由良川の氾濫を防ぐ治水事業に挑んだ明智光秀
そんな水害多発地域で、約440年前に大規模な治水事業に挑んだ戦国武将がいました。1579年に丹波を平定した明智光秀です。
戦国時代の福知山は、但馬(たじま)・丹後・播磨(はりま)・山城への交通の分岐点に位置しました。明智光秀は戦略上の要衝を押さえるため、福知山城を築きます。
明智光秀が行った由良川治水工事とは
ところが、福知山城下は由良川と土師川(はぜかわ)が合流する地点で、たびたび氾濫していました。明智光秀は城下町を整備するにあたり、まず由良川の川ざらえと川筋の拡張を家臣に命じました。
さらに、福知山城に向かって流れる由良川に長さ約500mほどの堤を築き、川筋をほぼ直角に曲がるよう付け替えました。その堤には濁流の衝撃をやわらげる藪を設けたと伝えられています。水害対策を講じた明智光秀に敬意をこめて、この藪は「明智藪(あけちやぶ)」と呼ばれました。
現在に残る由良川治水工事の痕跡
ところが、1952年以降の堤防改修によってほとんどが消滅し、現在はかろうじて北端が残っている程度です。残された川沿いの雑木林は野鳥の営巣地にもなっており、有志が保存活動を続けています。
由良川の氾濫は治水工事後も多発し現在でも課題が残る
光秀の治水事業があっても川の氾濫は収まらず、福知山市では、1900年初頭から今日まで約110年間に最高水位5m超の洪水が17回も発生。そのたびに死者・負傷者、家屋の全壊・半壊などの被害を受けてきました。
氾濫が多発する理由は、川幅が狭く、勾配が緩いという福知山盆地特有の地形にあります。河口から約40㎞上流にあるにもかかわらず、福知山市の音無瀬橋(おとなせばし)の海抜は10mしかありません。上流からの水はこの流域で滞留しやすく、大雨になると堤防が決壊したのです。
同市では2014年8月にも集中豪雨により大規模な浸水被害が発生しており、現在もなお水害対策が地域の大きな課題となっています。
堤防が御神体の神社
福知山市の御霊神社は1705年、稲荷社に明智光秀の御霊を合祀したのがはじまりです。明智光秀が建設した堤防(明智藪)の恩恵に感謝し、水害のないまちを祈願する「堤防神社」が1984年に境内に建立されました。京都府神社庁は「堤防が御神体となっている神社は全国でもみられない」と紹介しています。
さらに神社の前にある御霊公園には、1953年9月に発生した水害の浸水位を示す看板が立っています。台風の影響で豪雨が続き、由良川が氾濫し、最高水位は7.8mを超えたといいます。その水害被害を後世に伝えるため設けられたのです。
『京都のトリセツ』好評発売中!
日本の各県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。京都の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載!
Part.1 地図で読み解く京都の大地
・京都府の4地形区と断層/京都盆地とその出入り口(逢坂と大山崎)
・琵琶湖疏水の秘密/洛中と洛外を隔てるおどい
・観光のメッカ東山の地形(地獄の入り口六道珍皇寺)
・失われた巨椋池/天橋立はなぜあのような地形になったのか
・舞鶴が重要港湾となった地形的な秘密
・霧のまち亀岡(亀岡盆地)
…などなど京都のダイナミックな自然のポイントを解説。
Part.2 京都を駆ける充実の交通網
・山城盆地を通る街道(東海道、中山道の終着地)
・若狭と京都を結ぶ「鯖街道」
・日本初の一般営業用電車が通った京都市電
・京都鉄道博物館
・梅小路
・京都の私鉄〇〇な阪急
・大赤字から復活した京都丹後鉄道
…などなど京都ならではの交通事情を網羅。
Part.3 京都の歴史を深読み!
・丹後に一大勢力が存在した証拠 三大古墳に埋葬された人々
・古代日本を支えた渡来人と京都の関係
・なぜ京都は都になったのか 恭仁京~平安京までの変
・南北朝動乱の始まり 笠置山の戦い
・信長、光秀、秀吉…みんな京都で死んだ
・幕末の騒乱の舞台となった京都
・近代化にいち早く着手!日本初の博覧会は京都の寺で開かれた
…などなど、激動の京都の歴史に興味を惹きつける。
Part.4 京都で育まれた産業や文化
・シンボル京都タワーと近代建築
・学問の都・京都の大学
・京料理とそれを支える伝統野菜
・「丹波」ブランドをめぐる攻防
・日本映画と京都
・「女酒」伏見の酒蔵
・王城の裏鬼門「男山」と岩清水八幡宮
…などなど京都の発展の歩みをたどる。
『京都のトリセツ』を購入するならこちら
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

まっぷるトラベルガイド編集部は、旅やおでかけが大好きな人間が集まっています。
皆様に旅やおでかけの楽しさ、その土地ならではの魅力をお伝えすることを目標に、スタッフ自らの体験や、旅のプロ・専門家への取材をもとにしたおすすめスポットや旅行プラン、旅行の予備知識など信頼できる情報を発信してまいります!