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小林多喜二の『蟹工船』執筆は蟹工船問題の報道から

蟹工船では、カニの漁獲から脱甲、缶詰への加工までを一貫して海上で行いました。この特殊な形態のため、工場法も航海法も適用されず、非人道的な労働者の使役が横行していました。まさに「法の抜け道」だったのです。

1926(大正15)年に、複数の地元新聞社が蟹工船問題を集中的に報道。蟹工船が遭難船の救助を不利益として怠ったことや、漁夫・雑夫の虐待を行っていたことが話題となりました。

当時、多喜二は北海道拓殖銀行(拓銀)小樽支店に勤務しながら、ひそかに執筆活動を行っていました。報道を見て蟹工船に関心をもち、新聞のスクラップをしたり、蟹工船の出漁地である函館で蟹工船の漁夫に話を聞いたりと取材を重ねました。そして書かれた『蟹工船』の単行本は、半年で3万5000部を販売したといいます。

小林多喜二がプロレタリア文学を書き始めた背景

そもそも多喜二がプロレタリア文学を書き始めたのはなぜだったのでしょうか。その背景には、家庭の厳しい経済状況と、北海道特有の労働環境がありました。

1903(明治36)年、多喜二は秋田の貧しい農家に生まれました。1907(明治40)年に家族で小樽へ移り住みます。伯父が興したパン製造・販売店「三星堂」の支店を開業するためです。移住して間もなく、多喜二の家の裏手で、小樽港の第二期築港工事が始まります。家の近くに労働者を収容する土工部屋が建ち、危険な工事で何人もの労働者が犠牲となりました。

極寒の未開地である北海道には十分な数の労働者が集まらなかったため、甘い言葉で労働者を誘い出して監禁し、半強制的に働かせる「タコ労働」がしばしば行われていました。「タコ」の語源は、「飢えたタコが自分の手足を食べるように肉体と労働力を切り売りするから」「他人に雇用されるから(他雇)」など諸説あります。たびたび工事現場へパンを売りにいった多喜二の心のなかに、過酷なタコ労働の印象が強く焼きついたことは想像に難くありません。

多喜二は伯父から学費の援助を受け、小樽商業学校、小樽高等商業学校(現・小樽商大)へ進学。エリートコースを歩みながら、雑誌投稿や同人誌制作に精を出す文学少年に育っていきます。

小林多喜二のプロレタリア文学執筆と政治活動の末の死

卒業後に多喜二が就職した拓銀は、北海道開発のための資金供給と、資本家や地主への融資を中心に行っていました。優秀で柔和なため行内で評判のよかった多喜二ですが、銀行員として資本主義の支配構造に関与することに自己欺瞞を感じたのでしょうか。やがて労働運動や農民運動にのめり込んでいきます。

こうした政治活動が問題視され、1929(昭和4)年に多喜二は拓銀を解雇されます。以後、上京して精力的な執筆と政治活動を行いました。治安維持法の弾圧対象とみなされた多喜二は、1933(昭和8)年に特高警察に逮捕され、築地署で拷問の末に殺害されてしまいます。

多喜二の命日である2月20日前後、小樽では毎年「多喜二祭」が行われています。

小樽の小林多喜二ゆかりの地

小樽の小林多喜二ゆかりの地

石炭の積出港だった小樽港は、北海道経済の中心地でした。色内町には20行以上の銀行の支店が集まり、「北のウォール街」と呼ばれていました。

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<コラム>
データで分かる全189市区町村 人口、所得、農業・漁業
初三郎が描いた北海道の鳥瞰図
過酷な気候と労働が生んだ 小林多喜二のプロレタリア文学

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