利根川東遷事業に着手した徳川家康
この坂東太郎を御さなければ関東の発展はあり得ないと判断したのが、徳川家康でした。小田原征伐のあと、豊臣政権下で関東へと国替えされた家康は、早々に治水事業に着手しました。
利根川東遷で連結した渡良瀬川
まず、1594(文禄3)年、家康の四男で忍城主の松平忠吉(まつだいらただよし)が、忍領内の水害対策として会の川を締め切りました。二俣に分岐する南側を締め切ったことにより、東側の分流を渡良瀬川(わたらせがわ)へと連結させたのです。
利根川東遷で切り離された利根川と荒川
1603(慶長8)年、江戸に幕府を開いた家康は、家臣の伊奈忠次(いなただつぐ)を関東代官頭(だいかんがしら)(のちに関東郡代(ぐんだい))に任命し、利根川水系の河川開発を命じました。それは荒川を利根川から切り離し、利根川を東京湾から銚子へと大きく迂回させる一大事業でした。
利根川東遷事業の狙い
この利根川東遷(とうせん)事業は、江戸を水害から守ることが目的でした。利根川の治水に合わせて、周辺地域では新田開発も行われました。また、東北・北関東と江戸を結ぶ水上交通網を確立することも目的であったとされます。
さらには、初期の江戸幕府にとっては仙台藩の伊達(だて)氏が仮想敵国であったことから、利根川を江戸防衛の外堀として役立てるという軍事的な目的も加味されました。このように、利根川東遷と荒川西遷(利根川からの切り離し)は幕府にとってきわめて重要度の高いプロジェクトでした。
利根川東遷事業とともに進んだ荒川の治水事業
1621(元和2)年、伊奈氏(忠次の次男・忠治)の指揮の下、赤堀川(あかほりがわ)(鴻巣市)の開削が始まりました。1629(寛永6)年には荒川の西遷が完了し、かつての流路は現在の元荒川となり、荒川の下流は隅田川となりました。なお、「隅田川」が正式な名称として採用されたのは1965(昭和40)年のことで、江戸時代には「大川」と呼ばれていました。
利根川東遷事業が45年かけて遂に完成
1654(承応3)年、3度目の開削工事により、ようやく赤堀川を常陸川(ひたちがわ)へと流すことに成功。銚子(太平洋)から常陸川、赤堀川を遡行し、栗橋(久喜市)から権現堂川(ごんげんどうがわ)、江戸川へと至るルートが確立しました。
そして1666(寛文6)年、利根川と霞ヶ浦を連結する新利根川が開通し、江戸時代前期の利根川治水事業はひとまず完成するのでした。赤堀川の開削から、じつに45年の月日が流れていました。
荒川西遷と利根川東遷の概略図
江戸時代以前、利根川は埼玉県域を南下し東京湾へ注いでいました。また、支川の荒川も現在の元荒川筋を流れ、2本の河川は現在の埼玉県東部で合流し東京湾へ流れており、江戸周辺にたびたび水害をもたらしていました。
それを解消するべく、徳川幕府は2本の瀬替え(利根川東遷・荒川西遷)事業に着手。利根川が栗橋から関宿、佐原、銚子を経て太平洋に、荒川は熊谷市久下で締め切られて和田吉野川、市野川、入間川筋を本流とする流れに変わりました。なお、かつての荒川筋が現在の元荒川(越谷市内で中川に合流)、利根川のそれが大落古利根川(古利根川)です。
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