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両毛鉄道(両毛線)の開設を目指した地元の人々

しかし、このままでは地域の発展はおぼつかないと、鉄道敷設をあきらめなかったのが、明治を生きた地元産業人たちの気概です。奥州線に対する両毛地域への誘致運動を先導した、足利有数の織物買継商・木村半兵衛(3代目)の長男である木村勇三を中心とした人々は、経済学者の田口卯吉(うきち)や帝国大学(のちの東京帝国大学、現・東京大学)の初代総長である渡辺洪基(こうき)にも助力を乞い、1887(明治20)年に「両毛鉄道会社」を設立。小山~前橋を結ぶ、両毛鉄道の開設を目指すこととなります。

足利の織物産業の発展に両毛鉄道は欠かせない存在

両毛鉄道会社の設立に際し、社長となった田口卯吉は 、「余よ私ひそかに思うに両毛の桐生、足利、佐野の如きは是これ我が 邦(くに)のマンチェスターなり」と、その鉄道敷設の重要性を強調しました。この主張は、イギリスの産業革命において象徴的存在である鉄道が敷設されたのが、港町リバプールと織物産業の都市であるマンチェスターであったことに由来します。田口は、織物産業で飛躍を遂げようとする両毛地域をイギリスのマンチェスターになぞらえ、地域の輸送を担う鉄道の敷設が産業振興に欠かせないことを主張したのです。

両毛鉄道(両毛線)の計画全線が開通

両毛鉄道会社は当初、鉄道敷設の経費は自社が負担し、建設と運営は日本鉄道会社に一任するとしましたが、実際にはその建設は、国の鉄道作業局が実施することとなりました。その結果、ついに1888(明治21)年5月にまず小山~足利が、11月には足利~桐生が開通、そして翌年11月には前橋までがつながり、両毛鉄道会社の計画全線が開通しました。

両毛鉄道(両毛線)は厳しい経営状況から徐々に上向きに

産業振興の期待を担った両毛鉄道ですが、開業後1年こそ黒字経営となったものの、翌年には不況のために株価を下げ、厳しい経営を強いられてしまいます。このため1890(明治23)年には日本鉄道社長が両毛鉄道の社長を兼務することとなり、地元が反発して社長が再び変わるなど混乱が続きます。それでも地域の人々の支持もあってか、営業成績は徐々に上がり、ことに1894(明治27)年に勃発した日清戦争による好況は、大きな追い風となりました。

両毛鉄道(両毛線)は毛武鉄道の誕生により産業路線としての意義を損なう

ところがそんな時、毛武(もうぶ)鉄道が足利~東京の鉄道敷設を計画。その実施により、両毛鉄道の産業路線としての意義は、大きく損なわれ、結果として1897(明治30)年に両毛鉄道は日本鉄道に売却され、さらに1906(明治39)年、日本鉄道は国有化され、この路線は国鉄の両毛線となりました。

栃木県の小山駅と群馬県の新前橋駅を東西に結ぶJR両毛線。今も昔も、県南交通の大動脈です。
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