土半島の基部には大規模集落の跡は発見されていません。つまり、古墳時代前期、向野田古墳があった宇土半島基部は、まだまだ人の少ない辺境の地だったと考えられます。
そんなところになぜ、古い時代の前方後円墳が集中しているのでしょうか?
向野田古墳は侵略から守るためのシンボル?
それは当時の人々にとって、向野田古墳があるあたりが自分たちが完全に支配下におさめていた世界と支配できない外界との境界線にあたっていたことから、自分たちの支配圏を象徴し、外界からの侵略から守るためのシンボルとして前方後円墳を築いたのではないかとする研究者もいます。
古墳時代はまさに古墳とともにあった
また、向野田古墳が築かれてから100年以上経った、5世紀末から6世紀初頭に築かれたとされる江田船山(えたふなやま)古墳(玉名郡和水町瀬川)からは、日本最古の本格的記録文書である75文字の銀象嵌(ぎんぞうがん)銘をもつ大刀(鉄刀)が出土しています。この古墳の被葬者は雄略(ゆうりゃく)大王に仕えたムリテという名の文官だったと考えられていますが、『記紀』によれば、雄略大王は反抗的な地方豪族を武力でねじ伏せ、帝権を飛躍的に拡大させたと伝えられており、日本の支配構造が大きく変わりゆく時期を象徴していると言えるかもしれません。
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