トップ > カルチャー >  関東 > 埼玉県 >

稲荷山古墳は埼玉古墳群にある県内最古の古墳

そのなかでも最初に造営されたのが稲荷山(いなりやま)古墳(行田市)です。古墳時代後期の5世紀頃に築かれた前方後円墳で、全長は約120mと県内でもトップクラスの大きさを誇っています。

前方後円墳とはヤマト王権の支配地域でのみ見られる形式の古墳ですが、では、稲荷山古墳に被葬されていたのはどのような人物だったのでしょうか。

稲荷山古墳で発見された貴重な考古学的資料

それを示唆するのが、1968(昭和43)年の発掘調査で後円部分から多量の埴輪とともに出土した一振りの鉄剣です。

のちの調査では、鉄剣には115文字の漢字が刻印され、金象嵌(きんぞうがん)(メッキ)が施されていることが判明しました。このため鉄剣は「金錯銘鉄剣(きんさくめいてっけん)」とも称されています。

鉄剣の銘文から読み解く埋葬者

115文字の金錯銘文は「辛亥(しんがい)年七月中記」から始まります。「辛亥年」とは471年のことで(531年とする説もある)、この年に鉄剣がつくられた経緯が記されています。

それによると「我がヲワケの家は8代にわたって大王に仕えてきたが、ワカタケル大王の天下統治を補佐したので、この刀をつくり来歴を記した」とあります。金錯銘鉄剣をつくらせたのは、この地域一帯を支配したヲワケ一族であることが読み取れます。

この銘文にある「ワカタケル大王」とは雄略(ゆうりゃく)天皇(第21代天皇)とする説が有力です。畿内におこったヤマト王権は、5世紀後半にはすでに北関東にまで勢力を伸ばし、その首長であるヲワケ一族を支配下に組み入れていたと推測されています。

さきたま古墳公園

住所
埼玉県行田市埼玉、渡柳、佐間、堤根地内
交通
JR高崎線行田駅から行田市内循環バス観光拠点循環コース左回りで15分、埼玉古墳公園前下車すぐ
料金
入園料=無料/さきたま史跡の博物館入館料=大人200円、高・大学・専門学校生100円/

稲荷山古墳が解き明かしたヤマト王権の勢力図

なお、1873(明治6)年には、江田船山(えたふなやま)古墳(熊本県玉名郡(たまなぐん)から銀象嵌の銘文が刻印された鉄剣が出土していましたが、一部の文字が判読不明でした。

それが稲荷山古墳の金錯銘鉄剣の銘文のおかげで推読可能になり、雄略天皇の治世下での支配領域が九州から関東にまでおよんでいたと推測されるようになったのです。

金錯銘鉄剣は古代日本の歴史を裏付ける貴重な史料で、「百年に一度の考古学的発見」との評価を受け、その学術的な価値から1983(昭和58)年には国宝に指定されました。

稲荷山古墳の出土品が展示される埼玉県立さきたま史跡の博物館

稲荷山古墳の出土品が展示される埼玉県立さきたま史跡の博物館

21世紀に入ってから金錯銘鉄剣の復元作業が進められ、紆余曲折の末、2013(平成25)年に完成。

復元された金錯銘鉄剣は埼玉県に寄贈され、現在は埼玉県立さきたま史跡の博物館(行田市)に保管されています。

埼玉県立さきたま史跡の博物館

住所
埼玉県行田市埼玉4834
交通
JR高崎線行田駅から行田市内循環バス観光拠点循環コースで25分、埼玉古墳公園下車すぐ
料金
大人200円、高・大学生100円、中学生以下無料(20名以上の団体は大人120円、高・大学生60円、障がい者手帳持参で本人と介護者1名無料)

『埼玉のトリセツ』好評発売中!

日本の各県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。埼玉県の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載!

『埼玉のトリセツ』●地図で読み解く埼玉の大地

八王子構造線が走る埼玉は西に山、東に低地の西高東低/地質・地形の見どころ満載!地球の窓、長瀞の大自然をゆく/クジラも泳ぐ古秩父湾が正方形状の秩父盆地になった!?/パレオパラドキシアに巨大ザメ、貴重な動物化石を秩父で産出!/海なし県なのに砂丘群の謎、中川低地に形成された河畔砂丘/入間川沿いで完全形化石も発見、日本固有種のアケボノソウって?・・などなど埼玉のダイナミックな自然のポイントを解説。

『埼玉のトリセツ』●埼玉を駆け抜ける鉄道網

国鉄・大宮工場に始まり鉄道の町に成熟した大宮/日光を巡る鉄道バトル、国鉄vs東武鉄道のゆくえ/東北新幹線の開通と埼京線敷設の苦難の歩み/埼玉ほか首都圏をぐるり、最強の貨物船・武蔵野線/西武新宿線は「新宿」ではなく国分寺~川越線で始まった!/「おとぎ列車」でSLも走っていた3駅2.8㎞、西武山口線の魅力・・などなど、意外と知られていない埼玉の鉄道トリビアを厳選してご紹介。

『埼玉のトリセツ』●埼玉で動いた歴史の瞬間

9基が現存するさきたま古墳群と稲荷山古墳で出土した鉄剣の意味/直径74mの巨大円墳・八幡山古墳が「関東の石舞台」と呼ばれるわけ/秩父で産出された同を使った日本初の流通貨幣、和同開珎/源頼朝による鎌倉幕府樹立と武蔵国を根拠地とした武蔵武士/太田道灌が長尾景春を討ち、難攻不落の鉢形城が遂に落城/江戸湾に注ぐ坂東太郎を東へ、利根川東遷と荒川西遷の大工事・・・などなど、興味深いネタに尽きない埼玉の歴史。知れば知るほど埼玉の歴史も面白い。

『埼玉のトリセツ』を購入するならこちら

リンク先での売上の一部が当サイトに還元される場合があります。
1 2

記事をシェア

※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

まっぷるトラベルガイド編集部は、旅やおでかけが大好きな人間が集まっています。
皆様に旅やおでかけの楽しさ、その土地ならではの魅力をお伝えすることを目標に、スタッフ自らの体験や、旅のプロ・専門家への取材をもとにしたおすすめスポットや旅行プラン、旅行の予備知識など信頼できる情報を発信してまいります!

エリア

トップ > カルチャー >  関東 > 埼玉県 >

この記事に関連するタグ