甲斐銚子塚古墳とヤマト王権との関係
大型前方後円墳が連続して築かれた背景には、ヤマト王権の同盟者として力をもった有力者の存在が、出土品などから浮かび上がります。
甲斐銚子塚古墳からは、王権に関わりのある畿内から配布されたとみられる三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)など鏡が5面出土しており、その関係性は疑いようもありません。
甲斐銚子塚古墳からの出土品
一方、山梨県産の水晶を用いて作られた勾玉(まがたま)も出土しています。近年の研究では古墳時代前期に東日本一円に流通する水晶製玉類の多くに山梨県産の水晶が使用されており、県内から玉類や玉の素材が各地に供給されていたことが明らかになりました。
さらに、前期古墳に副葬された宝器として知られる腕輪型石製品などについても、在地生産の可能性を示唆する資料が見つかっています。
大丸山古墳から特異性のある鉄製品が出土したことから、甲府盆地の中で鍛冶が行われてきたことも想定され、甲斐銚子塚古墳の南東にある東山北遺跡では畿内で本格的に馬を飼育するより早い時期の、日本最古級の馬の骨も出土しています。
甲斐銚子塚古墳からわかること
これらの事から、畿内とのコネクションを保持しつつも、鉄や馬などの先端技術を積極的に取り入れ、水晶を中心に各地へ玉類やその素材を贈与することで自らの勢力を拡大する、ヤマト王権を縮小したような同盟者がこの地に存在していたことが考えられます。
初期のヤマト王権は地域王権の連合体であるため、甲斐の有力者も早くからこの一員として参画していたものと見られます。その独自性は、水晶製の勾玉だけでなく、甲斐銚子塚古墳から見つかった中央では見られない特殊な木製品などからもわかります。
同古墳の周溝から出土したさまざまな形の木製品は組み合わせることができ、棒状木製品の上に円盤状木製品をのせ、円盤状木製品に蕨手状木製品を刺し込み目釘で固定していたとみられています。これらの木製品は古墳の墳丘や周辺に設置され、古墳での祭祀に使われた道具と考えられ、2014(平成26)年に「銚子塚古墳出土木製祭祀具」として新たに山梨県の有形文化財(考古資料)に指定されました。
甲斐銚子塚古墳の築造背景
ヤマトタケルの神話では、甲斐は東征の対象というより、立ち寄りどころとして描かれています。考古学的にこれらの伝承をただちに追認することはできないものの、古代における畿内と甲斐の関係を考えるうえで示唆に富むものです。
東日本最大級の前方後円墳が築造された背景には、王権中枢からも一目置かれる有力者がこの地に存在したことを示しているのかもしれません。
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Part.3 山梨で動いた歴史の瞬間
・古代 いにしえの八ヶ岳周辺は“星降る里”だった!?
・古代 甲斐銚子塚古墳が東日本最大級なワケ
・平安~中世 武田氏の先祖にあたる戦国エリート「甲斐源氏」
・中世(鎌倉) 日蓮聖人の波乱に満ちた生涯と身延山
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・戦国時代 信玄が進み勝頼が広げた武田氏の最大領地は?
・江戸時代 徳川家康に対抗するために築城された甲府城
・江戸時代 幕府直轄地で発展した甲州街道と富士川舟運
・近現代 幕末の財界を牛耳った甲州商人が売ったもの
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