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能登杜氏が生まれた経緯

能登杜氏は、奥能登を発祥とします。この地域の内陸部はほぼ山となっており、日本海沿岸部も丘陵地であったため、十分な耕作面積の確保が難しい環境でした。そこで、能登の人々は農業の閑散期、江戸時代後期より近畿地方へ酒造りのため出稼ぎに行き、能登衆と呼ばれるようになります。能登衆は、他地域からの杜氏集団とは異なる独自の酒造技術を身につけていたため、一目置かれました。

明治時代には、大津に「能登屋」という職業斡旋所が設立され、杜氏や蔵人を主に近江や山城の酒蔵へ斡旋。最盛期となる昭和初期、能登杜氏の赴任先は北海道、朝鮮、樺太、満州、シンガポールの酒蔵にまで及ぶほどでした。

能登杜氏の活躍と能登流の酒の特徴

明治34(1901)年、石川県で初めて酒造講習会が開催されたことで、能登杜氏の酒造技術はさらに飛躍。全国の品評会でもその優秀さを発揮し、能登杜氏は名声を高めました。

能登流の酒の特徴は、濃くて米の味がすること。1日の厳しい労働を終えた晩酌で飲むことが多かったため、濃い味が求められるようになったといわれます。

能登にそろうおいしい日本酒を造る条件

おいしい日本酒を造るには、「寒い冬」、「美味しい米」、「美味しい水」、「熟練された技術」が必要とされます。そのすべてがそろっているのが能登です。特に能登地区には有名な湧き水が多いため、良質な水には事欠きません。自社で酒米作りから手がけている蔵もあります。

さらには、四季折々の海の幸が酒の肴となり、祭りが多いため、大勢で集まって飲み交わす機会にも恵まれています。能登には、酒を楽しむための条件や環境が見事にそろっているのです。

能登の酒蔵で造る酒は地元の人々に愛される

現在、能登半島にある酒蔵は15軒。これは石川県全体の約半数にあたり、人口に対しての酒蔵は多いといえます。そのほとんどが海沿いの港町にありますが、漁師町は酒飲みが多いので、酒の消費地で酒が造られていることになります。

このように消費者と生産者の距離が近いため、そこで造られる酒は自然と地元の人が好む味になっていきます。こうして、金沢にすら出まわらない銘柄があるほど、能登の酒は地元の人々に贔屓されています。

能登の酒蔵で造る酒は地元の人々に愛される

能登にある酒蔵は15軒。銘柄は100を超えます。

能登杜氏四天王・農口尚彦氏の生い立ちと功績

全国的にも認められた能登杜氏は多くの名手を送り出してきましたが、特に優れた技術をもつ人々は能登杜氏四天王と称されます。

なかでも、日本酒の世界で知らない者はいないといわれるのが農口尚彦氏です。現在の能登町出身で、父も祖父も杜氏という家で育ち、16歳で静岡県や三重県の酒造へ見習い入り。28歳のときに白山市で杜氏となりましたが、そこで濃い酒が好まれていることを知り、強い酵母菌で発酵をおこなう山廃仕込みを丹波杜氏から学びました。

「全国新酒鑑評会」で数々の受賞歴を誇るだけでなく、2006年には厚生労働省認定「現代の名工」に輝き、2008年には黄綬褒章も受章。酒造が鑑評会のためだけに造っていた吟醸酒を市場に送り出し、吟醸酒ブームを生み出した華々しい功績をもちます。

これだけ偉大な杜氏でありながら、農口尚彦氏本人は酒をほとんど飲めないため、試飲した人の反応を参考にしているといいます。引退と復帰を三度繰り返したのち、現在は小松市に設立した「農口尚彦研究所」で新銘柄を生み出しながら、未来の能登杜氏の育成に情熱を注いでいます。

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