昆虫食で知られる長野県伊那市
昆虫の食用化について、世界中の科学者や政治家が頭をひねるなか、日本では伝統的に昆虫が食べられてきました。とくに長野県伊那(いな)市周辺は、昆虫食文化の中心地です。
海から遠く離れた長野県では海水魚の入手が困難だったこともあり、古くから昆虫は貴重なタンパク源でした。大正時代初期、伊那地方に食用の昆虫を売る商人が現れ、産業に発展したことにより、伊那では現在でもザザムシ漁が行われるなど昆虫食が根付いています。
長野の昆虫食① :ザザムシ
昆虫のなかでも、佃煮(つくだに)などにして食べる「ザザムシ」は伊那を代表する高級珍味です。ザザムシとは、トビゲラ目、カワゲラ目、ヘビトンボ目の幼虫の総称。清流に棲んでおり、「ザザ」は川の浅瀬を水が流れる音に由来すると考えられています。伊那市付近の天竜川(てんりゅうがわ)で獲れるザザムシは、とくに川藻(かわも)の風味にあふれており、最上とされています。天竜川漁業協同組合が管理するれっきとした水産資源であり、収穫量はわずかなため、冬の味覚として珍重されています。
長野の昆虫食② :ハチノコ
ほかにも、有名なものとしてハチノコがあります。ハチノコとは、その名の通りハチの幼虫です。通常、食べられるのはクロスズメバチの幼虫です。ハチに目印をつけて追跡し、地下の巣を見つけ、中にいるハチノコを採取します。大きく育ててから加工する場合もあります。おもに大和煮(やまとに)(醤油と砂糖、ショウガなどを使い甘辛く煮付けたもの)にされ、缶詰や瓶詰で流通しています。
長野の昆虫食③ :イナゴ
また、日本の代表的な食用昆虫といえばイナゴです。長野県以外でも、スーパーなどで売られていることが多いです。佃煮にするのが一般的ですが、かつての長野県域では、茹でて干したイナゴを粉にして、味噌とクルミ、砂糖と混ぜて油で炒めた「イナゴ味噌」という料理もあったといいます。江戸時代には、火で炙ったイナゴにたまり醤油をつけて食べるシンプルな料理が、子どものおやつとして人気があったそうです。
長野の昆虫食④ :カイコガのさなぎ
カイコガのさなぎは、長野では「ヒビ」または「まゆこ」と呼ばれ、栄養価が高いため昔から食用とされていました。カイコガの繭(まゆ)を茹でて生糸をとったあと、残ったさなぎを食べるのです。近年では、砂糖、醤油、みりんなどで煮詰めて佃煮にするのが一般的で、缶詰などの状態で流通しています。
昆虫食は長野の伝統食として守り伝えるべき
こうした長野県の昆虫料理は、現在でも郷土料理として根強い人気があります。独特のうまみがある昆虫は、信州で多くつくられている日本酒との相性もいいのです。内陸部でも肉や魚などのタンパク源が入手しやすくなった現在でも昆虫食が続いているのは、食材としての魅力があるからではないでしょうか。
FAOが推奨する昆虫利用について、日本人は欧米人に比べて抵抗感が少ないという調査結果があります。それは、すでに長い伝統があるからだと考えられています。近い将来、昆虫食文化の中心地として、長野県は世界的に注目を集めるでしょう。この伝統ある文化に誇りをもち、守り伝えていくことが大切です。
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Part.1 地図で読み解く長野の大地
・地形・地質総論「東西から圧縮されている長野」
・伊那山地と南アルプスを縦貫!日本最大の断層・中央構造線
・大地溝帯フォッサマグナとかつて信州が海だった証
・火山活動の歴史を物語る山容 八ヶ岳連峰の南北で大きな違い
・北アルプス唯一の活火山!焼岳の噴火と上高地盆地の形成
・天竜川と断層で形成された伊那谷の日本一の河岸段丘
・野尻湖のナウマンゾウ化石に旧石器人の生活が見える?
・千曲川沿いの段丘上に築かれ、急崖と川が守る上田城のすごさ
などなど長野のダイナミックな自然のポイントを解説。
Part.2 長野を駆け抜ける鉄道網
・高崎~長野の長野新幹線に始まり敦賀への延伸を目指す北陸新幹線
・66.7パーミルの勾配路線だった信越本線碓氷峠とは?
・東京と名古屋を結ぶ大幹線で山岳地帯を駆け抜ける中央本線
・明治期に開通し善光寺平と松本盆地を結ぶ篠ノ井線
・伊那谷やアルプスを望み旧型国電も走った飯田線
・県内最大の路線網を誇った、私鉄・長野電鉄の変遷
・別所温泉に向かう温泉電車、上田電鉄別所線の魅力
などなど長野ならではの鉄道事情を網羅。
Part.3 長野で動いた歴史の瞬間
・縄文遺跡の宝庫・信州は日本一の人口密度だった!?
・信濃の国は有数の馬産地! 都に名を馳せた望月の駒とは?
・弓馬に長けた信濃武士が源氏配下として平氏討伐
・信州の南北戦争と呼ばれる大塔合戦はどうして起きた?
・甲斐武田信玄vs越後の上杉謙信、二大英雄が激戦を演じた川中島
・流転した善光寺の本尊は天下人の元に安置された?
・松本の貞亨騒動や上田の宝暦騒動 信州で百姓一揆が続発したわけ
・松本城が直面した取り壊し危機 救ったのは松本の住民だった!
などなど、激動の長野の歴史に興味を惹きつける。
Part.4 長野で育まれた産業や文化
・江戸時代に整備された用水路 五郎兵衛用水路とは?
・信州の気候風土を生かした寒冷地農業のここがすごい!
・蚕糸王国として栄えた長野県が電気機械工業県に変貌したわけ
・明治期の外国人別荘に始まる軽井沢エリアのリゾート化
・洪水を繰り返してきた暴れ川、千曲川を巡る治水事業の全容
・日本三大奇祭に数えられる、諏訪大社の御柱祭の本質とは!?
などなど長野の発展の歩みをたどる。
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