玉山金山の歴史
玉山金山の歴史は古く、天平年間(729~749年)、聖武天皇の命により、東大寺の大仏の鋳造に使う金を探していた高僧・行基によって発見されたと伝えられています。
玉山金山から産出した金はこんな場所にも使われている!
玉山金山で産出される金は、奈良東大寺の大仏建立に供給され、平安時代には奥州藤原氏の栄華を支え、中尊寺金色堂にも使われました。13世紀のベネチアの商人マルコ・ポーロの『東方見聞録』には「ジパング(日本)は莫大な金を産出し、宮殿や民家は黄金でできている」という記述がありますが、その宮殿こそ中尊寺金色堂だという説があります。
江戸時代には、仙台藩初代藩主・伊達政宗(だてまさむね)が積極的に金山開発を行い、玉山金山は雪沢、今出山、坂本沢とともに「伊達の四金山(気仙四大金山)」とされました。
玉山金山の価値は近代でも高く評価されていた
また、近代においても日露戦争の軍事費が不足したとき、日本銀行副総裁の高橋是清(これきよ)は気仙地域の金山を担保にしてアメリカやイギリスから戦費を借りています。
玉山金山の金鉱脈の成り立ち
一般的に、金鉱脈はマグマから分離した高温の熱水溶液が岩石の割れ目に貫入し、なかに含まれていた金や石英が濃集、沈殿してできることが多くなっています。いっぽう、玉山金山の周辺には、約4億4000万年前(古生代シルル紀)にマグマが冷え固まってできた「氷上花崗岩」と呼ばれる花崗岩が分布しており、そこに金鉱があります。
花崗岩はマグマが冷え固まってできる岩石です。地下深くのマグマはゆっくりと冷えるため、結晶が大きく成長します。こうしてできた結晶の大きな岩石を「ペグマタイト」と呼びます。ペグマタイトの結晶には、石英、黒雲母、カリ長石などが含まれていますが、玉山金山の場合、白雲母ペグマタイトの中に多くの金が含まれていたのです。
玉山金山周辺にはいくつか金山がありましたが、いずれも約4億4000万年前にできた日本最古のペグマタイト金鉱床です。
玉山金山は休山と採掘を繰り返した
しかし、玉山金山の黄金期は短かったのです。幕府が1644(正保元)年に諸大名に命じてつくらせた正保国絵図には「玉山本金山、金は不出」と記されています。事実、玉山金山は休山と採掘が繰り返されていました。明治後期に金の埋蔵量が40億円相当とする調査報告こそあれ、実際に採掘されることはありませんでした。
玉山金山は良質な水晶の鉱脈としても知られる
明治初頭まで採掘されていたのは水晶です。玉山金山の「玉」とは、水晶のことを表しており、玉山からは金とともに透明度が高く両端が尖った「両頭水晶」と呼ばれる良質の水晶も産出されました。
奈良の正倉院に納められている水晶製の数珠も、玉山金山の水晶であるといわれています。
玉山金山の現在
現在、坑道は閉鎖されていますが、玉山金山跡には和右衛門坑、千人坑、尺八堀坑などの掘削跡や働いていた人たちの住居跡が山中に点在しています。
なお、2019(令和元)年、玉山金山跡は、陸前高田市、平泉町、宮城県気仙沼市、南三陸町、涌谷町の全5市町の金山跡などとともに「みちのくGOLD浪漫」として「日本遺産」に認定されました。
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などなど岩手のダイナミックな自然のポイントを解説。
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・一ノ関以北で客車が走り続けた 大幹線・東北本線の歴史と実力
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・胆沢平野を中心に米作が進み 強大な権力も生まれる
・蝦夷のリーダー・アテルイと ヤマト王権の熾烈な争い
・安部氏から奥州藤原氏 やがて群雄割拠の戦乱へ
・前九年・後三年の役が終結し 花開いた黄金の平泉文化
・大崎氏と斯波氏の時代を経て 南部氏と伊達氏が台頭
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