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野田玉川鉱山は最大級のマンガン鉱床

一般的に見られるマンガンは鉄に似ており、銀白色の金属として知られています。マンガンは単独の金属として加工して用いられることはなく、おもに鉄の性質をより高めるための副原料であったり、化学薬品、乾電池の製造において必要不可欠な原料として使われてきました。

岩手県の北部、北上山地には、こうしたマンガンを含む鉱物が採掘される大小さまざまな鉱山が200カ所以上あり、野田玉川鉱山は、それらのなかで最大級のマンガン鉱床でした。

野田玉川鉱山周辺の地質図

野田玉川鉱山周辺の地質図
産業技術総合研究所地質調査総合センターの5万分1地質図幅「陸中野田」を元に作成

地質図のピンク色部分が花崗岩、野田玉川鉱山周辺のオレンジ色がチャート(岩石)。マンガンを含んだチャートが海洋プレートの移動で付加体となり、花崗岩の熱と熱水で変成作用を受けてさまざまなマンガン鉱をはじめ、多様な鉱物ができました。

野田玉川鉱山とマンガンの特徴

昭和30年代の戦後復興期、日本は高度経済成長の時代に突入。岩手県としてはマンガンという貴重な資源を最大限に利用すべく、鉱物研究者に鉱山の調査を委託。そして、野田玉川鉱山の鉱床の詳細な地層の様子や、新産鉱物の発見など大きな成果を得ました

ひと口にマンガン鉱といっても、前述のように銀白色の鉱物の塊が掘り出されることはなく、地層の中で変性し、ほかの鉱物に含まれる形で見つかるのがマンガンの特徴です。

したがって、採掘するなかで新たなマンガン鉱が発見されることもあります。野田玉川鉱山では、「吉村石(よしむらせき)」「木下雲母(うんも)」「原田石(はらだせき)」の3種類の新鉱物が発見されました。

なかでも有名なのは「原田石」です。マンガンを含む鉱物で、野田玉川鉱山のほかには鹿児島の大和鉱山からしか見つかっていない希少性の高い鉱物です。ケイ酸塩鉱物で、緑色に鮮やかに輝く美しい鉱物です。

野田玉川鉱山の最盛期と休山

高度経済成長期に最盛期を迎えた野田玉川鉱山は、1960(昭和35)年、選鉱場を新設したことによって、月産粗鉱3000〜4000トンを達成。名実ともに国内有数のマンガン鉱山となりました。鉱山町には鉱山従業者の社宅、映画館などの娯楽施設もでき人々の活気にあふれていました。

1958(昭和33)年に地下330m(11番坑)まで掘り進められましたが、1968(昭和43)年には最下層に当たる440mまで採掘していました。

しかし、国内の戦後復興開発が落ち着いてきた時代を迎えると、業績は急激に悪化し、1972(昭和47)年に休山となりました。

野田玉川鉱山の現在とマリンローズ

野田玉川鉱山を含めた地域一帯は、近年、観光業に力を入れています。三陸一円では、古代生物の化石や鍾乳洞などを観光資源としたジオ・パーク事業が展開中です。

そのなかで、野田玉川鉱山は「マリンローズパーク野田玉川」として、往時の坑道の一部を展示しており、当時使われていた採掘機械や採掘跡、採掘風景などを見学することができます。さらに、常時10度前後という気温もあり、ワイン貯蔵庫としても利用されているといいます。

そして、一番の目玉が販売用に加工された「バラ輝石」です。マンガンを含み、赤いバラのような色合いが特徴のケイ酸塩鉱物で、学名は「ロードナイト」といいます。

野田玉川鉱山からは、宝石に利用できる質のよい「バラ輝石」が産出します。愛称は「マリンローズ」。この美しいジュエリーは観光客に人気があります。

マリンローズパーク野田玉川

住所
岩手県九戸郡野田村玉川5-104-13
交通
三陸鉄道リアス線野田玉川駅から徒歩15分

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・宮沢賢治が名付けた理想の地? イーハトーヴの風景地とは
・三陸海岸のうち南部だけが リアス海岸になっている理由
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・カルスト台地に刻まれた猊鼻渓と 幽玄洞は古生代の化石の宝庫!
・ティラノサウルス類化石も発見! 国内最大の琥珀産地・久慈

などなど岩手のダイナミックな自然のポイントを解説。

Part.2 岩手を駆け抜ける鉄道網

・軌道から車両まで対策は万全! 積雪地帯を快走する東北新幹線
・一ノ関以北で客車が走り続けた 大幹線・東北本線の歴史と実力
・急勾配を克服する物流の幹線 IGRいわて銀河鉄道がすごい!
・『銀河鉄道の夜』の原風景を走る岩手軽便鉄道に始まった釜石線
・三陸縦貫鉄道を引き継ぎ誕生! 沿岸部を走る三陸鉄道リアス線
・龍ヶ森の急勾配を越えろ! 奥羽山脈を横断する花輪線

などなど岩手ならではの交通事情を網羅。

Part.3 岩手で動いた歴史の瞬間

・人々が定住し集落が生まれ 南北それぞれの文化が発達
・胆沢平野を中心に米作が進み 強大な権力も生まれる
・蝦夷のリーダー・アテルイと ヤマト王権の熾烈な争い
・安部氏から奥州藤原氏 やがて群雄割拠の戦乱へ
・前九年・後三年の役が終結し 花開いた黄金の平泉文化
・大崎氏と斯波氏の時代を経て 南部氏と伊達氏が台頭
・戊辰戦争での敗北から 紆余曲折ののち岩手県が成立

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