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千曲川の歴史上最大の水害「戌の満水」(1742年)

いっぽうで、川幅が狭まる立ヶ花は大雨が降ると水が溜まり、昔から水害の多発する地域でした。2019(令和元)年10月の台風19号の被害も記憶に新しく残ります。千曲川最大の水災とされる1742(寛保2)年8月の「戌(いぬ)の満水」では、千曲川と支流は大洪水となり、山崩れなども引き起こしました。多くの村が壊滅し、死者は2800人に及んでいます。田畑も大きな被害を受けたため、松代藩の財政は困窮し、影響は明治まで続いたとされています。「善光寺平洪水水位標」(長野市)の洪水位の高さを見ると、その被害の甚大さがわかります。

千曲川の水害の歴史から大掛かりな改修工事がスタート

明治に入ってからも水災が続きますが、1910(明治43)年8月の洪水を契機に本格的な治水対策を求める声が高まります。1918(大正7)年、第1期千曲川改修事業がスタートし、旧堤(きゅうてい)が再築堤され、洪水調整に使われた不連続の霞堤(かすみてい)は連続堤防になったほか、多くの地区で旧堤の嵩上げや拡幅(かくふく)などを実施しました。支流が流入する地点では、逆流を防止する水門や樋門(ひもん)などの施設も整備されました。

千曲川の歴史と治水事業

1941(昭和16)年の完成までには23年の歳月を費やし、総工費は約1000万円(当時)に及びますが、千曲川は上田~ 立ヶ花の57.5㎞ 、飯山~上境の10㎞ 、犀川は両郡橋(長野市)~千曲川合流点の10㎞ が堤防で結ばれ、現在の千曲川の基礎が固まりました。
1949(昭和24)年には第2期改修工事が始まり、1965(昭和40)年には新しい河川法の制定により、堤防や多目的ダムなど治水、利水のための基本施設の建設が進められることとなりますが、いずれも工事の途中で大洪水に見舞われ堤防決壊の被害に遭うなど、改修事業は困難を極めました

千曲川の歴史は「暴れ川」から「地域との共存」という新章へ

千曲川流域の農家では、水害の影響が少ないエノキタケなどのキノコ類、桑園から転作したリンゴやブドウ、ワイン用ブドウ、サクランボ、台風前に収穫できるモモなどの栽培に取り組み、中野市などは全国有数の果樹産地に成長しました。また、水力発電(水力発電量全国3位、2019年度)や川魚の養殖などにも活用され、千曲川と地域との共存も図られています。

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長野県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。長野の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。地図を片手に、思わず行って確かめてみたくなる情報満載!

Part.1 地図で読み解く長野の大地

・地形・地質総論「東西から圧縮されている長野」
・伊那山地と南アルプスを縦貫!日本最大の断層・中央構造線
・大地溝帯フォッサマグナとかつて信州が海だった証
・火山活動の歴史を物語る山容 八ヶ岳連峰の南北で大きな違い
・北アルプス唯一の活火山!焼岳の噴火と上高地盆地の形成
・天竜川と断層で形成された伊那谷の日本一の河岸段丘
・野尻湖のナウマンゾウ化石に旧石器人の生活が見える?
・千曲川沿いの段丘上に築かれ、急崖と川が守る上田城のすごさ

などなど長野のダイナミックな自然のポイントを解説。

Part.2 長野を駆け抜ける鉄道網

・高崎~長野の長野新幹線に始まり敦賀への延伸を目指す北陸新幹線
・66.7パーミルの勾配路線だった信越本線碓氷峠とは?
・東京と名古屋を結ぶ大幹線で山岳地帯を駆け抜ける中央本線
・明治期に開通し善光寺平と松本盆地を結ぶ篠ノ井線
・伊那谷やアルプスを望み旧型国電も走った飯田線
・県内最大の路線網を誇った、私鉄・長野電鉄の変遷
・別所温泉に向かう温泉電車、上田電鉄別所線の魅力

などなど長野ならではの鉄道事情を網羅。

Part.3 長野で動いた歴史の瞬間

・縄文遺跡の宝庫・信州は日本一の人口密度だった!?
・信濃の国は有数の馬産地! 都に名を馳せた望月の駒とは?
・弓馬に長けた信濃武士が源氏配下として平氏討伐
・信州の南北戦争と呼ばれる大塔合戦はどうして起きた?
・甲斐武田信玄vs越後の上杉謙信、二大英雄が激戦を演じた川中島
・流転した善光寺の本尊は天下人の元に安置された?
・松本の貞亨騒動や上田の宝暦騒動 信州で百姓一揆が続発したわけ
・松本城が直面した取り壊し危機 救ったのは松本の住民だった!

などなど、激動の長野の歴史に興味を惹きつける。

Part.4 長野で育まれた産業や文化

・江戸時代に整備された用水路 五郎兵衛用水路とは?
・信州の気候風土を生かした寒冷地農業のここがすごい!
・蚕糸王国として栄えた長野県が電気機械工業県に変貌したわけ
・明治期の外国人別荘に始まる軽井沢エリアのリゾート化
・洪水を繰り返してきた暴れ川、千曲川を巡る治水事業の全容
・日本三大奇祭に数えられる、諏訪大社の御柱祭の本質とは!?

などなど長野の発展の歩みをたどる。

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