立山黒部アルペンルートの歴史
昭和35（1960）年、富山県・立山開発鉄道・北陸電力・関西電力の4社が協同で立山黒部有峰観光開発会社を設立し、立山周辺の観光開発が本格的に始まります。観光の足として最初に登場したのは、トロリーバス（現在は電気バス）。黒部ダムが中部山岳国立公園内に建設されたため、環境に配慮し排気ガスを出さないための交通手段として、昭和39（1964）年に関西電力によって運行が開始されました。
その後、富山側からも黒部ダムへのロープウェイとケーブルカーの整備が始まります。当初は富山と長野を結ぶ全線自動車道路が計画されていましたが、自然保護団体の反対によってその計画は頓挫。大観峰（だいかんぼう）から黒部平まではロープウェイ、黒部平から黒部湖まではケーブルカーで移動する形に計画を一部変更し、ようやく昭和46（1971）年に現在のアルペンルートが完成しました 。
水平歩道と日電歩道は命がけの上級者向け登山道
アルペンルートが東西に延びている一方、黒部峡谷鉄道の終点である欅平（けやきだいら）と黒部ダムを南北に結ぶルートも存在します。このルートのうち、黒部ダムから仙人谷（せんにんだに）ダムへの区間を日電歩道（にちでんほどう）、仙人谷から欅平（けやきだいら）までの区間を水平歩道（すいへいほどう）と呼びます。
水平歩道は、電源開発にあたって東洋アルミナムが水利権獲得後に開削した調査歩道であり、日電歩道は、東洋アルミナムの後を引き継いだ日本電力が開削した歩道です。これらは道幅が80㎝程度しかなく、すれ違うことも難しい歩道です。転落防止の柵もなく、命綱のワイヤーが張られているだけの上級者向け登山道です。登山愛好家の間では「黒部にケガなし」という言い伝えがあり、黒部を歩くことは命がけで、転落すればケガでは済まないことを表しています。
黒部ルートとは？
一方、これらの登山道とは別に黒部川第三発電所や黒部川第四発電所の建設にあたり、大量の資機材を運ぶための輸送ルートが開発されました。現在も、関西電力が発電設備の保守・工事用として使用しているこのルートは「黒部ルート」と呼ばれ、区間は約18㎞。その大半がトンネル内で、欅平を起点に下部専用鉄道、竪坑エレベーター、上部専用軌道、インクライン（地下式ケーブル―カー）、黒部トンネル内専用バスを乗り継いで黒部ダム最初の下部専用鉄道は、欅平駅から約500mを進み、約80mのスイッチバックで竪坑エレベーターへと向かいます。エレベーターに乗り込むと、一気に200m上昇します。付近の河川勾配が急であったため、欅平から川沿いに鉄道を延ばすことができず、山の中腹を200m垂直に貫いているのがこのエレベーターの特徴です。
立山駅から長野県の扇沢駅までを結ぶのが立山黒部アルペンルート。それに対して黒部ルートは欅平から黒部ダムを結びます。
黒部ルートで工事が難航した「高熱隧道」
その先は上部専用軌道となり、耐熱車両に乗り換えます。黒部川第三発電所の建設の際につくられたもので、岩盤温度が高い阿曽原〜仙人谷間の一帯を通過します。このエリアは「高熱隧道（こうねつずいどう）」と呼ばれ、トンネル掘削工事が難航した場所です。黒部川第四発電所の建設の際、軌道区間は仙人谷から上流に800m延伸され、総延長約6.5㎞を耐熱車両で進みます。さらにそこからインクラインに乗り換えて、最後は専用バスで黒部ダムへ到達します。
黒部ルートの一般開放は2024年からスタート！
珍しい乗り物を複数乗り継いで地底を突き進むダイナミックな道のりが、観光客にとっては魅力的なのは言うまでもありません。これまでは一般向けの公募見学会が開催されるのみで、抽選で選ばれた人しか立ち入ることができませんでしたが、富山県は新たな観光ルート化を狙って「黒部ルートの一般開放・旅行商品化」を申し入れました。この要望を関西電力が受け入れ、2024年には一般開放（年間最大1万人）が開始されることに。そうすれば、宇奈月温泉からトロッコ電車の黒部峡谷鉄道を経て黒部ルートに入り、黒部ダムから山岳観光の立山黒部アルペンルートに入るといった周遊が実現することになります。
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Part.1 地図で読み解く富山の大地
・立山連峰との高低差4000ｍ!「きときと」ぞろいの富山湾
・黒部ダムが大電源を生み出すまで
・崩壊を続ける立山カルデラ
・極東の氷河の南限は立山! 国内初の氷河認定とライチョウ
・神秘の光景! 魚津の蜃気楼と雨晴海岸の気嵐
・2000年前に形成された魚津埋没林
・富山の水がおいしいヒミツ
・立山の地下には「何か」がある! 活断層はあるのに地震が少ない理由
・富山湾のホタルイカはなぜ有名？
…など
Part.2 富山を駆ける充実の交通網
・北陸新幹線開業による光と影
・河川敷にある富山きときと空港
・SDGs未来都市に選定 ライトレールが象徴するまちづくり
・伏木港は神戸港に憧れた男の夢
・立山の観光ルートは1つじゃない? 一般開放が待ち遠しい黒部ルート
・マッターホルンの麓町から着想 低速電気バスEMUと宇奈月温泉
・鉄オタ集結地! 富山県は公共交通の宝庫
・V字峡谷を走るトロッコ電車
…など
Part.3 富山の歴史を深読み！
・江戸時代は鮎だった! 駅販売で広がったます寿し
・富山県成立までの複雑な歴史／越中の英雄･佐々成政の人物像
・焼け野原と化した富山大空襲／富山の遺跡＆古墳は個性派ぞろい
・放生津に存在した亡命政権
・越中の伊能忠敬 射水出身の測量家･石黒信由
・越中の黄金郷 加賀藩極秘の「越中の七かね山」
・北陸近代医療の父･黒川良安
・世界遺産は加賀藩の軍事工場 五箇山でおこなわれた塩硝づくり
…など
Part.4 富山で育まれた文化や産業
・「越中おわら節」はなぜ有名?
・財政難を立て直した富山の売薬
・布教のためのテキストだった 曼荼羅から読み解く立山信仰
・秀吉も称えた伝説の刀工･郷義弘
・売薬商人は危ない橋を渡っていた? 薬の密貿易が生んだ昆布文化
・有名な創業者も多く輩出 富山県民は倹約家で働き者
・ジャポニズムの立役者･林忠正
・アニメの聖地が多い富山県
・瑞泉寺再建から始まった井波彫刻
…など
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