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「遠野物語」は柳田國男が佐々木喜善と出会ったことにより生まれた
東京帝国大学卒業後、農務省に入省した柳田國男は、法制局参事官や宮内書記官などを務めた、いわばエリート官僚でした。仕事で地方の農村などを目にするうち、次第にその地の風習や伝承に興味をもつようになりました。
そんななか、柳田國男は遠野出身の若き作家・佐々木喜善(きぜん)と出会いました。佐々木喜善は、たびたび柳田國男のもとを訪れ、郷里・遠野に伝わる説話、民話などを話して聞かせたといいます。
佐々木喜善の話に大いに興味をもった柳田國男は、それをもとに『遠野物語』を執筆。柳田國男はのちに、佐々木喜善の話は面白いが、彼のお国訛(なまり)には苦労した、つまり東北弁を聞き書きするのは大変だったというエピソードを残しています。東北で生まれ育った佐々木喜善が朴訥(ぼくとつ)と語る姿が目に浮かぶようです。
「遠野物語」にあるような説話や民話が多く残るワケ
さて、遠野にはなぜ多くの説話、民話が残され伝えられてきたのでしょうか。それは、遠野の地理的な特徴と関係しているといわれています。
遠野は早池峰山(はやちねさん)の裾野にある山あいのまちですが、西に花巻、北上、東に陸前高田、大船渡(おおふなと)、北は盛岡と、昔から重要な町がありました。そして、往来する人々は中継点として遠野を通ったのです。農民、商人、さまざまな人々が遠野を訪れたことでしょう。
そもそも、遠野には遠野南部氏の居城・鍋倉城(なべくらじょう)があり、城下町も発展していました。江戸時代、遠野は盛岡についで大きな町といわれ、毎月1と6のつく日には市(いち)が立つなど、人々の往来が多かったです。
交通の要衝としての役割を担った遠野には、必然的に、それぞれのご当地に伝わる不思議な言い伝えも集まることになります。
遠野の位置関係
西に花巻、北上、東の沿岸部に釜石、大船渡、北沿岸部に宮古、大槌、県南の奥州、南の玄関口一関と、岩手の主要な町につながる遠野。交通の要衝だったことがわかります。
遠野に説話や民話が多く残る別説
さらに、交通の要衝とはいえ、北上山地に位置する遠野は、山々に囲まれた地です。人々の生活基盤となる山に対する独特な信仰や、あるいは畏怖のような感情が生まれるなかで、さまざまな不思議な話、怖い説話がこの地に定着していったという説もあります。
たとえば、遠野で盛んだった養蚕の神様として信仰されている「オシラサマ」は桑の木をご神体としますが、同時に狩りの神様と信じる者もいたといいます。『遠野物語』に描かれた「オシラサマ」の言い伝えは、まさに山を基盤とした生活に根差した信仰から生まれた物語といえるでしょう。
かくして、「オシラサマ」やカッパ、「座敷童(ざしきわらし)」など民話、怪異の里となった遠野は、今でも多くの旅人を魅了してやみません。
遠野物語ゆかりの地を巡る観光が人気
現在、遠野では『遠野物語』で描かれた民話、説話などが、大切な観光資源となっています。
さまざまな伝承のゆかりの地を巡ったり、言い伝えを受け継いできた「語り部」が語り聞かせてくれたりなど、山里に暮らした昔の人々の風習、信仰を肌で感じられるおもてなしは、全国から訪れた旅行者を楽しませています。
遠野市周辺
鍋倉城跡のある遠野駅周辺から、広がるように名所、記念館などが数多く居並ぶ遠野の町。周囲を深い山々に囲まれ、ある種閉鎖的な空間のなかで、不思議な伝承が語り継がれてきました。
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・一ノ関以北で客車が走り続けた 大幹線・東北本線の歴史と実力
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・『銀河鉄道の夜』の原風景を走る岩手軽便鉄道に始まった釜石線
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Part.3 岩手で動いた歴史の瞬間
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・胆沢平野を中心に米作が進み 強大な権力も生まれる
・蝦夷のリーダー・アテルイと ヤマト王権の熾烈な争い
・安部氏から奥州藤原氏 やがて群雄割拠の戦乱へ
・前九年・後三年の役が終結し 花開いた黄金の平泉文化
・大崎氏と斯波氏の時代を経て 南部氏と伊達氏が台頭
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