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【川越の小江戸としての歴史】川越の新田開発と新河岸川の整備
信綱は、農政の振興にも力を注ぎました。信綱が着目したのは武蔵野です。武蔵野とは、川越市南西部から東京都府中市に至る広大な洪積台地(こうせきだいち)で、台地ゆえに生活用水の確保が難しく水耕には不向きでした。
そこで、信綱は野火止用水(のびどめようすい)を開削し、開発地に玉川上水(たまがわじょうすい)を引水しました。そして川越南部の今福村など9カ村と、川越街道沿いの野火止新田(新座市)で大規模な新田開発を実施したのです。
【川越の小江戸としての歴史】川越~江戸の船運ルートが確立
また、信綱の事業として忘れてはならないのが新河岸川(しんかしがわ)の整備です。信綱はあえて新河岸川を蛇行させるように造成させました。これは、川の流れを滞らせて水かさを増すことで、大型の船も通行できるようにするためで、あまりに何度も屈曲していることから「九十九曲(くじゅうくま)がり」とも呼ばれました。
新河岸川は隅田川に接続し、これにより、江戸と川越を結ぶ船運ルートが確立しました。そして新河岸川の沿岸には川越の外港として機能する河岸場が数多く開設され、なかでも扇・上新河岸・下新河岸・牛子・寺尾の5カ所は「川越五河岸」と呼ばれ、物流の中心地となりました。新河岸川の舟運は、以降、およそ300年にわたって物流の主要ルートとして役立てられました。
利根川や荒川筋の河岸場分布
江戸時代、利根川や荒川水系に開設された河岸問屋を備える河岸場の分布図。埼玉県域では舟運が盛んで、なかでも新河岸川は江戸と小江戸・川越を結ぶ大動脈として機能しました。
川越の河岸場は1638(寛永15)年開設の寺尾のほか、上新河岸、下新河岸、牛子、扇の計5つありました。
【川越の小江戸としての歴史】「小江戸」と呼ばれるほど発展した川越
川越から江戸へは、米やサツマイモなどの農作物、材木類、そうめんなどが出荷されました。同時に、桐箪笥(たんす)などの地場産業が生まれ、川越に大きな富をもたらしました。ちなみに江戸からは、調度品や小間物、砂糖や酒といった加工品が多く運ばれました。
信綱の代には陸路の川越街道も整備され、川越はいわば江戸の衛星都市として発展していきます。江戸と人々の往来が盛んになると、文化の面でも江戸情緒の影響を受けるようになり、やがて川越は「小江戸(こえど)」と呼ばれるようになるのでした。
【川越の小江戸としての歴史】川越の再興で評価された松平信綱
晩年の信綱は、1657(明暦3)年に江戸で発生した「明暦の大火」の対応を任されますが、それは川越で発揮した手腕を評価されてのことでした。
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