1872（明治5）年4月、手始めに旧藩士360人で、赤川の河川敷3万坪の試験開墾を試みたのち、同年8月から、今度は約3000人を34組に編成し、予定地である月山山麓後田村の広大な山林地帯の開墾に着手しました。開墾地には旧藩主も訪れ、「松ヶ岡（まつがおか）」の立札を揮毫（きごう）したことから、以後は松ヶ岡が開墾地の正式名称となりました。

刀を鍬にもちかえた旧藩士たちは、山を掘削して大木を伐採し、1874（明治7）年までに約311ヘクタールの土地を拓きました。そしてそこに茶や桑を植え、茶の栽培や養蚕事業を始めました。養蚕事業は団体経営の方式がとられ、開墾に携わった旧藩士は当初、開墾場に居を構えず、鶴岡城下から開墾場へと通勤していたといいます。その後、養蚕の先進地である上州富岡（じょうしゅうとみおか）に人を送ったり、向こうから技術者を呼んだりして養蚕技術の習得をはかりました。また、1877（明治10）年までに大蚕室10棟を建設しました。松ヶ岡開墾場の蚕室は、大きな柱と梁をもち、通風と換気に気を配った和風構造建築。5棟が現存し、うち1棟は開墾記念館として利用されています。

こうして松ヶ岡の主要産業となった養蚕は、近隣地域にも導入され、1887（明治20）年には鶴ヶ岡城址に近い新海町（しんかいまち）に松岡製糸所が創設されました。松岡製糸所はその後、明治後期の世界的好景気を受け、事業を拡大させていくことになります。

この鶴岡の新たな産業となった養蚕と絹織物産業に注目し、技術者を養成する学校を設立するなど投資をしたのが、鶴岡一の豪商・風間家です。風間家は、庄内藩の御用商人の出で、明治期には貸金業を営み、酒田の本間家に次ぐ大地主になりました。この風間家の七代当主の幸右衛門（こうえもん）が住居と経営の拠点として建設したのが「丙申堂（へいしんどう）」で、日本の近代化を示す文化遺産として、今に至るまで大切に保存されています。

松ヶ岡の広大な開墾地は、近年まで開墾者の子孫の共有とされていました。松ヶ岡開墾場をはじめとする文化財で構成されるストーリーは、日本遺産「サムライゆかりのシルク」に認定されています。

養蚕業が行われなくなってから、桑畑の跡地はブドウ畑などに転用され、ワイナリーも建設されました。

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