魚津の蜃気楼はなぜ出現する?
蜃気楼は大きく2つに分類されます。遠方の景色が上方に伸びたり、反転して見えたりする上位蜃気楼と、遠方の景色が下方に反転して見える下位蜃気楼です。下位蜃気楼は逃げ水などと同じ原理で出現するありふれたものですが、魚津の蜃気楼といえば上位蜃気楼が多く、これは特別な気象条件下でのみ現れる珍しいもの。毎年3~6月にかけて観察できることから春型蜃気楼とも呼ばれる一方、下位蜃気楼は冬に多く観察されるために冬型蜃気楼と呼ばれています。
魚津の上位蜃気楼が発生するメカニズム
上位蜃気楼は、下が冷たく上が暖かい空気層によって発生します。通常、地表から高度が上がるにつれて気温は下がりますが、上位蜃気楼が起きる空気層では、この関係が逆転しています。このように高度と気温の関係が逆転した空気層を逆転層といいます。
では、富山湾ではどのように逆転層ができるのでしょうか。いくつかの説はありますが、現在有力とされているのが、海上にある低温の空気の上に、日中の陸地で暖められた空気が流れ込むというものです。富山湾には、冷たい雪解け水が流れ込むため、夏でも富山湾の海水温度は低く保たれています。よって、空気層の下部は冷たいままであり、その上に温度の高い空気が流れ込むのであれば、確かに逆転層は起こりえます。しかし、上位蜃気楼が発生しても、実際に肉眼で観測できるのは年に5回あるかないか。冬の寒い時期であれば毎日でも見られる下位蜃気楼に比べれば、上位蜃気楼との遭遇条件がいかにシビアであるかが分かります。
魚津の蜃気楼についての記録が室町や江戸時代から残されている
ちなみに、上位蜃気楼が見られるのは北海道も同様で、最近では新潟や茨城でも観測報告があります。これは気象が変化したわけではなく、関心を持つ人が増えてきたことが理由であるといいます。蜃気楼現象は、いわば遠方の対象物の変化。魚津で観測が多いのは、湾内にあり、対象物となる対岸の工場などが見えやすいためです。また、冒頭のとおり、室町や江戸時代から蜃気楼についての記録が残されてきたため、地域の関心がもともと高かったともいわれています。
雨晴海岸の気嵐
発生条件が厳しいものとしては、雨晴海岸(あまはらしかいがん)で見られる気嵐(けあらし)も有名です。厳冬期、陸上の冷たい空気が海へゆっくりと流れ出し、海面の水蒸気を冷やして蒸発させることで生まれる霧のことをいいます。気温が上がるにつれて消えてしまうため、冬の晴れの日、特に寒暖差の激しい早朝、ほんのわずかな時間しか発生しません。
雨晴海岸の気嵐越しみる絶景立山
もとより、この雨晴海岸自体が世界的にも稀有な場所。海越しに見える立山連峰は格別の美しさで知られています。万葉歌人である大伴家持(おおとものやかもち)も訪れるたびに絶賛したといわれ、雨晴海岸から見た立山の風景はどれだけ見ても飽きることはないと歌に残したほどです。富山県民にとってはすっかり見慣れた景色かもしれませんが、標高3000m級の山々を海上から望むことができる場所は世界でも3カ所といわれており、この雨晴海岸はそのうちの1つです。気嵐越しにこの絶景を見られれば、かなりの幸運にちがいありません。
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