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筑豊炭田は日本最大の産炭地だった

日本が近代国家へと生まれ変わるためには、エネルギーとなる石炭が必要でした。そこで、豊富な石炭を埋蔵する遠賀川流域に注目が集まったのです。
明治時代中期から筑豊の出炭量は激増し、日本で産出する石炭の約半分は筑豊炭となりました。筑豊炭は国内へはもちろん、若松・門司両港を経由して海外にも輸出されて需要が拡大したことで、筑豊炭田は日本最大の産炭地に成長しました。

昭和15年ごろの福岡内炭鉱分布

石炭の発見は九州がもっとも早く、文明元(1469)年に三池稲荷山で農夫が発見したといわれています。筑豊では文明10(1478)年には燃える石を発見したという伝承があります。広く燃料として使われはじめたのは元禄4(1691)年頃からといわれています。

昭和15年ごろの福岡内炭鉱分布
『最盛期の筑豊炭田主要炭鉱分布図 昭和15年頃(筑豊石炭礦業史年表)』を基に作成

筑豊炭田の特徴

日本列島における産炭地は偏在していて、北海道と本州の一部(常磐・宇部・大嶺など)および北部九州に集中しています。各炭田は炭鉱という同一の背景をもちながら、それぞれに特徴があります。
筑豊炭田の大きな特徴は、内陸部の産炭地ということです。このため筑豊では、炭鉱と駅や港を結ぶ鉄路が網の目のように敷設され、炭鉱住宅が水平方向に広がって、昭和に入るとボタ山が各地で屹立(きつりつ)するという、独特のヤマの景観を呈しています。釧路炭田(北海道)、三池炭田(福岡県)、西彼杵(にしそのぎ)炭田(長崎県)のような海浜沿いや島の炭鉱では、ボタは海に廃棄され、炭鉱から船舶までの距離が短いため、ボタ山や鉄道網は見られません。

筑豊炭田はさまざまな企業の炭鉱が密集

また筑豊炭田は炭鉱資本のあり方が特徴的です。三池は大手企業1社のみ、北海道はほぼ大手企業のみ、常磐炭田(福島~茨城県)と宇部炭田(山口県)は、地場資本が中心ですが、筑豊では大手企業に加えて地場資本が成長し、さらには中小の炭鉱もひしめき合っています。各地から筑豊に集った多くの人々による種々の炭鉱が、莫大な出炭量を支えたのです。

筑豊炭田が消滅するに至った経緯

明治末期、伊田竪坑(いたたてこう)にみる深部竪坑の完成は筑豊炭田の繁栄を約束したかに見えましたが、第一次世界大戦後の不況や続く昭和恐慌により、筑豊の各炭鉱は合理化を余儀なくされました。長壁採炭の普及に伴う切羽機械化を始め、この時期の筑豊では大手炭鉱を中心に作業能率の向上を図っています。

昭和15(1940)年、戦時増産体制により、筑豊は2049万トン(全国の約36%)という史上最高記録を達成しますが、戦争が激化すると出炭量は激減。戦後、傾斜生産方式や朝鮮戦争特需により昭和26(1951)年には戦前の水準に回復しましたが、1950年代後半からのエネルギー革命や石炭不況によって、筑豊の炭鉱は軒並み閉山。昭和48(1973)年に貝島大之浦炭鉱で坑内掘りが終焉となって、昭和51(1976)年に同鉱の露天掘りも終わると、筑豊炭田は消滅しました。

筑豊炭田の記憶は今後も語り継がれるべき貴重な財産

閉山後約半世紀が過ぎた現在、北海道や三池に比べて閉山が早い筑豊では、炭鉱経験者の高齢化も進行し、風景も一変して、当時の炭鉱の面影が失われつつあります。しかしながら、我が国最大の産炭地として発展し、多くの人々が炭鉱と関わった筑豊では、重厚な炭鉱の歴史と豊潤なヤマの文化が、今も息づいています。とりわけ「あんまり煙突が高いので」と歌われる炭坑節は全国的に有名で、発祥の地である田川市にはモデルとなった二本煙突が現存します。

ヤマの記憶は、経験者の口からのみ語られるのではなく、関連する文化財も当時の記憶を今に伝えます。近年、筑豊では近代の文化財に高い関心が寄せられており、旧伊藤傳右ェ門氏庭園や筑豊炭田遺跡群が国指定文化財となっただけでなく、山本作兵衛コレクションは、日本で初めて、ユネスコ世界の記憶(世界記憶遺産)へ登録されました。筑豊炭田の歴史と文化は、国内外から大きな評価を得るまでとなりました。多くの人々が関わり、数々のドラマを生み出した筑豊炭田。石炭産業を失った現在、炭鉱の歴史と文化をどう伝えていくのか。筑豊では、新たな局面を迎えています。

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