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西海橋着工までの経緯

そもそも西海橋の架橋は、昭和初頭の地域住民による強い要望に端を発したものです。それまでは西彼杵(にしそのぎ)半島から佐世保方面への交通手段は船でしたが、針尾瀬戸の潮の流れは、鳴門海峡や関門海峡と並んで日本三大急潮に数えられるほど激しいため、往来にはつねに困難がつきまとったのです。「魔の海峡」によって隔絶された西彼杵半島北部は「陸の孤島」とさえ呼ばれていたのです。

住民の切実な声を受けた22の町村長が集まって県へ要望を提示。とくに旧大串村(現・西海市)の大串盛多(もりた)村長は、半島発展のために県議会議員となって架橋の重要性を訴えました。

そのかいあって昭和15(1940)年、県営道路改修事業に伊ノ浦架橋費の追加決議がなされましたが、折悪しく太平洋戦争開戦によって事業は中断。長崎県は国に対して架橋を働きかける策をとり、昭和25(1950)年から対日援助見返金(占領軍の対日援助)による事業として着工しました。

西海橋の設計を手掛けた技術者たち

西海橋の設計は、工事事務所長であった旧建設省の村上永一と若手技術者らに任されました。

そのなかでも、当時28歳だった吉田巌(いわお)は、東京大学工学部在学中に書いた卒業論文「針尾瀬戸に架けるアーチ橋の応力計算」が旧建設省職員の目に留まり、鉄道会社への就職がすでに決まっていたところを強く勧められて入省したという経緯をもちます。

後年、吉田は本州四国連絡橋の架橋に携わるなどして、日本を代表するほどの技術者となったのです。

西海橋の設計における世界初の工法

西海橋の設計チームに求められたのは、「戦後まもない物資の乏しい時代に鋼材を節約しながらも十分な強度をもち、国内初の長大橋にふさわしいデザイン」という難題への答えでした。それでも、吉田らは、4か月半という急ピッチですべての設計を完了させました。

設計上の大きな課題となったのは、橋を架ける針尾瀬戸の最大潮流が9ノット(時速16.67km)におよぶため、水中に支柱を設置できない点。そのため、トラス(橋桁の代わりに複数の部材を組み合わせたもの)構造で両岸から弓形のアーチ橋を組み立てていく「突桁式吊出し工法」が採用されました。この方式による工事は世界初の試みであり、日本の技術水準を高める契機となったのです。

西海橋の完成

5億5000万円(現在の金額で約30億円)の巨費を投じた架橋の一大プロジェクトは、地域住民の願いと関係者の努力が実を結ぶ形で、昭和30(1955)年、ついに完成にいたりました。

ちなみに、西海橋は建設段階では「伊ノ浦橋」と呼ばれており、開通式で正式に命名されています。

西海橋は「日本初」の多い長大橋でもある

西海橋が開通すると、さらに「日本初」が増えました。日本最初の有料道路橋です。開通時から償還期限の昭和45(1970)年までは、バス500円、普通車200円、自転車10円といった通行料が徴収されていました。

2006年には交通量分散のため、西海橋の西側に新西海橋が開通しましたが、日本の戦後橋梁建設の原点、西海橋の土木遺産としての威光は変わらずに輝きを放っています。

西海橋周辺

西海橋周辺

佐世保湾と大村湾をつなぐ針尾瀬戸に西海橋が架けられたことで、長い間 孤立していた西彼杵半島の開発が進みました。また、西海国立公園の美しい 景色を、より多くの人が気軽に楽しめるようになりました。

西海橋

住所
長崎県佐世保市針尾東町
交通
JR佐世保線佐世保駅から西肥バス西海橋コラソンホテル行きで45分、西海橋東口下車すぐ
料金
情報なし

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・島の数971! 長崎は日本一の多島県
・火山活動が作ったダイナミックな地形! 島原半島ジオパークとは?
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…など

Part.2 長崎に開かれた多彩な交通網

・初期の長崎本線は早岐経由だった
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・新旧の車両が行き交う長崎電気軌道
・小島が国際空港に! 長崎空港は世界初の海上空港
・長崎が生んだ画期的な交通手段! 坂を上る日本初のエレベーターとは!?
・東洋一と称された西海橋の誕生
・進化を遂げた長崎街道の日見峠
・松浦鉄道には3つの日本一がある!?
・当時の面影が残る雲仙鉄道の廃線跡
・島原鉄道は奇跡のローカル線!?
・吉田初三郎が描いた 長崎の鳥瞰図

Part.3 長崎で動いた歴史の瞬間

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・“神風”の謎が海底遺跡調査で判明!? 鷹島神崎遺跡から見る蒙古襲来
・ポルトガルが平戸で貿易を始めたワケ
・なぜ長崎は教会領になったのか
・町民が主役!? 特例だらけの貿易都市長崎の誕生
・ラクダを飼っていた!? オランダ人の出島生活の実態とは
・龍馬を襲った「いろは丸事件」の真実
・倒幕の裏には大村藩士の活躍があった
・人口約4000人の村が一変!? 寒村だった佐世保が大変貌したワケ

…など

Part.4 長崎で生まれた産業や文化

・印刷も写真も通信も長崎発祥!? 長崎は“日本初”を量産していた!
・世界遺産に登録された日本造船業の原点! 三菱長崎造船所のあゆみ
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