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栃木県庁の所在地に不満を持った宇都宮の人々
これに対して不満を持ったのが、宇都宮の豪商や地主、士族といった人々です。宇都宮は旧藩時代から下野国最大の城下町であり、戊辰戦争により戦火を受けたとはいえ、その人口や経済規模は栃木県域で最大であることに変わりはありません。たとえば県の統計によると、1882(明治15)年における市場の売買高を見ると、栃木町は宇都宮町の10分の1、1886(明治19)年の栃木町の人口は、宇都宮町の4分の1に過ぎません。これほど町の歴史的な成り立ちや経済規模に差があるのに、なぜ栃木町が県庁所在地なのかと、宇都宮の人々の不満は募っていきました。
栃木県庁はそもそもなぜ栃木町に?
また、そもそも栃木町が県庁所在地とされた大きな理由に、栃木町が「県の中央部」に位置するという理由がありました。しかし、県南部の山田・邑楽(おうら)・新田(にった)の3郡は、1876(明治9)年に群馬県に編入されており、その理由は成り立たなくなります。
栃木県庁の宇都宮移転で立役者となった三島通庸
こうしたなか、1884(明治17)年1月21日、官報により栃木町から宇都宮町への栃木県庁移転が布告されます。その立役者となったのが、栃木県3代県令の三島通庸(みしまみちつね)です。政治的剛腕で知られた三島通庸は、栃木県令着任からわずか3か月で県庁の宇都宮移転を決定し、宇都宮で新庁舎建設を始めます。これには河内郡長であった川村伝蔵など、豪商たちの金銭的なバックアップも大きな影響を与えていたとされています。
三島通庸とは
三島通庸は、1835(天保6)年に薩摩藩士の子として生まれ、西郷隆盛や大久保利通などに引き立てられます。維新後は、山形をはじめ、福島や栃木の県令を歴任。一方で、那須野が原に広大な農場を開拓・経営するなど、栃木県にゆかりの深い明治の元勲として知られています。
栃木県庁を即座に宇都宮へ移した三島通庸の思惑
また、当時、全国各地で政府に国会開設などを求める、自由民権運動が活発となっていました。栃木県内では栃木町が活動拠点となっており、以前から自由民権運動を徹底的に弾圧していた三島通庸が、民権運動家の取り締まりを強化し、運動を退潮させるために、栃木県庁を宇都宮へ移したともいわれています。このため自由民権運動の闘士であった県議の田中正造は、栃木県庁移転に激しく反対。宇都宮での県庁建物の地鎮祭では、大声で「ばか」とののしったといいます。
栃木県庁の急すぎる移転で起きた椿事
なお、宇都宮への県庁移転があまりに急だったことから、栃木県庁の担当者が混乱し、1884(明治17)年1月24日付で「宇都宮県」とした布達(ふたつ)を誤って公に出してしまい、数日後にこれを取り消すという椿事(ちんじ)も起こったことが記録されています。
三島通庸の5男は日本初の五輪選手
1912(明治45)年、ストックホルムで第5回オリンピック競技会が開催されました。この大会には、日本人で初めて、マラソン選手として金栗四三(かなくりしそう)が、陸上短距離選手として三島弥彦(やひこ)が参加。この三島弥彦は、剛腕県令・三島通庸の5男です。明治のスポーツ界で活躍した三島弥彦の姿は、2019年に放映されたNHK大河ドラマ『いだてん』でも詳しく描かれ、話題となりました。
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