目次
長崎の歴史:貿易拡大とともに市街地も拡張
長崎は貿易商人やキリスト教信者、亡命してきた武士など、各地域からの移住者が集団となって町を形成していきました。
開港当初、島原町、大村町、平戸町、横瀬浦町、外浦町、文知町の6町が造成され、貿易拡大とともに市街地も拡張していきました。6町は直轄領として地租(土地にかかる税)が免除されていたため「内町(うちまち)」と呼ばれ、地租免除外の地域は「外町(そとまち)」と呼ばれました。文禄元(1592)年には内町が23町、外町が43町にまで拡大します(最終的には内町26町、外町54町)。
町名は移住者の出身地域の地名のほか、建物や職業の名前に沿って付けられ、一部の町名は現在も残っています(五島町、出島町、銅座町、御船蔵町など)。
長崎市内中心部に残る江戸時代の建物跡
坂が多くて平地の少ない長崎では、埋め立てることで市街が大きくなりました。江戸時代は長崎奉行所立山役所から出島にかけてが中心地で、長崎奉行所西役所付近が内町にあたります。江戸時代の海岸線をみると、出島は当時、文字通り海の中に突き出た島でした。
長崎の歴史:繁栄を支えた独自の行政組織とは
長崎の繁栄を支えたのは、長崎独自の行政組織です。行政は事実上、町人の自治組織によって動いていました。
中世長崎の行政は町人が主役
中心となる町年寄は、6町のリーダーだった高木勘右衛門、高島了悦、後藤惣太郎、町田宗賀の4人からはじまり、当初は頭人(とうにん)と呼ばれていました。文禄元(1592)年に唐津城主・寺沢広高が長崎奉行に任命されると、頭人は町年寄と改められ、内町を支配するようになります。外町の支配は同じく町人から選出された長崎代官が行いました。
長崎奉行の仕事は長崎の支配、貿易、外交、司法、長崎の警護、キリシタンの取り締まりなど多岐にわたり、円滑に業務を進めるためには町年寄ら町人の協力が不可欠でした。
町年寄、長崎代官の下には年行司、乙名、組頭など補佐役、通訳であるオランダ通詞と唐通事などが置かれ、地役人と呼ばれました。地役人の数は天保9(1838)年には2069人におよび、じつに全町人13人に1人の割合だったといいます。地役人の多さ、役割の大きさはほかの都市では考えられない規模でした。
長崎は貿易と幕府の配慮で発展し大都市に
幕府も貿易都市・長崎を特別視し、町人の生活維持のため配慮をしています。そのひとつに船宿の仕事があります。船宿は外国人に貿易の仲介を行っていましたが、時代が下ってからは町単位で貿易業を引き受ける仕組みとなり、船宿の仲介料の一部は町人に配分されました。
町人への貿易利潤の配分として代表的なのが、家持ち商人への「箇所銀(かしょぎん)」と借家人への「竃銀(かまどぎん)」です。家持ち商人は貿易の会計や商品の検品などの仕事を受け、借家人は荷役や運搬などを行います。家持ちと借家人の貧富の差は歴然でした。しかし、借家人の仕事も重視し、貿易利銀が還元される仕組みで市民に配分されたのです。
長崎全体が貿易により潤い発展し続けた結果、人口は17世紀には5万人と推定され、江戸、大坂、京都、名古屋に次ぐ大都市に成長しました。
長崎の歴史:商人から支配者に上り詰めた人物
家柄よりも実力が重視された長崎でチャンスをつかみ、一商人から町の支配者にまで上り詰めた者もいます。
【長崎で商人から支配者になった人物①】村山等安
ひとりは、豊臣秀吉に見いだされ長崎代官に抜擢された村山等安(とうあん)です。村山等安については出身地が諸説ありますが、若くして長崎に移住し商人として財をなしました。
秀吉の朝鮮出兵の際に佐賀の名護屋城に赴き、秀吉から洗礼名「アントン」を「トウアン」、すなわち等安と改名されたといわれます。
秀吉に気に入られた村山等安は長崎代官に任命され、外町を支配。徳川家康の時代になってからも外町のリーダーとして富と権力を手にしました。しかし、末次平蔵政直の登場により村山等安は失脚します。
【長崎で商人から支配者になった人物②】末次平蔵政直
末次平蔵政直の父は、博多出身の豪商でした。末次平蔵政直は朱印船貿易で成功、貿易の斡旋や利貸しなど多角的な活動で巨万の富を築きました。
「大坂夏の陣」で豊臣氏に通じていたなどの疑いで村山等安を訴え失脚させたのち、長崎代官に就任。その後4代目まで続いた末次家ですが、延宝4(1676)年、茂朝のときに密貿易が発覚して失脚、隠岐に流罪となりました。没収された財産は60万石の大名に匹敵するものだったといいます。
【長崎で商人から支配者になった人物③】高木彦右衛門貞親
町年寄筆頭・高木彦右衛門貞親も実力者のひとり。高木彦右衛門貞親は苗字帯刀を許され、幕府から唐蘭貿易の総元締に任命された人物です。町年寄の立場を離れ、元禄10(1697)年から約半年間江戸にて幕府のもとに出頭し、ついには将軍に礼拝しました。扶持米80俵を江戸浅草蔵米で支給される勘定直属の役人となり、外国貿易と幕府の運上事務を統轄しました。そんな高木の本家・高木作右衛門は、一時期16万石を管轄するほどで最高の町人といわれました。
