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井波彫刻の傑作が集まる瑞泉寺

前川に習った地元大工の1人・番匠屋(ばんしょうや)9代・田村七左衛門(たむらしちざえもん)が瑞泉寺勅使門(ちょくしもん)の扉両脇に彫った「獅子の子落とし」は、七左衛門の代表作にして日本彫刻の傑作といわれています。「母獅子が子獅子を谷に突き落とし、上がってきた生命力の高い子だけを育てる」ということわざを、3枚の浮彫りで表現したものです。這い上がってくる子を見守る親獅子の厳しさと愛情が、躍動感のある彫刻から伝わってきます。

井波彫刻の粋の結集「太子堂」

さらに、瑞泉寺には日本一大きな太子(たいし)堂があります。聖徳太子2歳の尊像が安置されているため、この名で呼ばれています。世界最古の木造建造物である法隆寺などの建築に関わった聖徳太子は、いわば大工の神様。当然、井波の大工たちも聖徳太子への敬いを大切にしてきました。

この太子堂はその信仰の表れでもあり、井波彫刻の粋の結集。随所に見事な彫刻が見られ、なかでも屋根を支える4つの手挟(たばさみ)は、外側が桐に鳳凰、内側は水波に龍が施されており、際立って精緻な彫刻につい引き込まれてしまいます。

井波彫刻で1本の木から掘り出された「波に龍」

山門には、前川三四郎によって施された彫刻「波に龍」。いくつもの層をなす立体的な彫刻は、たった1本の木から彫り出されたものというから驚きです。内側を透かすように彫る技があるといいますが、あまりの細かさにただただ圧倒されます。この山門の龍は、一方には髭がありますが、もう一方にはそれがありません。未完成な部分を残し、後世の職人に補ってもらうという目的で、あえて髭がつくられなかったようです。そうして職人たちは、先人の技を見ながらさらに磨きをかけてきました。技術とともに、心意気も受け継がれたのです。

井波彫刻の書院欄間が名誉金賞受賞!

以後もその門流が江戸時代末期まで技法を競い、主に仏閣彫刻を手掛けました。明治時代に入ってからは寺院欄間に工夫を凝らし、そこから新しい欄間彫刻も生まれていきました。

大正3(1914)年、井波の彫刻師・大島五雲(おおしまごうん)の書院欄間がサンフランシスコ万国博覧会に出品され、名誉金賞を受賞。大正9(1920)年には井波彫工会が設立され、組織として住宅用の欄間の開発をおこなうようになりました。この頃から井波彫刻は「井波欄間」という名で広く知られ、町の産業へと発展しました。

井波彫刻はノミ以外の工具は使わない

井波彫刻の製作工程で特徴的なのは、ノミ以外の工具を使わないこと。削り出しから最後の仕上げまで、すべてがノミでおこなわれ、このノミでの作業がミリ単位の細工を可能にしているのです。彫刻師たちが操るノミは200本にも及びます。
この伝統産業を引き継ぐ若手を育てるべく、「井波木彫刻工芸高等職業訓練校」が運営され、後進の育成を促しています。現在でも井波には200人を超える木彫り職人がおり、日本一の彫刻のまちであり続けています。

井波彫刻は新たな製品づくりにも力を注ぐ

日本家屋が減ってきていることは事実であり、欄間や衝立の需要も減少。しかし、井波彫刻では照明器具や看板、ギターなどの新たな製品づくりにも力を注いでいます。たった4人の大工から始まった井波彫刻の歴史。宮大工としての技術だけでなく、現代の暮らしに沿ったものづくりにも裾野を広げています。

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Part.1 地図で読み解く富山の大地

・立山連峰との高低差4000m!「きときと」ぞろいの富山湾
・黒部ダムが大電源を生み出すまで
・崩壊を続ける立山カルデラ
・極東の氷河の南限は立山! 国内初の氷河認定とライチョウ
・神秘の光景! 魚津の蜃気楼と雨晴海岸の気嵐
・2000年前に形成された魚津埋没林
・富山の水がおいしいヒミツ
・立山の地下には「何か」がある! 活断層はあるのに地震が少ない理由
・富山湾のホタルイカはなぜ有名?

…など

Part.2 富山を駆ける充実の交通網

・北陸新幹線開業による光と影
・河川敷にある富山きときと空港
・SDGs未来都市に選定 ライトレールが象徴するまちづくり
・伏木港は神戸港に憧れた男の夢
・立山の観光ルートは1つじゃない? 一般開放が待ち遠しい黒部ルート
・マッターホルンの麓町から着想 低速電気バスEMUと宇奈月温泉
・鉄オタ集結地! 富山県は公共交通の宝庫
・V字峡谷を走るトロッコ電車

…など

Part.3 富山の歴史を深読み!

・江戸時代は鮎だった! 駅販売で広がったます寿し
・富山県成立までの複雑な歴史/越中の英雄・佐々成政の人物像
・焼け野原と化した富山大空襲/富山の遺跡&古墳は個性派ぞろい
・放生津に存在した亡命政権
・越中の伊能忠敬 射水出身の測量家・石黒信由
・越中の黄金郷 加賀藩極秘の「越中の七かね山」
・北陸近代医療の父・黒川良安
・世界遺産は加賀藩の軍事工場 五箇山でおこなわれた塩硝づくり

…など

Part.4 富山で育まれた文化や産業

・「越中おわら節」はなぜ有名?
・財政難を立て直した富山の売薬
・布教のためのテキストだった 曼荼羅から読み解く立山信仰
・秀吉も称えた伝説の刀工・郷義弘
・売薬商人は危ない橋を渡っていた? 薬の密貿易が生んだ昆布文化
・有名な創業者も多く輩出 富山県民は倹約家で働き者
・ジャポニズムの立役者・林忠正
・アニメの聖地が多い富山県
・瑞泉寺再建から始まった井波彫刻

…など

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