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郷義弘は正宗の技術と独自の作風を併せもった名工
特に郷義弘は名工として語り継がれる人物。詳しい生い立ちはあまり分かっていませんが、一説によると、後醍醐天皇に献上された正宗の短刀を見てその技術に惚れ込み、21歳のときに正宗に弟子入りしたといわれています。刃文の中や境に銀の砂粒のように現れた粒状の組織を沸(にえ)と呼びますが、正宗はこの沸の美しさを追求する刀づくりで知られていました。また、独自の地鉄(じがね)をつくり上げているところも正宗らしい特徴といわれています。郷義弘はこの技術を吸収し、刃の文様の美しさを加えて独自の作風に昇華させていきました。
郷義弘の刀は豊臣秀吉も高く評価
名刀の蒐集家でもあった豊臣秀吉もまた郷義弘の刀に魅入られた1人で、正宗、粟田口吉光(あわたぐちよしみつ)、郷義弘を高く評価し、さらに徳川吉宗の命によって編纂された『享保名物帳(世にある名物刀剣をまとめた台帳)』では、正宗、吉光、郷義弘が筆頭に記されており、世に「天下三作」と称されるようになりました。
郷義弘の銘が入った刀は現存しない
天下人の心を奪うほどに優れた名工でしたが、郷義弘が銘を入れた刀は現存していません。無銘の作で郷義弘の作と認定された国宝や重要文化財はあるのですが、早逝だったこともあり、そもそも作品数が極端に少ないのです。「郷とお化けは見たことがない」といわれることからも、その稀少価値の高さがうかがえます。現在郷義弘の刀といわれるものは、刀の研磨を生業としてきた本阿弥(ほんあみ)家が郷義弘作と鑑定したものか、無銘ですが郷義弘作だろうと判断されたもののみです。
郷義弘の作品「稲葉江」と「富田江」
最も有名な作品は「稲葉江(いなばごう)」(岩国美術館所蔵)と「富田江(とみたごう)」(前田育徳会所蔵)で、どちらも国宝。郷義弘が松倉金山に近い松倉城下の松倉郷に住んでいたことから郷と名乗った説と、郷義弘の本姓は「大江氏」だったとする説があり、作品に江とつくのはこの姓に由来するといわれています。
郷義弘の刀を観ることができる「秋水美術館」
存在自体が幻にも近い郷義弘の刀ですが、富山県でお目にかかれる場所があります。2016年、富山市に開館した「秋水美術館」です。地元医薬品メーカーが集めた貴重な刀剣をはじめ、多くの陶芸品や絵画が展示されています。2階の常設展示室では、国の重要文化財「虎徹」や「正宗」、そして郷義弘や佐伯則重の刀を鑑賞することができます。鎌倉末期に大和国から越中に移り住んだ刀工集団「宇多派」による作品もここに収められています。
「流星刀」は隕石からつくられた刀
さらに富山と刀の結びつきを感じさせるのが、富山市科学博物館に保管されている「流星刀」です。この刀は隕石の一種である隕鉄(いんてつ)というものからつくられており、大変珍しいものです。
「流星刀」は富山市科学博物館で観ることができる
隕鉄が上市川上流で見つかったのは明治の頃。農商務省地質調査所の分析により隕鉄であると判明し、それを知った当時の大臣・榎本武揚は、この隕鉄を購入し刀を5振りつくらせました。ロシアで皇帝が所蔵する隕鉄を材料とした刀を見せてもらったことから、自分でも作ってみたいと考え、またこれを皇太子(後の大正天皇)に献上しようしたのでした。1振りは献上され、他は現在、榎本武揚ゆかりの東京農業大学(長刀)と北海道の龍宮神社(短刀)に納められています。富山市が榎本の子孫から購入した1振りが科学博物館に展示されるに至り、1振りだけが所在不明です。貴重な1振りが富山で見られるのは喜ばしいことです。
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