トップ > カルチャー >  関東 > 栃木県 >

日光鉄道は建設・運営を日本鉄道に任せることに

当初、日光鉄道のプランでは、宇都宮から直線的に北西の日光方面へ文挟(ふばさみ)まで進み、そこから北上する形で今市(いまいち)を経由して日光に至る本線、加えて宇都宮と文挟の間にある古賀志(こがし)から鹿沼へと折れる支線も提案され、国から建設を許可する仮免許も交付されます。そのうえで国は、日光鉄道に対し、工期短縮と東京からのアクセスの利便性を考え、上野~青森の奥州線(現・東北本線)を建設中の日本鉄道会社に、宇都宮~日光の鉄道敷設の建設・運営を任せるよう促しました。

日光鉄道の建設を行う余力がない日本鉄道

しかし、ここで困ったのが日本鉄道です。青森までの開通を目指す自社路線の建設を進めている真っ最中であり、加えて実際に鉄道敷設の工事を行う国の鉄道作業局は、日本経済の大動脈となる東海道線をはじめとした各地の工事で手一杯。とてもではありませんが、日光鉄道の建設を行う余力はありません。

日光鉄道は国鉄、そして現在のJR日光線に引き継がれる

このため日光鉄道の建設は一時的に無期延期となったものの、1889(明治22)年10月、ようやく工事が開始され、翌年8月、宇都宮~日光が全線開通。1906(明治39)年、日本鉄道は国有化され、この路線は国鉄の日光線となり現在のJR日光線に引き継がれます。

東武日光線の開業

一方、JR日光線とは別に、東武動物公園から栃木、新鹿沼を経て東武日光に至るのが、東武鉄道の東武日光線です。国鉄の日光線開通に遅れること39年後の1929(昭和4)年に開業した東武日光線は、当初は東武伊勢崎線の館林から分岐して葛生(くずう)に至り(現在の東武佐野線)、さらに鹿沼から国鉄の日光線と並行しないよう、小来川(おころがわ)を通って日光へとつながる予定でした。しかし、結局は最短ルートとして、現在の路線に変更されます。

JR日光線と東武日光線の路線図

東北本線の宇都宮と日光を結ぶJR日光線は、特に今市から日光までの間が急坂で起伏も多く、1000分の45(45パーミル)という急勾配を汽車が登っていきます。東武日光線は、当初は東武佐野線を葛生から延伸し、鹿沼、小来川を経て、JR日光線とは並行せずに日光へ向かう計画でした。しかし、その後の計画変更により、杉戸(現在の東武動物公園)から分岐し、幸手や鹿沼、今市を経て日光に至る、現在のルートに決定されたのです。

地理院タイル(色別標高図)を加工して作成

「日光戦争」と呼ばれたJR日光線と東武日光線の熾烈な旅客争奪戦

JR日光線も東武日光線も、いずれも首都圏と栃木を代表する観光地である日光を結ぶ路線だけに、両者の旅客争奪戦は長年にわたり熾烈を極めます。都内から日光までの所要時間の速さ争い、あるいは車両のアメニティや豪華さを競う争いは「日光戦争」と呼ばれるほどでしたが、最終的には後発の利を生かした東武鉄道の勝利で終わります。

JR日光線と東武日光線は協働関係に

その後、2006(平成18)年には、埼玉県の栗橋駅に連絡線が設置され、JRと東武鉄道との相互乗り入れが始まりました。両者は協働しながら、日光への旅客輸送を支えています。

『栃木のトリセツ』好評発売中!

地形、交通、歴史、産業…あらゆる角度から栃木県を分析!
栃木県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。栃木の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。地図を片手に、思わず行って確かめてみたくなる情報満載!

Part.1 地図で読み解く栃木の大地

・雷が多い理由は地形にあり!
・奥日光は男体山がつくった?
・日本最大の渡良瀬遊水地ができた理由
・川を横切る川!? 不毛の扇状地を潤す那須疏水
・奈良の大仏に那須の金!? 栃木は地下資源の宝庫だった!
・F.L.ライトが山ごと買った大谷石の魅力
・葉脈から動物の体毛までくっきり! 古塩原湖に眠る太古の記憶
・栃木にゾウやサイがいた! 化石と野州石灰の産地・葛生

Part.2 栃木を走る充実の交通網

・県南を通る予定だった!? 東北本線の紆余曲折
・日本のマンチェスターを目指せ! 織物の街をつなぐ両毛線
・栃木随一の観光地をめぐるJR日光線と東武日光線の軌跡
・地域の産業を牽引した人車鉄道/郷愁誘う各地の廃線をたどる
・わたらせ渓谷鐵道の前身は足尾鉄道
・幾多の苦難を乗り越えた真岡線
・構想から25年を経て着工! 宇都宮~芳賀にLRTが走る
・要衝・下野国を貫く街道の変遷
・舟運で“蔵の街”となった栃木市

Part.3 栃木で動いた歴史の瞬間

・なぜ「那須」が付く市や町が多い?
・遺跡からたどる東山道と律令期の下野国
・平将門を討った豪傑・藤原秀郷とは何者か?
・足利氏には2つの流れがあった! 鎌倉幕府と下野御家人の関係
・名族宇都宮氏の栄枯盛衰
・ザビエルやフロイスも讃えた「坂東の大学」足利学校
・江戸幕府最大の聖地・日光東照宮創建
・廃藩置県、そして栃木県誕生!
・「一の宮」が2つ? 日光二荒山神社と宇都宮二荒山神社
・不毛の原野が酪農王国に! 那須野が原の大開拓

Part.4 栃木で生まれた産業や文化

・木綿、紬、絹織物、麻…栃木は織物の名産地
・益子焼が始まってまだ170年足らず? 益子が「陶器の里」になったわけ
・半世紀にわたって生産量日本一!! 栃木はなぜいちご王国になった?
・関東平野が工業誘致にぴったりだった? 宇都宮は新たなものづくり都市へ
・「それって栃木?」県名抜きで知名度の高い観光名所

『栃木のトリセツ』を購入するならこちら

リンク先での売上の一部が当サイトに還元される場合があります。
1 2

記事をシェア

※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

まっぷるトラベルガイド編集部は、旅やおでかけが大好きな人間が集まっています。
皆様に旅やおでかけの楽しさ、その土地ならではの魅力をお伝えすることを目標に、スタッフ自らの体験や、旅のプロ・専門家への取材をもとにしたおすすめスポットや旅行プラン、旅行の予備知識など信頼できる情報を発信してまいります!

エリア

トップ > カルチャー >  関東 > 栃木県 >

この記事に関連するタグ