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備前刀の刀工は吉井川下流に集中

備前国の作刀は、川の流れと大きく関係しています。刀工の多くは、吉井川(よしいがわ)の下流域に工房を構えています。近世以降は砂鉄を採集するために「鉄穴(かんな)流し」という方法をとりますが、これには大量の水が必要となります。こうして採集した砂鉄や、玉鋼に製錬された鉄は、吉井川の水運を利用し、下流の刀工の元へ届けられました。作った刀剣を市場で売るのにも、吉井川の水運が活用されたと考えられています。原材料の採集や運搬・完成品の運搬を考えれば、吉井川の下流域が便利だったのでしょう。

備前国に多く、その大半が吉井川沿いに分布しています。

備前刀は長船派によって隆盛を極めた

こうして備前国は、国内有数の刀剣の産地となっていきます。最も隆盛を極めたのが、長船派が誕生した鎌倉時代~室町時代後期にかけてでしょう。長船には「鍛冶屋千軒」と呼ばれるほど多くの刀工が居住し、「西の武器庫」と称されることもありました。
「備前長船」の「名刀」が日本中に浸透した要因の一つに、銘の切り方が挙げられます。長船派の刀工の中には「備前国長船住○○」などの銘を切って、居住地や作刀地を刀剣に記す者がいました。このような銘が入った刀剣は、備前長船の地名を広く印象づけるのに貢献。華やかさと上品さのバランスがよい備前刀は美術品としても愛されました。日宋貿易の輸出品として、備前刀を含め多くの刀剣が海を渡っています。織田信長は備前刀を好んで収集しており、上杉謙信も山鳥毛(さんちょうもう)という備前刀を所有するなど、権力者からも好まれる作風だったようです。現在国宝指定されている刀剣111振りのうち、47振りが備前刀です。

備前刀と長船派は打撃を受けるも伝統を守り続けた

しかし安土桃山時代の吉井川大氾濫により長船は壊滅的な打撃を受け、多くの刀工が被害を受けました。また同時期に、美濃(みの)国(岐阜県)の刀鍛冶が台頭。有力な戦国武将の所領が近かったこと、大量生産できる技術があったことなどから、シェアを奪われてしまいます。
この時代になると刀工を抱える戦国武将が増え、刀工も各地へ分散していきます。しかし備前刀の刀工は「備前国で作刀する備前刀」を重視したため、備前国に留まる者が多くいました。江戸時代になると水害から復興した横山祐定(よこやますけさだ)が岡山藩池田家のお抱え鍛冶となり、長船の伝統を守り続けました。

備前刀は地域文化として伝統を継承

明治維新後は刀剣の需要が低下しますが、帝室技芸員制度によって刀工の技は保護されました。明治天皇が刀剣を好んだことや、日露戦争以降の国粋主義によって日本刀が求められたという背景もあり、日本刀文化は大事に守られてきました。しかし第二次世界大戦後は状況が一変。作刀も禁じられ、刀工にとっては苦渋の時代が続いきました。美濃国の刀工は、刀鍛冶の技術を包丁などの刃物作りにシフト。現在でも岐阜県関市(せきし)は刃物の町として知られており、関孫六(せきのまごろく)は包丁ブランドとして残っています。備前国では地域文化として大切にされてきた「刀剣」の文化や伝統の継承に注力。多くの刀工が備前刀の技や美しさを受け継いでいます。

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