パリに渡った明治11（1878）年は、ちょうど3回目のパリ万博開催年。林忠正は貿易商社の起立工商会社の通訳として雇われ、この万博に関わることになります。当時、すでにパリでは日本美術への関心が高まりつつありました。万博へ日本の展示品を見に来た画家や評論家の前に林忠正は立ち、流暢なフランス語で作品の解説をおこない、その熱のこもった解説を通じ、彼らはよりいっそう日本美術への理解と興味を深めていきました。

林忠正は、工芸品や絵画を日本から直接仕入れてヨーロッパに広めていきました。この頃、日本では卑しいものとされていた浮世絵の価値をいち早く見出し、その芸術性を認めるべきだと日本人に対しても説いています。

明治19（1886）年には、得意のフランス語を生かして、世紀末のパリを代表するビジュアル誌であった『パリ・イリュストレ』紙の日本特集号に記事を寄稿。これが2万5000部の大ベストセラーとなりました。

明治33（1900）年のパリ万博では、民間人として初めて事務官長に就任。いわば日本の出展プロデューサーとして、日本の美術作品の魅力をアピールしました。長年美術界に貢献したことから、フランス政府から教育文化功労章1級やレジオン・ドヌール3等章を贈られています。フランス印象派の画家たちとも親交を深め、日本に初めて印象派の作品を紹介したのも林忠正で、印象派の巨匠といわれるマネと親しんだ唯一の日本人でもありました。明治38（1905）年に帰国した際に500点ものコレクションを持ち帰り、西洋近代美術館を建てようと計画しますが、翌年にこの世を去り、その夢は叶わぬままでした。

日本に国立西洋美術館が誕生したのは、林忠正の没後50年のこと。大量の日本美術・工芸品を国外に流出させた国賊などと批判も受けますが、その審美眼で日本と西欧を結んだ功績は色褪せることはありません。

「世界のムナカタ」といわれた棟方志功は、明治36（1903）年、青森県に生まれました。ゴッホの絵に感銘を受けて芸術家を志し、上京してからは、民藝運動で知られる柳宗悦（やなぎむねよし）や河井寛次郎らと交流を深め、感性を磨き上げていきました。

同じ頃、富山県福光町（現在の南砺市）にある光德寺の18代目住職・髙坂貫昭（こうさかかんしょう）も民藝運動に熱心に打ち込んでいました。昭和13年（1938）年頃、河井寛次郎を通じて髙坂貫昭と棟方志功は知り合います。以降二人は深く交際し、棟方志功は年に数回光德寺を訪れるようになりました。棟方志功がこの寺の襖に描き上げた『華厳松（けごんまつ）』は、襖が窮屈に見えるほど躍動感のある松が見る者の心をとらえ、棟方志功の最高傑作と呼び声高い作品です。

第二次世界大戦末期、棟方志功は家族を連れて福光へ疎開。昭和20（1945）年から6年8カ月の間、この地に留まりました。棟方志功は福光の風土を愛し、そこで建てた住居を谷崎潤一郎の命名によって「愛染苑（あいぜんえん）」と呼び、自宅の8畳間のアトリエを「鯉雨画斎（りうがさい）」と名付け、制作に打ち込みます。

南砺市ではこれらを移築保存し、福光美術館の分館として一般公開しています。愛染苑では疎開生活の間に制作された作品を中心に展示。この住宅に入居してすぐ棟方志功が描いた厠の天女や菩薩は必見です。

この疎開生活を終えた数年後、棟方志功は日本人として版画部門で初の国際版画大賞を受賞。棟方志功が世界に飛躍するまでの軌跡を福光で感じられます。

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