太田川放水路は必要不可欠だった
氾濫しやすい川と、洪水被害が拡大しやすい城下町を抱えた歴代藩主にとって、治水は大きな課題でした。1653(承応2)年には城側の堤防を2.4m高くし、対岸を低くして城を守る「水越の策」を採用。水の流れを弱めて堤防を守る「水制(すいせい)」や、水防出動の目安となる「量水標(りょうすいひょう)」を設置するなど、江戸時代だけでも約30回を数える洪水に対して数々の対策がとられています。
しかし、明治時代以降昭和初期までに7回の大洪水が発生。広島市が近代都市として発展するためには洪水対策が必要不可欠であり、流域住民からは太田川の本格的な改修が強く要望されていました。
大可川放水路の計画と遅延
1932(昭和7)年、帝国議会が太田川全流域の改修事業予算を了承。政府直轄の国営工事として、太田川改修事業が開始されることになりました。当時、広島市街地には、太田川の支流である7本の川(西から、山手川(やまてがわ)・福島川(ふくしまがわ)・天満川(てんまがわ)・太田川(本川(ほんかわ))・元安川(もとやすがわ)・京橋川(きょうばしがわ)・猿猴川(えんこうがわ))が流れていました。
計画の基本は、7本のうち西側の2本(山手川と福島川)を1本にまとめて太田川放水路を造ること。工事延長9.0km、浚渫(しゅんせつ)139万㎥、築堤169万㎥、家屋補償1800戸、工期21年という壮大な国家プロジェクトでしたが、戦時下ということもあり工事は遅滞。1944(昭和19)年には戦況悪化により、一時中断を余儀なくされました。
太田川放水路の工事は困難を乗り越え再開
1945(昭和20)年8月6日、原子爆弾の投下により広島市街地は焦土と化しました。その翌月には、多数の死者・行方不明者を出した枕崎台風が上陸。戦後の混乱もあり、太田川放水路の完成は困難かと思われました。
しかし国は計画を続行、1951(昭和26)年には本格的に工事が再開されました。枕崎台風で計画規模を超える計画高水流量を超える洪水が発生したことから、太田川放水路に流す水の量を改定。放水路の堤防を高くするほか川底を当初計画より深くするなど、計画にはいくつかの変更が加えられました。
昭和30年代に入ると現場に重機が導入され、掘削・築堤・護岸などの工事は順調に進みました。川の埋め立てに伴い、鉄道や路面電車のルートを一部変更。道路橋9橋と鉄道橋2橋の架け替え・新設も行われました。
太田川放水路以外の川の水量を大芝水門と祇園水門で調整
1961(昭和36)年、いよいよ大芝水門と祇園水門の工事に取りかかりました。この二つの水門は連動しており、派川(天満川・本川(旧太田川)・元安川・京橋川・猿猴川)に流れ込む水量を調整する役割を持っています。平時は大芝水門を全開にして派川に水を流し、洪水時は祇園水門を全開することで太田川放水路に水を流して市街地の川が氾濫するのを防ぐという仕組みです。
この水門の完成により広島市街地は、太田川との共存が可能となったのです。
太田川放水路が遂に完成
太田川放水路は1968(昭和43)年、概算事業費9600億円(2015年度換算)・着手から36年の歳月を経てようやく完成しました。広島の川は7本から6本になり、太田川の名称は放水路へ移行。従来の太田川は旧太田川(本川)と呼ばれるようになりました。
太田川放水路完成後、下流デルタ域で大規模な洪水被害は発生していません。
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