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アポイ岳は地球内部を構成するカンラン岩が露頭した珍しい山
カンラン岩は、アポイ岳の登山道沿いや東を流れる幌満川(ほろまんがわ)の峡谷など、至るところで観察することができます。このカンラン岩は、地球の内部、地殻の下、数10~60㎞の上部マントルの岩石が地表に現れたものです。アポイ岳はもちろん、隣のピンネシリ山を含む一帯がすべてカンラン岩でできているのです。これだけ広範囲なカンラン岩露頭は、世界でも非常に稀です。
アポイ岳周辺および登山道
白線が登山道を示しています。アポイ岳の登山口は海岸線から約1㎞地点にあります。人それぞれの体調や気候にもよりますが、一般的に頂上までの往復にかかる時間は4時間半~6時間。
東側直下を流れるのが幌満川。ピンネシリを含むアポイ山塊はカンラン岩でできています。
アポイ岳でカンラン岩が露頭した理由
ではなぜ、地球内部にある岩石が地表に現れ、山を形成しているのでしょうか?
約4000万年前、東側の北米プレートが西側のユーラシアプレートへ徐々に近づき、衝突しました。その後も北米プレートは西に動き続け、約1300万年前、プレートの先端がユーラシアプレートの上にめくれ上がるように乗り上げてできたのが日高山脈です。この地球規模といえる大変動の衝撃によって、地殻の下にあったマントルの一部が地上に押し上げられ、アポイ岳一帯ができたのです。
こうして一帯は、地中深くにあるはずのマントル物質を目の当たりにできる奇跡の地となりました。
アポイ岳一体で観られるカンラン岩とは
カンラン岩は、おもにカンラン石、斜方輝石(しゃほうきせき)、単斜(たんしゃ)輝石という3つの鉱物からできています。もっとも多く含まれているのがオリーブ色をしたカンラン石で、その美しい結晶は、8月の誕生石である「ペリドット」という宝石になっています。
アポイ岳のカンラン岩はマグマを間近で観察できるような貴重な岩
また、カンラン岩は、地下深くのマントルから上がってくる際、水と反応して蛇紋岩(じゃもんがん)という岩石に変質してしまうことが多くあります。
しかし、アポイ岳のカンラン岩は、地下深くにあったときのままで、ほとんど変質していません。しかも、含まれている鉱物の種類や割合が違ういろいろなタイプのカンラン岩があり、「幌満カンラン岩」として地下のマグマの様子を知るための貴重な学術標本にもなっています。
アポイ岳には固有の高山植物が数多く生育
アポイ岳は、高山植物を楽しめる山でもあります。標高810mという低山なのに、数多くの高山植物が見られ、固有種は20種近くに及びます。これほど固有種が集まっている地域は世界的にもめずらしいとされています。
アポイ岳は、形成されてから一度も海面下に沈んだことがないので、誕生した当時の植物がそのまま残っています。また、アポイ岳のカンラン岩の土壌は、ニッケルやマグネシウムなど植物が生育しにくくなる成分を含み、乾燥していて栄養分も乏しいのです。そのため、針葉樹林ができにくくなっています。
また、海に近いため、夏場は霧に覆われることが多く高山に近い環境になります。こうした条件がアポイ岳を生物多様性のホットスポットにしているのです。
アポイ岳は、多種多様な植物を育みつつ、人類が到達していない地球内部の様子を知ることができる貴重な場所なのです。
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