目次
温羅伝説の真偽
当時の吉備国は、兵庫県の加古川(かこがわ)以西から広島県の尾道(おのみち)以東を含む広範囲に及んでいました。瀬戸内海の海上ルートと、南北を流れる三大河川を利用した水運ルートを有した交通の要衝であり、鉄鉱石などの資源にも恵まれていたといわれています。『吉備津宮縁起』には温羅が略奪を行ったとありますが、『吉備津彦神社縁起』には、言葉が通じない短気な大男とあり、悪事を働いたという記述はありません。温羅は吉備に製鉄技術を伝えた渡来人で、鉄の量産技術を持つ吉備国を恐れた大和朝廷が制圧に乗り出した…と読み取ることもできます。この温羅伝説が時代とともに変遷し、室町時代末期に『桃太郎』の物語が生まれたと考えられています。
温羅伝説(桃太郎伝説)ゆかりの地
●鬼ノ城(きのじょう)
温羅が住んでいたとされる山城
●矢喰宮(やくいのみや)
吉備津彦命の矢と温羅の矢が空中でぶつかり、落ちた場所といわれる
●鯉喰神社(こいくいじんじゃ)
鵜に変身した吉備津彦命が、鯉に変身して逃げた温羅を捉えた場所と伝わる
●吉備津神社(きびつじんじゃ)
大吉備津彦大神を祭る神社
●吉備津彦神社(きびつひこじんじゃ)
境内には温羅を祭る温羅神社もある
●楯築遺跡(たてつきいせき)
吉備津彦命が矢を防いだといわれる巨石がある
桃太郎伝説と岡山の吉備団子
しかし『桃太郎』の昔話の元となる伝説は、日本各地に点在しています。岡山県吉備路・香川県高松市女木島(たかまつしめぎじま)・愛知県犬山(いぬやま)市は三大伝説地と呼ばれ、愛知県犬山市栗栖(くりす)の桃太郎神社は最も早くから知られていました。ではなぜ、岡山県吉備路が桃太郎伝説発祥の地として浸透したのでしょう。そこで登場するのが、吉備団子です。吉備団子は1856(安政3)年、吉備団子製造の本家とされる廣榮堂(こうえいどう)の先祖らが考案したといわれています。
凱旋兵士を桃太郎をに見立てて販売された吉備団子
1891(明治24)年、山陽鉄道が岡山にも開通。この山陽鉄道は日清・日露戦争の軍事輸送機関として大きな役割を果たし、凱旋兵士が郷土へ帰還する際にも利用されました。これに目を付けた廣榮堂の初代が、吉備団子の駅売りを開始。「鬼が島(清やロシア)を成敗した桃太郎(凱旋(がいせん)兵士)が、古里への土産にするなら岡山駅で売っている吉備団子!」と呼びかけ、大いに人気を集めました。岡山県で本格的な桃栽培が始まったこともあり、桃と吉備団子は岡山を代表する名物となりました。
温羅伝説=桃太郎説も注目されず
また1930(昭和5)年、岡山市の彫塑・鋳金家の難波金之助(なんばきんのすけ)が『桃太郎の史実』という書籍を発表。吉備津彦命の温羅退治が、桃太郎の昔話のモデルだという説を展開しましたが、すでに観光地化されていた愛知県犬山市や香川県高松市の桃太郎伝説の方が知名度が高く、全国的に注目されることはありませんでした。
「桃太郎といえば岡山」が浸透したのは昭和後半になってから
岡山の桃太郎が脚光を浴びたのが、1962(昭和37)年の第17回国民体育大会岡山大会です。当時の岡山県知事・三木行治(みきゆきはる)は、岡山の郷土色をアピールするために、桃太郎伝説を活用。大会のシンボルや秋季大会のマスゲームのテーマに採用されたことで、全国に「桃太郎といえば岡山」と知れ渡ります。桃太郎は山陽新幹線や瀬戸大橋の開通に際しても、岡山のマスコットキャラクターとしてたびたび登場。今では岡山市を中心に、観光の領域を超えた地域シンボルとして定着しています。
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Part.1 地図で読み解く岡山の大地
・瀬戸内海はどうやってできた?岡山県の成り立ち
・美作はなぜ西日本有数の温泉地なのか
・岡山県指定天然記念物井倉洞はどうやってできた?
・山から貝の化石がとれる不思議
・その大きさは世界2位! 児島湖はなぜ造られたのか?
・「晴れの国岡山」は「天文王国おかやま」だった!
・笠岡市がカブトガニ有数の生息地になった理由
…などなど岡山のダイナミックな自然のポイントを解説。
Part.2 岡山を走る充実の交通網
・瀬戸大橋が鉄道と併用できた理由
・西日本唯一の臨海鉄道線「水島臨海鉄道」の変遷を知る
・わずか16年で廃線になった、幻の三蟠鉄道
・津山扇形機関車庫から見る、岡山県の鉄道の歴史
・山陽新幹線は岡山発が多い?交通の要所・岡山駅のスゴさ
・日本で最も短い路面電車が地元で愛される理由
…などなど岡山ならではの鉄道事情を網羅。
Part.3 岡山で動いた歴史の瞬間
・伝説の城「鬼ノ城」は古代日本の防衛ラインだった
・巨大古墳群からひもとく吉備国と大和朝廷の関係
・戦国大名・宇喜多直家は、邑久郡の小領主だった
・難攻不落の備中高松城を、血を流さずに攻め落とせ!
・宇喜多秀家が基礎を築き池田家が整備した城下町
・岡山藩藩主の憩いの場として築かれた大庭園・後楽園
…などなど、激動の岡山の歴史に興味を惹きつける。
Part.4 岡山で生まれた産業や文化
・古墳時代から受け継がれる備前焼
・岡山県の名産品・白桃は、なぜこんなにおいしいのか?
・蒜山原野の開拓とジャージー牛導入の歴史
・養蚕・イグサ・綿・デニム…。岡山が誇る繊維業
・瀬戸内工業地域・水島コンビナートの誕生秘話
・倉敷市が一大観光地に成長した理由
・刀工集団・長船派は、どのようにして生まれたのか
…などなど岡山の発展の歩みをたどる。
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