ところが元禄13(1700)年、長崎市内に屋敷があった佐賀藩の重臣・鍋島官左右衛門の家臣が高木彦右衛門の中間と些細なことで争い、鍋島氏の家臣が高木邸に討ち入りをする「長崎喧嘩」といわれる事件が起きます。彦右衛門も殺された大事件ですが、その処理は高木氏に対して厳しく、武士の鍋島氏に好意的でした。長崎は町人の自治が行われた町ですがあくまで幕府の天領であり、幕府が派遣した長崎奉行が町を統轄し、町人を野放図に委ねたわけではないことを示す事件でした。
寛永末期の長崎の行政組織図
鎖国後の寛永16(1639)年の行政組織図。寛永10(1633)年より長崎奉行は2人となりました。代官、町年寄以下がいわゆる地役人であり、長崎町人です。町年寄は内町23町を治め、長崎代官は年行司2人を置いて外町43町の一般的な町方事務を総括しました。内・外町ともに、各町に乙名1人、組頭があり、乙名には日行使・筆者が付属。宿町の当番年には筆者を増員しました。
長崎歴史文化博物館
近世長崎の歴史文化に関わる古文書、歴史資料などの貴重な資料を一堂に集め、「海外交流史」をテーマとした博物館。奉行所関係資料をはじめとする豊富な資料をもとに、長崎学研究の拠点として、長崎特有の歴史の流れを身近に学べる工夫がされています。
江戸時代、長崎奉行所立山役所が置かれていた場所に建てられました。奉行所を復元したゾーンでは寸劇が行われています。
長崎歴史文化博物館
- 住所
- 長崎県長崎市立山1丁目1-1
- 交通
- JR長崎駅から徒歩10分
- 料金
- 常設展=大人630円、小・中・高校生310円/(長崎県内の小・中学生無料、障がい者手帳持参で本人と同伴者1名常設展無料)
『長崎のトリセツ』好評発売中!
地形、交通、歴史、産業…あらゆる角度から長崎県を分析!
長崎県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。長崎の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。地図を片手に、思わず行って確かめてみたくなる情報満載!
Part.1 地図で読み解く長崎の大地
・地殻変動と火山が生んだ唯一無二の景観! 海に囲まれ平地が少ない長崎の地形
・島の数971! 長崎は日本一の多島県
・火山活動が作ったダイナミックな地形! 島原半島ジオパークとは?
・長崎は江戸時代から埋立都市だった?
・「国境の島」対馬の特殊な生態系
・水中調査で解明! 横島沈没の謎
・国内初のティラノサウルス発掘! 長崎は白亜紀の化石の宝庫だった
・世界でも稀な西海市の七ツ釜鍾乳洞
・最先端をゆく五島の洋上風力発電
…など
Part.2 長崎に開かれた多彩な交通網
・初期の長崎本線は早岐経由だった
・新幹線開業に向け再開発中! 長崎駅の今昔
・新旧の車両が行き交う長崎電気軌道
・小島が国際空港に! 長崎空港は世界初の海上空港
・長崎が生んだ画期的な交通手段! 坂を上る日本初のエレベーターとは!?
・東洋一と称された西海橋の誕生
・進化を遂げた長崎街道の日見峠
・松浦鉄道には3つの日本一がある!?
・当時の面影が残る雲仙鉄道の廃線跡
・島原鉄道は奇跡のローカル線!?
・吉田初三郎が描いた 長崎の鳥瞰図
Part.3 長崎で動いた歴史の瞬間
・東アジアの一大交流拠点だった! 原の辻遺跡が語る古代の交易
・“神風”の謎が海底遺跡調査で判明!? 鷹島神崎遺跡から見る蒙古襲来
・ポルトガルが平戸で貿易を始めたワケ
・なぜ長崎は教会領になったのか
・町民が主役!? 特例だらけの貿易都市長崎の誕生
・ラクダを飼っていた!? オランダ人の出島生活の実態とは
・龍馬を襲った「いろは丸事件」の真実
・倒幕の裏には大村藩士の活躍があった
・人口約4000人の村が一変!? 寒村だった佐世保が大変貌したワケ
…など
Part.4 長崎で生まれた産業や文化
・印刷も写真も通信も長崎発祥!? 長崎は“日本初”を量産していた!
・世界遺産に登録された日本造船業の原点! 三菱長崎造船所のあゆみ
・細部まで技巧を凝らした圧巻の建築美! 数々の教会堂を手がけた鉄川与助とは
・テーマパークの枠に留まらない魅力に迫る! 進化するエコシティ ハウステンボス
『長崎のトリセツ』を購入するならこちら
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

まっぷるトラベルガイド編集部は、旅やおでかけが大好きな人間が集まっています。
皆様に旅やおでかけの楽しさ、その土地ならではの魅力をお伝えすることを目標に、スタッフ自らの体験や、旅のプロ・専門家への取材をもとにしたおすすめスポットや旅行プラン、旅行の予備知識など信頼できる情報を発信してまいります!